第16話 デートでは終わらない
午前は妹分の相手をして時間を潰してから駅へ向かった。
時間は12時50分弱。待ち合わせの時間まではまだ少しある。
なんだかんだで楽しみにしてる僕がいたりいなかったり。だって女の子とお出掛けなんて身内以外とはいつものメンバーぐらいなもんだし、彩調さんといると気分が明るくなって楽しいしね。
これってデート?って浮かれたことは心の中に留めて置くとして、女の子と出掛けることには違いないのだから、少しははしゃいでもいいよねなんて思ったり思わなかったり。それはちょっと子供っほいかな?なんて――
「僕は何をしてるんだ」
今日はなんかテンションが変に高い気がするぞ。これじゃあ僕の一人相撲になってしまう。
駅前に着いたが、まだそこには彩調さんの姿はなく、僕らと同じように待ち合わせをしている者や暇を持て余してる人達がいた。
ちょっとだけ来るの早かったかな。
そんなことを思ってしまった。
でも遅刻して相手を待たせるよりはずっといい。
「そうだよ。うん」
一人頷く。
「ごめーん。待った?」
待つこと数分。彩調さんは少し遅れて来た。
僕を見掛けるなり走って来る辺り、好感が持てる。何故ならその気遣いが嬉しいからだ。
「ううん。今来たばかりだから平気だよ」
「えへへ。そかそか」
照れた様子で笑う彩調さん。
夏が近いからだろうか。キャミソールに短パン、ニーソックスという出で立ちの彩調さんである。似合っていてかわいい。あと、頭に乗っかっている帽子もかわいさを醸し出していて似合っていらっしゃる。
「ん?どったの時峰君」
「いや、似合っててかわいいなって思って」
「うわ、時峰君のドストライクな台詞来たよ。こっ恥ずかしいな」
「あ、いや……本音言ったつもりだから問題ないかなって。いやなら言うのやめるよ」
「別にいいって。言ってくれた方が嬉しいしね。いやってことはないから安心して」
笑い、明るく言ってくれる彩調さん。
少しときめいてしまった。このことは心の箪笥に閉まっておこう。
「そっか。ありがとう」
僕は微笑み返す。
「じゃ、行こっか」
「うん――て、えっ」
「青春は待ってくれないよ~っ。あはは♪」
僕は彩調さんに手を引かれ、ショッピングモールへ向かった。
モールは駅の中の二階に出来ていて、大抵のことならそこで済む。
衣類、食べ物、小物や他にも様々な店があり、駅を使用する人、主に学生なんかには打ってつけだ。
「どこ見る?」
「僕はどこでも」
「どこでもいいとかなんでもいいが一番困るんだよ~?」
「ごめん。僕は彩調さんが行きたい場所でいいよ」
僕はほとんど無計画で来たんだ。誘ったのは僕だけど、こればっかりはね。
「ならあそこかな」
彩調さんが指差したのは、レディース専門の洋服店だ。
そこは前に一度だけ妹分と行ったことがあるが、見事に女性客しかいなかった。
そして男の僕が異質な空気を醸していたのはよく覚えている。
そして今度も僕一人だけ男、と。
彩調さんに手を引かれて店に入ると、そこには多種多彩な服が並んでいた。
「見て見て」
僕はあまり不審に思われないようにしながら店内に入ると、彩調さんは早速なにかを持って来たようだった
「ん、なに――ぶっ」
僕は噴いた。
「どうかな?似合う?」
「……どうって…」
僕は困る。
だってそれ、ブラじゃん。しかもフリルいっぱいの。
「あ。じゃあこれは?」
そして次に取り出したのは透け透けで魅惑的なベビードールだった。
「それを僕に見せてどうすると…」
「あ、時峰君、着てみる?」
「着るかっ」
「あはは」
心臓に悪い冗談はよしてください。
「んと、ね~……」
そしてまた模索しに店内を彷徨く彩調さん。
僕は溜め息を一つ吐いて辺りを見回す。
そういえば、下着もあったんだ。
僕は思い出して苦笑いをする。
たくさんの服の中で、一つだけ僕は気になったものがあった。
「……お土産もたまにはいいかな」
僕は妹の顔を思い浮かべる。
病室で寂しげにたたずむ、実の妹の顔を。
「貫司、早くしなさいよ」
「水無月さん、別にお店は逃げたりしませんから。もう少し落ち着きましょう」
「私が落ち着いてないって言うの?」
「あ、いえ……」
「まあいいわ。この店に入るわよ。男子と服選び、これもデートの醍醐味よね」
「そうですね。わかりました。腹を決めます」
「……あんたねぇ…。ま、とりあえず入りましょう」
「はい」
という会話が入り口から聞こえて来た。
カップルなのか、デートという言葉が聞こえた。
見ると、人のよさそうな僕と同い年くらいの少年と、少し気の強そうな少女の二人組だった。
