★☆ 八話
移動した先は、樹里の部屋。
流石にこの状況で、明るい顔を出来る奴は居ないだろう。
「死因と…凶器……自殺の理由は…?」
樹里が震える声で呟いた。
僕はそれに、明るい声にはならずとも、しっかりとした口調で答えた。
「死因はまず間違い無く、首の傷による出血多量。恐らくは、リストカットをした後、そっちの傷は浅くて大した出血にならなかったんだろう、首を再び切った」
話のグロさにか、樹里は顔をしかめた。僕も話していて少し吐き気がするくらいなのだから、顔をしかめるくらい当然だろう。
「凶器だけど……樹里、お前ん家、“長めの氷”って有るか?」
「ペットボトルに使う細長いのなら……」
「充分だ。凶器はそれだよ」
数を確認こそしてないものの、確認すれば1つか2つ無くなってる筈である。
「でも、それをどうやって……」
「何か刃物で刃型に削ったんだろうな。カッターナイフなり鋏なり。それを体温なんかで溶かして更に鋭くする。完全に刃にはならなくても、そのくらいにすれば“抉る”のくらいは容易くなる」
「それを消失させる為の、あの焚きすぎのストーブ?」
僕はそれに頷いて返した。
先程僕が踏んだのは、恐らくその氷の溶け残りだろう。まぁ、そこまでは知らないだろうから説明する必要は有るまい。
回りくどくても彼女がそこまでしたのは、凶器を無くす為なのか、他殺に見せかける為なのか。それは僕には分からないし、後者なら「詰めが甘い」としか言えないだろう。
「で、理由だけど……」
これは正直、かなり言いづらい。
でも、僕は少しの間を空けてから言った。
「「虐め」」
百弥と声が重なった。
僕も樹里も反射的に百弥の方を見た。
「綺来…学年全体から虐められてたの……それこそ、先生からも……」
「なっ…………」
学校の教師が生徒を虐めていただと?
にわかには信じられない話だが、百弥の“情報”は僕が立てた“予想”より遥かに信じられる話なのだ。実際、あの恐らくは全身の新旧様々な傷を見れば、それは本当なのだろう。
そこまで話した所で、どこかからパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえた。
樹里はもう何も聞きたくないのか、黙って俯いてしまった。
僕はさっき樹里に出してもらったココアを一口、口に含んだ。
ココアはもう、すっかり冷めきっていた。




