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鋼の学園にて

西暦2100年代、地球は荒んでいる。幾度もの戦争が、文明を焼いた。

街は燃え、森は枯れ、そして人は、死んでいった。

数え切れるほどにまで減少した国家郡は、次第に統合し、一つの国となった。

しかし、戦争の火種は、未だ潰えようとはしなかった。

ひっそりと、その芽を出そうとしているのだ。

人々の心の願いは、ただ戦争が終わること以外にはなかった。

そのために「鋼兵」は産まれ、国家は、それを身代わりとした。

つまり、人ではなく、「鋼兵」による戦いを生み出したのであった。

国家郡は、「鋼兵」による「大会」を催し、そうしてお互いの権利を

受け入れていったのである。それにより、世界から「戦争」は消えた。

兵士でさえも、その役割を終えようとしていた。

しかし、「平和」とは、未だに程遠かった。「鋼兵」はその乗り手を求めた。

人は、その乗り手となりたがった。栄誉が欲しかったからだ。

その乗り手たちは「乗るもの」と呼ばれた。そして、戦っていった。

やがて、人々はそれを「MW(メタルウォリアー)」と呼んだ。


そうした流れは、時代となって今となる。

人は、未だ戦いの荒波からは抜け出せてはいなかった


春。未だに寒気が残り、今年は咲かないと思われた桜は、思った以上に

花をつけた。春は、何気に人の心の拠所でさえあろうとしていた。

しかし、そんな春であればこそ、乱れは産まれていくのだ。


ラサキアは、かつてのヨーロッパはギリシャがあった場所に存在する。

この国は、かつての戦争で国としての力を失ったギリシャ、イタリア、

キプロス、といった国家が統合し、産まれた国家であった。

しかし、それでも国家としての力は乏しく、唯一持っていた力は、

MWの製造技術だけであった。旧世紀、ギリシャは強烈なインフレに陥り、

国として機能するかさえもが危ぶまれていたが、かろうじて、その危機を

乗り越えた。やがて、ギリシャの工業技術は急速な発展を遂げ、いつしか

人型ロボットのシェア第一位となるほどまで登りつめた。

原因は、日本がある程度の技術提供をしたということにある。

ギリシャは、かつて神話を生み出したその力で、国を立て直した。

その技術によって、今ようやく生き延びられているのだ。


そのラサキアに、軍が新しくMW専門高校を設立したのは、つい最近の話だった。

人材という資源が失われつつあるラサキアで、MWに関する知識を学ばせようと

いうのが目的だった。技術はあっても、継ぐ者がいなければ形骸でしかない。

ラサキア鉄機学園-全ての物語はここから始まりを告げる。


揚揚とした春の日差しの中、ラサキア鉄機学園では、入学式が行われていた。

集う人影の中に、レント・ムカイその人もいた。彼は、この入学式に退屈な

表情を浮かべていた。何の変哲もない校長のスピーチ、ひねりもない校歌、

そして生徒の期待と不安に満ちた顔。面白みに欠ける。見飽きた。

そんな感情がレントにあった。彼自身、常々何か新しいことを考えて

生きるという妙な性分であるし、そのうえ人は容姿でさえも「可笑しい」の

だという。何が可笑しいかといえば、それは、彼は男ではあるのに、

「女」の様にも見えるほど「色気がある」のだというのだ。

早速、編入されたAクラスでは、女子や一部の「男子」の視線が注がれるという

ことさえあるほどである。

Aクラスは、入学試験の成績がよかった者が主に編入されるクラスだ。

レント自身は、MW戦術理論の試験において、学年中4位の成績で入学した。

しかし、彼は今までMWの事は一切知らないというのだから、疑問に思われた。

それも含めての視線なのだろうが、彼はあまり快くは思っていなかった。

「ったく・・・見せ物じゃないってのにさ・・・。」

彼はそう一人ごちるのだった。


それから大体2週間程度経ったある日のこと。レントも大分慣れてはいたが、

肝心のMWに関する授業は、未だ本格的ではなく、何度も同じような、

MWの基礎知識や、素体となる「ゲージ」のことぐらいしか勉強はしていない。

