第11話 訪問だけでは終わらない
今日も今日とて生徒会で仕事をしに来ていた。
雑用は仕事内容が地味だが、結構やれば面白いかも知れないと最近思っている。
それは会長達のおもちゃであることを除けば、ではあるが。
「少年、ちょっと揉んでくれないか?胸が苦しいのだ」
「あ、それは私の役目ですっ」
「それは私に対してか?桃香」
「違います!私の愛は悠人さんだけのものですっ!会長にはひと欠片も愛なんてあげませんよっ」
「私ならいつでもオープンマイハートなんだがな」
「私は悠人さんだけに心を開いているんです」
「それは残念だ」
なんだかな。会長が口開けば副会長が対抗し、そしてさらに会長が口火を入れる。
それがループして会長が折れる。
「さぁ、胸を思い切り好きなだけ揉みしだくがいい」
「会長っ。それは私の役目ですっ!」
折れたと思ったらまた油を投下する。そして副会長が反抗して……と、切りがないな。
「いい加減にしてくださいよ。口より手を――」
「胸に当てて揉めばいいのか?少年はなかなかいい趣味してるな」
「動かして……て変に話を曲解しないでくださいよっ」
「悠人さん……揉むなら私の胸をお好きなだけ揉んでくださいっ。私の愛は無限大です!」
「副会長も話に乗らないでくださいっ。それと意味がわかりません」
僕が口を開けば会長のいいようにされ、黙っていればそれで好きなこと言い出すし……本当切りがないよ。
「私も桃香もちゃんと仕事はこなしているから問題はないぞ。少年」
話してる内容が問題なんですってば……。
僕は呆れ返して突っ伏す。
――コン、コン
ノックされ、扉が開く。
「失礼します」
入って来たのは知らない人だった。
「風紀取締委員の西田です。今日は会長に用事があってこちらから出迎えさせてもらった次第です」
なかなかに丁寧な物腰だった。
どこぞの会長より高ポイントな印象だ。
「ほう…。私にはないがな。用事はな」
「私にはあります。今日こそ会議内容をまとめたものを提出もらいます」
「してるだろう」
「本当のことを記述していただきたいのです。あんなハレンチで校内の風紀を乱すような内容はこちらが看過できるはずがありません」
「ちゃんと会議の内容をそのまま出したはずだけどな。一字一句間違えずにな」
「そんなはずありませんっ。会長、あなたは信用に欠けます」
……えっと、
「どういうこと?」
「そういえば悠人さんご存知ないんですね。彼女は一年生の西田さんで、この学園を取り締まる、風紀取締委員の委員長をやっています。といっても、人数はあまりいないんですけどね。それで、主な仕事は校内の風紀の取り締まりで、各委員会・部活、校内の様子を見回してちゃんと規則に準じているか、異常がないかを確かめたり、生徒が行うイベントや会議に不正などがないか活動報告を提出させて確認を取るなどもしています」
「……は~」
僕の疑問を丁寧に説明してくれた副会長。
けど思ったことがある。風紀取締委員の活動内容はわかったけど……それって、生徒会と大して変わらないのでは?
「というか、風紀取締委員って、ぶっちゃけいらないんじゃ……」
「……なんですって?あなた、今なんて仰いました?我々、風紀取締委員会がいらないですって?生徒会と役割が丸被りで役に立たないと、そう仰いたいのですね?」
そこまでは言ってない。
「いいですか。あなたは転校して来て日は浅いからまだ知らないようだから言いますけど、生徒会が全校を取り締まる分、行き届かない所や生徒会が対処しきれない風紀の問題を取り締まるのが私たち、風紀取締委員会なんです。ですから、私たちは必要な委員会なんです。わかりました?」
「……う、うん。わかった」
「それに、生徒会の面子がこれでは、校内を安心して出回ることができません。というかぶっちゃけ心配です」
それは同意だな……。
「すごいな…」
「へ?」
「いや、単純に考えていたけど、よくよく考えてみると、大事な部分を補っているんだね、風紀取締委員は」
「……そ、そうですね」
「一見、聞いてるだけだと生徒会の補佐役だと思ってしまうけど、実際にやるときっと、違うとこが出て来るんだろうね。それに、会長相手にびしっと言える西田さんもすごいよね。こう、凛としていて、やることやって、それでいて真面目で大変なことでもやってのけてしまうのだろうね。しかも一年生なんだよね?どこぞの誰かに爪の垢飲ませてやりたいくらい。尊敬しちゃうな、本当」
僕にはできるかわからない…というか、できないよ。僕、そこまで責任感ないし真面目でもないし。
「………………あ、ありがとうございます。えと、悠人……さん」
「うん。どういたしまして」
「……あ、わ、私はこれで失礼します」
出て行く時もお辞儀を忘れない西田さん。
本当、一年生でいるのが勿体ない気がするよ。
「西田の滅多に見られないショットが見れて私はとても気分がいい」
「……は、悠人さんが西田さんをあんなに……はうっ。私ではダメなんでしょうかっ。いえ、そんなはずは……っ」
そういえば、なんで西田さんあんなに顔赤くしていたんだろう?
緊張?でもないか。最初はあんなにハキハキしてたんだから。風邪という線も消える。
「少年が話を反らしてくれて助かったよ。見事な演説っぷりだった。」
「え?あー……西田さんの仕事を邪魔してわるかったな……今度謝っておこう」
「それは大丈夫だろうと思うがな。ま、今日はお開きといこうかな。いいものも見れたことだしな」
「はい?……まぁ、お疲れ様でした」
せっかく出向いてくれたのに、なんだか西田さんにわるいことしたよな、本当。
謝るのは今度にして、なんかお開きみたいだから僕も帰ろうかな。
そのあと宿直で生徒会室を訪れた先生がぶつぶつ言っている副会長を見付けたのはその日の深夜の出来事だった。