第38話 昼食では終わらない
「まったく。困ったものですわ。夢前学園長にも、あなたなにも……配慮が足りませんわ」
事故という名の不幸な出来事があったあと、『フェアリーズ』という洋服店(あとあと確認したら、そんな名前の店だった)から出て来た女性陣と合流して僕達はまた適当に歩くことにした。
「出る言葉もありません……」
閣利沢さんはさっきのことに腹を立てているのか、ご機嫌は斜めだ。
一瞬とは言え、凝視してしまったのは紛れもない事実だ。それを踏まえると何も言えなくなる。
今日の反省点だ。
「にゃはは。でも、勝負下着みたいだからだいじょ」「そういう問題ではないですわよ!?別に勝負下着とは決まってないですけどねっ!」「にゃはは」
見せてもいいものでもないかもだけど、そんなに声を張り上げなくても……周りの視線が痛い。
「あはは……大変だったみたいだね」
その光景を他人事のように(実際他人事だが)苦笑する綾未さんだが、どうしてだろうか……心なしか距離がちょっとばかし遠い気が。気のせいならいいのだけど。
携帯を取り出して時間を見ると、12時を当に過ぎてお昼だった。
「もうお昼ですし、ここらで食事でもしませんか?」
思い立ったが吉日とも言うし、とりあえず提案してみる。
「そうですわね。ちょうどいい頃合いかもですわ」
「賛成~♪」
「右に同じってことで」
満場一致と言うことで、休憩がてらお昼にして、通りがかった飲食店へと入ることにした。
入った店はどうやらファミリーレストランのようで、割と広く、お客さんも結構いて商売繁盛って感じだ。
店員に案内され、禁煙席に四人座る。
窓側には綾未さんが座り、隣に僕が座る。反対席にはのえるさんが窓側で、その隣には閣利沢さんが着座する。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
お辞儀して裏へ下がるウエイトレスさんを見送ってからメニュー一覧表を覗き込む。
さすがファミレスなだけあって、色々な種類があるな。どれにしようか迷ってしまう。
「わたしオムライス!」
「ワタクシはシーフードパスタを」
「僕はハンバーグ定食にしようかな」
ものの数分、それぞれがどれにするか決めていた。
綾未さんを除いては。
「まーるんはどれにする?」
「え、えっとですね……」
「ゆっくりでいいからね。綾未さん」
「あ、うん……」
どうやら、どれにするか決めあぐねているようだ。
僕の妹も、妹分の沙奈も、結構選ぶのに時間掛けるんだよね。見ていると微笑ましくて頬が緩んでつい笑ってしまうんだ。そういうのも、お出掛けの楽しみのひとつだと思う。
「焦れったいですわね」「はうっ」「どれか食べたいものはありますの?」
イライラしながらも優しく問い掛ける閣利沢さんの様は、まるで姉のように接しているようである。
そんな様子がまたギャップで面白い。もちろん、いい意味で。
「えと、その……これとこれ、どっちにしようかと迷ってまして……はい」
「それならこっちはどうです?季節限定ですし、風流かと思われますけど」
「……。はい。では、それにします」
「決定ですわね。ウエイトレスさん」
ちょうど近くを通ったウエイトレスさんを呼び止め、それぞれ注文の品の名を読み上げる。
「──以上でよろしかったですね?では、出来上がり次第持って来ますので、お待ちください」
注文の品の名を復唱してから去って行く。
僕は置かれたお冷やを一口飲み、渇いたのどを潤す。
「今から飲んでいると、あとが辛いですわよ」
「そうですね。気を付けます」
閣利沢さんから注意を促され、僕は水を飲むを控えた。
しばらくして頼んだ品が運ばれて来て、僕達は全員が食べ終わるまで談笑を楽しんだ。
これまでぎこちなかったものが少しは軽くなってから、僕らはお店を出た。
言わずもがな。僕は当然として、半分はのえるさんが支払った。
「一応保護者だし、これくらいは出すよ」
そう言ってさっと出して来たのえるさんを、大人だと思った瞬間だった。




