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樹の、落ちる空に  作者: (せ)
6/26

2.2

 それは幸の夏休みにあわせて計画した小旅行の初日に起こった。

 はじめは春樹と二人きりで行く予定だったが、がんばっている受験生たちにほんの数日だけでも海で羽を伸ばしてほしくて、幸に話をもちかけることにしたのだ。

「わたしと春樹だけじゃつまらないもの。幸はお友達を誘っておいてね」

「うん。でもせっかく姉ちゃんたち二人で旅行する予定だったのに、いいの?」

「わたしたちは行こうと思えばいつでも休みをとって行けるもの。春樹だって幸と海で遊ぶの楽しみにしてるのよ」

 もう四十になるのに大丈夫かな、なんて失礼な幸の言葉。春樹が聞いたらきっとひどくがっかりするわ。

 幸は幼馴染みの隼太くんと沙奈ちゃんを誘い、合計五人の行旅となった。

 小さいころはよく三人が家に集まって遊んでいるのを見ていた。

 嫁いでからはめっきり会わなくなってしまったが、いまもたまに実家に帰ると、隼太くんをよく見かける。年ごろなのか、沙奈ちゃんが家に来るのは滅多になくなってしまったらしいけど、学校ではいまだ三人仲よくやっているということだ。

「機嫌がいいね」

 そう言う春樹も機嫌顔だ。

「この旅行、幸があっさりとオッケーしてくれたから」

 中学にあがったくらいから、幸はなにかに悩んでいるような険しい顔つきをよくするようになった。それに、わたしにどことなく遠慮がちになり、よそよそしい態度をとるようになっていた。母は、幸も思春期なのよ、と言っていたが、いつまでもじゃれてきてほしいかわいい弟が離れていくのは寂しかった。

 実家を離れて春樹と住むようになってから、幸の姉離れは、より進行したように感じていた。

「催事とかでなければ幸くんとも会わなくなっていたね」

 そう。だから、幸ともひさしぶりに楽しい時間を過ごせると思うと、予定の日が楽しみでならなかった。

「春樹も風邪なんかひかないように体調に気をつけておいてね」

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