おまけに、自分の噂が人に広まるので、よりその視線は自ずと増える。

レントが感じるのは、このループに対する不満と、ストレス程度しかなかった。

その帰り道、レントは隣に住む幼馴染のサレンと話をしていた。

サレンは本名をサレローヌと言い、かつて栄華を誇っていたヴァラッツェ家の

人間である。元々彼女は、ハーマス共和国から引っ越してきたのである。


ハーマスは、イギリス、フランス、ポルトガルといった国家が統合して産まれ

近頃では珍しい共和国だった。平和を重んじ、MWを戦争を無くす最良の手段と

考えるハーマスの人々は、その「乗るもの」となるため、ラサキアへ

渡る者もいた。サレンはその一人だったのである。

おっとりとしていて、面倒見がいい彼女は、親が仕事で帰ってこない

レントにとっては、ある意味保護者であり、いい友人だった。


「もう、そんなのほっといたらいいのよ。気にしすぎると、

そのうちノイローゼになるわよ。」

「うるさいなあ・・・、元々感覚過敏なんだ。仕方ないだろうに」

「でも、無視ぐらいはできたものじゃない?」

二人は、レントの視線について話していた。元々感覚過敏なレントは

視線や、音を感じ取りやすかった。おまけに、美人アレルギーという

奇怪な体質もあり、ますますストレスはたまる一方なのである。

「第一、女が俺によるなってのさ!蕁麻疹がでてたまらないんだよ!」

「何それ!?私にはそんなの一言も言わないのに?極端ですこと」

「お前は長年一緒だから・・・その・・・耐性ができてる」

「妙ね・・・あなたって本当に・・・。全部がさ・・・。」

こうも珍妙な会話をするのが、ある意味お互いにとっても楽しいものであった。

この二人同士でしか成り立たない会話。それこそ、何も混ざり物がなく、

ただお互いの気持ちをスッと吐き出せている。これが楽しいのである。


「そういや、明日からだったね。MWの実戦シミュレーション。

 なんか緊張するよね。仮にも戦うんだし」

「でも、来たからには仕方ないでしょ。面白そうだな。久々だよ、こうも・・」

明日は、いよいよ本格的なMWの戦闘シミュレーション授業である。

さすがに実戦授業は早すぎるので、まずはシミュレーターを使い、

操縦の基礎、そしてMWの適正試験を行うのである。

「データキー、明日配布だから、無くさないように何か持ってきたら?」

「まあな・・・俺、よくもの無くすからな。おっと、家の前だ。んじゃ」

「じゃ、バイバーイ」

二人は、目の前で別れた後、レントはポストを見た。これは彼の日課である。

すると、何やら封筒が入っているのを見つけた。さほど大きくはない。

大体ハガキ位の大きさだが、また別に何か入っている。

早速家に入ってその封筒を開けると、手紙と同時に何かが落ちた。

レントは、それを取ると、目を大きく開き、大きく驚嘆した。

(・・・間違いない。これはデータキーだ。MWの・・・何故!?)


データキー。それはMWの情報並びに制御システムが組み込まれたカードである。

このデータキーは、MWの制御システムであり、同時に「ライダー」認証

システムでもある。つまり、MWの「核」ともいえるものであり、

通常は、これを所持できる人間は極めて少なく、易々と製造できる

代物ではない。レントも、これぐらいは授業で覚えた。いや、知っていた。

では何故、このデータキーが自分の元へ届いたのか。

手紙にはこう記されてあった

「きっと君の役に立つ。大事に扱いなさい」としか書かれておらず

差出人も、住所も書いていなかった。レントは疑問に思った。


(・・・俺は、何かに呼ばれているのか?そうでなきゃこんな・・・

 MWには微塵の興味も無かった俺が、専門校へ行こうだとか、

 MWの事には俺はやけに詳しかった・・・。分からない。俺が・・・

クソッ!どういう!)

レントはジレンマを覚えた。しかし、この事は、後に起きる出来事の

ほんの僅かな欠片でしかない・・・。

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