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ハーレムエンドでは終わらない  作者: 宛 幸
イベントが始まる前の準備期間のようなもの
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第12話 密室なだけでは終わらない

 放課後になり、僕と後輩の華妃野さんは体育用具室に道具を取りに来ていた。

 会長の言い付けでタイムウォッチを持って来るように言われた。ついでに整備もと言われた。

 それは体育委員の仕事なのだが、別の仕事で今週中にやらなければならない道具整備ができなくなったそうだ。だから代わりに会長が引き受け、雑用である僕と書記の華妃野さんが任されたのだ。

 タイムウォッチは会長が私用で使うらしく、陸上部が使ってる物を借りるらしい。なにやらトラブルがあって、今は使ってないらしい。

 一体、なにに使うのだか。

「先輩先輩」

「ん、なにかな?」

 僕はサッカーボールの数と状態を確かめながら返事をする。

「今、密室の中、二人っ切りですね」

「その言い方されるとなんか不安になるけど……そうだね」

「というわけで、マッド運動しましょうっ」

 何がというわけなのかがわからない。

「意味わからないから。早く終わらせて戻ろうよ」

 地味なことは好きな方だが、こういう空間はあまりいたくない。過去にいい思い出があまりないのだ。

「……先輩。私、マッド運動がしたいです」

「僕はしたくないかな」

 大抵ろくなことにならないから。こういう場合は。

「先輩、つれないです」

「僕はね、こういうシチュエーションの時、必ず何かがありそうでいやなんだよ」

 例えば見回りに来た先生が中を確認せず誰もいないと思って鍵を閉めて行くとか。


 ――ガチャリ


何か鍵がかかったような、そんな音かした。

『誰だ、まったく。気が弛んでるとしか思えんな』

 体育の先生の野太い声が聞こえた。

「……ありましたね。なにか…」

「……え、ちょっとっ!?」

 僕は扉を開けようとしたが、鍵がかかって開かない。

「……そ、そんな」

 なんでこうも予測が当たるんだ。

「まあいいじゃないですか。この状況を楽しみましょうよ」

「……気楽だな…華妃野さんは」

 薄暗い中、僕と華妃野さんの二人切りの密室と化した。

 鍵は錠になっている為、外側からしか開けることができない。

「だって先輩と一緒なんですもん。しかも二人っ切りです。これが嬉しくないわけですよっ」

 明るい声の華妃野さんは、僕の不安な心を少しだけ和らげた。

「このシチュ、美味しいです。さっそくマッドの上で男女二人が行う運動をしましょうっ」

 目をわくわくてかてかさせる華妃野さん。

 僕は不安の代わりに寒気を覚えた。

「どうしてこの展開でそうなるのかは、わからないけど、どうやってこの状況を打破するかを考えようよ」

「あ、それは大丈夫だと思います」

「え、どうして?」

 そこまではっきり言うには、何か根拠とかあるのだろうか。

「会長がここに寄越したのだから、きっと誰か来るでしょうっ」

 てことは、根拠はないってことね。

「まぁ、スペアの鍵は手元にあるし、時間が長くなれば誰か来る可能性もなくはないかな。帰りが遅くなるのだから、おかしいと思うかも知れない。元々会長が引き受けた頼みなんだから」

 捜しに来るだろうしね。来なかったら……自力で開けるしかなくなるだろう。

「それより、終わらせておこう。事態が事態でも、やることは終わらせておけば文句の付けようのないし。むしろこっちが文句をつけやすくなる」

「……先輩、なんかせこい」

「うるさい」

「でもそんな先輩も大好きですっ」

「はいはい。ありがとうね」

 僕は口を動かしながらも道具の確認をする。

「つれない先輩も大好きですっ」

「……はぁ」

 華妃野さんもなんだかんだで仕事をこなすから始末に負えない。

 溜め息の一つも出る。

「僕はなにをやってるんだろ…」

「え、何か言いましたか、先輩?」

「ん、いや……て、おいっ」

 華妃野さんが調べていた棚の上の方のダンボールが落ちそうに……て、落ちたっ。

「ほえ?」

「危ない!」

「わ、わっ!?」

 僕は華妃野さんの腕を引いて引き寄せる。

「て、おわっ?」

 勢い余って倒れてしまう。

「……あたた…」

「……ん、あ…」

「……大丈夫?華妃野さん」

「…………先輩?」

 華妃野さんが身体を起こすと、僕を馬乗りした状態になる。

 見たようすだと、どこもわるくなさそうだ。

「うん。華妃野さんの先輩ではあるけれど」

「……あ、えと……ありがとうございます」

「うん。できれば退いてほしいのだけど」

「……え、……あ」

 今気付いたか。でもこれで降りて……

「……て、華妃野さん?」

「……先輩の上に乗って……しかもマウントポジ…………ふふ」

 ……なんかぶつぶつ呟いてる華妃野さんの顔が赤い。

「……は、華妃野さん?」

「先輩っ!」

「あっ、はいっ?!」

 勢いで変に返事してしまった。

「……せん、ぱい…」

「……え、なに…かな?」

 華妃野さんが顔を近付けて来る。

 頬が蒸気してほんのり赤い。

 僕は段々と近付く華妃野さんの顔を退けることができない。華妃野さんが乗っているから。

「……先輩」

「……ちょ、華妃野さん…」

「……」

 真剣な顔な華妃野さん。

 僕は戸惑いながらも対応する。

「……いいよ」

「……へ」

「……いいよ。好きにしたら?」

「…………でも」

「したいこと、すればいいよ。僕が……受け止める」

「……う」

 これは早とちりでも勘違いでも早まったことでもない。僕は言える。

「華妃野さん……君は――」


 ――ガチャリ


 施錠が開く音がした。

 どうやら誰かが気づいて駆け付けてくれたようだ。

「開いたみたいだよ。行こうか。華妃野さん」

「………………はい」

 僕と華妃野さんは通りかかった陸上部の人に助けてもらって用具室から出た。

 華妃野さん、君は……寂しそうな目をしていた。

 昔の僕や、僕の妹みたいな……寂しい目。

 家族や友達はいるのに、どこか一人でいるような……そんな。

 だからだろうか。僕は華妃野さんのことを。

 ……ん?そういえば、

「用具室に、なんでサッカーボールなんかあったんだろう?普通は倉庫にあるでしょ」

 ま、いっか。気にするだけ無駄かな。

「先輩!」

「うん。今行く」

 さて、生徒会に一旦戻るかな。

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