☆ 三話
樹里の家は、僕の家からさほど遠くない位置に在るマンションの一室だ。セキュリティはかなりしっかりしていて、玄関ホールはオートロック。
玄関ホールで、作り付けの公共のインターホンに樹里の家の部屋番号を押してチャイムを鳴らす。しばらくしてから、樹里の能天気な声がインターホンのスピーカーから聞こえた。
「僕だけど」
「ふいはーい。上がって〜♪」
樹里がそう言うと、ガチャッという音をたててホールのドアが開いた。
百弥を一瞬だけ見遣ってから中へと進む。後ろからのとてとてと足音を聞き、しっかりついて来ているのを把握しながら。
樹里の家は3階の為、階段を上ろうとしたその時。
「え、階段で行くの?」
後ろからついて来ていた百弥がそう言った。
「え、じゃないだろ、僕より体力有るくせに」
「運動出来るかと体力有るかは別問題なんだよ!!」
「つまりお前は僕より運動出来るくせに僕より体力無いと」
二度目の“僕より”を心持ち強調して。
すると案の定、百弥は表情を強張らせた。その表情に笑みは無い。
しばらくしてから、百弥はわなわなと震えだし、
「絶対兄ちゃんより先に着いててやる!!」
そう吐き捨てて階段を駆け登って行った。
本当に単純な奴、と改めて思ってから、僕はのそのそと階段を上り始めた。




