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僕らの平和に忍び寄る影  作者: 逢沢 雪菜
転章 理解
8/9

★☆ 八話

 移動した先は、樹里の部屋。


 流石にこの状況で、明るい顔を出来る奴は居ないだろう。


「死因と…凶器……自殺の理由は…?」


 樹里が震える声で呟いた。


 僕はそれに、明るい声にはならずとも、しっかりとした口調で答えた。


「死因はまず間違い無く、首の傷による出血多量。恐らくは、リストカットをした後、そっちの傷は浅くて大した出血にならなかったんだろう、首を再び切った」


 話のグロさにか、樹里は顔をしかめた。僕も話していて少し吐き気がするくらいなのだから、顔をしかめるくらい当然だろう。


「凶器だけど……樹里、お前ん家、“長めの氷”って有るか?」

「ペットボトルに使う細長いのなら……」

「充分だ。凶器はそれだよ」


 数を確認こそしてないものの、確認すれば1つか2つ無くなってる筈である。


「でも、それをどうやって……」

「何か刃物で刃型に削ったんだろうな。カッターナイフなり鋏なり。それを体温なんかで溶かして更に鋭くする。完全に刃にはならなくても、そのくらいにすれば“抉る”のくらいは容易くなる」

「それを消失させる為の、あの焚きすぎのストーブ?」


 僕はそれに頷いて返した。

 先程僕が踏んだのは、恐らくその氷の溶け残りだろう。まぁ、そこまでは知らないだろうから説明する必要は有るまい。


 回りくどくても彼女がそこまでしたのは、凶器を無くす為なのか、他殺に見せかける為なのか。それは僕には分からないし、後者なら「詰めが甘い」としか言えないだろう。


「で、理由だけど……」


 これは正直、かなり言いづらい。


 でも、僕は少しの間を空けてから言った。


「「虐め」」


 百弥と声が重なった。


 僕も樹里も反射的に百弥の方を見た。


「綺来…学年全体から虐められてたの……それこそ、先生からも……」

「なっ…………」


 学校の教師が生徒を虐めていただと?


 にわかには信じられない話だが、百弥の“情報”は僕が立てた“予想”より遥かに信じられる話なのだ。実際、あの恐らくは全身の新旧様々な傷を見れば、それは本当なのだろう。


 そこまで話した所で、どこかからパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえた。


 樹里はもう何も聞きたくないのか、黙って俯いてしまった。


 僕はさっき樹里に出してもらったココアを一口、口に含んだ。



 ココアはもう、すっかり冷めきっていた。


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