少年は少女に振り回されているのか、少女に一々糾弾され、それに対して穏やかな物腰で対応している。
どうやらあれがデフォルトらしい。
お似合いだなと思った。
僕もなんでも言い合える相手がほしいと思う。
「……」
少年と目が合った。
少年は会釈をしたので、僕もそれに返す。
「ちょっとどいて」
誰かが僕の肩を押した。
さっきの少年といた少女だった。
「あ、ごめんなさい。ちょっと、水無月さんっ」
わざわざ少年が近くに来て謝ってくれた。
どうやら少女の方、水無月と呼ばれた女の子は傍若無人な性格みたいだ。
「あんたは待ってて。ちょっと試着して来るから」
「……あ、ちょっと!」
少女はそのまま数着か手にした服を持って試着室へ入って行った。
「本当にごめんなさい。でも根はいい人なんです。ですから許してあげてください」
「いや、大丈夫ですから。そんなに謝らないでくださいよ」
僕の方が萎縮してしまう。
本当にいい人なんだなと少年の方を見て思う。
「ありがとうございます。あ、もしよかったらこれを」
そう言って少年は懐からなにか紙を取り出す。
「えっと…」
「先程のお詫びってことで貰ってください。今はこんな物しかないですけど」
僕に手渡す少年は見事なスマイルだった。
その紙、正方形の物を受け取り見ると、【メイド喫茶チェリーシフト】と書かれてあった。
「それ、そこの店のフリーチケットです。初めての方にサービスしてますから、是非に来てください」
少年の言い方はその店のオーナーなような、そんな言い回しだった。
「あ、ありがとうございます」
「はい」
僕はそれを仕舞う。
やっぱり少年はいいスマイルだった。
「あ、僕は神成貫司って言います。以後、お見知り置きを」
「僕は時峰悠人です。よろしくです」
手を差し出して来たのでつい握ってしまった。いや、別にいいんだけど。
「貫司さんも大変ですね」
「ええ。でもこれは好きでやってることですから」
素直にすごいと思える台詞だった。
「好きで、ですか」
「はい。僕は今まであまり苦労せずに生きて来ました。でも、あの人といると、なぜか上手くいかない時があって、それがとても嬉しいんです。変だと思うかも知れないんですがね」
「いえ、そんな……」
少年は続ける。
「だからですかね。あの人といると、とても楽しいんです。僕にないものを持ってて……それがすごく輝いていて。僕は今がとても充実してるんです」
僕は感動した。
ただ振り回されてるだけかとも思ったけど、そうではなく、それを純粋に楽しんでもいる。
僕はそれが羨ましいと思った。僕にないものだから。
「すみません。あまり楽しくない話でしたね」
「……いえ。とても感動しました」
僕がそう答えると、貫司さんは目を開き、優しく微笑んだ。
「ありがとう」
「時峰君、どこ?」
「悠人さん、呼ばれてますよ」
「貫司、ちょっと来なさい!」
「貫司さんこそ」
互いに顔を見合わせる。
「「では、これで」」
声が重なった瞬間だった。
それから色々な所を回った。
フード店、お菓子屋、ゲームセンター、本屋、アイスクリームが美味しいという店など様々に。
そしてわかれの時間だった。
「今日は楽しかったよ。ありがとうね。時峰君」
「あ、いや。こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」
今日は充実した一日だった。
新しい友達とも言える尊敬できる人と出会ったし、気分転換もできた。
僕としては充実という言葉以外思い浮かばないくらいだ。
「また誘ってね」
「うん。機会があったらね」
「次こそ添い遂げるぞ」
「うん。――て、展開早いしそもそも付き合ってすらいないでしょうが僕ら」
なに言うと思ったらこれだ。
本当に心臓がわるい。
「じゃあ、付き合って……みる?」
「――え」
その表情はどこか、真剣だった。
僕はいきなりのことで固まり、言葉声を出せないでいた。
「――あはは。冗談だよ。冗談」
真剣な雰囲気から一気に軽くなる。
「……そ、そっか。冗談か。もう、からかわないでくれよ」
「……うん。冗談だよ」
少しだけ本気にしてしまった。
彩調さん、普通にかわいいのだから、告白染みたことを言われれば勘違いもしてしまう。
「じゃあね、ばいばい。……冗談だったらいいのにね」
「うん。さよなら」
なにか言ったような気がしたが、僕の耳には届かなかった。
まぁ、なんでもないだろう。
僕は家路に着き、明日からも頑張ろうと気合いを入れた。
恋愛フラグ上昇中!のキャラを混ぜ込んでみました(笑
ただの気まぐれオリジナルキャラとして見てくれて構わないです。