☆ 二話
仕方無くでも約束をこじつけられてしまっては、行かない訳にはいかない。
とりあえず、帰宅。よって妹を誘わなくてはならない。
自分の部屋に行って鞄を置いてからリビングに行くと、妹はソファに座って携帯ゲーム機と睨めっこだった。
「おい」
「…………」
駄目だ。ゲームに熱中しすぎて周りが見えていない。分かっていた事だが、コイツはゲームを始めると自主的に終了するか母さんに止められるまでゲームをやり続けるような奴だ。
「おい」ってば
「…………」
「おいっ!」
「…………」
何度呼びかけても妹は無言でボタンをカチカチカチカチ……。
いい加減にしろ。
僕は無視されるのが嫌いだし、揚句何より気が短いのだ。
最終手段だ。
「百弥ッ!!」
「ひゃふい!?」
名前を叫ぶと、一瞬でビクリと跳び上がった。いつも母さんが妹を止める時にコレから入るから条件反射なのだろう。少し爽快。
……じゃなくって。
「……に…兄ちゃん……に……」
「?」
今度は何やらわなわなと震えながら僕を指差している。まるで化け物でも見たかのような目で僕側の方向を見るな。
しばらく頭上にインタロゲーションマーク浮かべていると、妹が堰を切らしたように叫びだした。
「兄ちゃんが“おい”とかじゃなくて名前で呼んだ!! 槍が降る!! 死んじゃう!? もしかして死んじゃう!?」
「お前は死んでも死なねーよ。まったく…妹の事を下の名前で呼んで何が悪い」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
とまあこんな感じで喧しく騒ぎ始めた妹、つまりは百弥を黙らせるのに時間はともかくかなりな労力を有した。
やっと落ち着いてくれたコイツに今度は説得(?)をしなくてはいけないというのだから億劫だ。
「とりあえず、何だ。樹里が家遊び来いとか言ってたんだよ。お前連れて」
「いっつんが?」
「そ」
コイツは一応こういう事の飲み込みが早いからまだ助かる。こんな事にすら反論だの何だのするようじゃ、本当に愚妹中の愚妹だ。
「それに、綺来ちゃんがお前に会いたがってたんだと」
「えっ……」
ん?
綺来ちゃん――樹里の妹と、百弥――僕の妹は、僕と樹里同様幼稚園からの友達、所謂幼なじみというやつで、下手をすると僕達より仲が良い筈なのだが、今の反応は何だったのだろう。
まるで――まるで、顔を合わせたくない状況に置かれているかのような。
「……お前も行くだろ?」
「うっ…うん……」
何だ、何か引っ掛かる。その“何か”が何なのかは分からないが、“僕達”が決して踏み込めない所に、絶対に何かが有る。それは確実なのだが……。
ま、兎に角とかわざと間違えた読み方をしてみてもとにかく。
「行くんなら早く用意しておけよ」
「あーい……」
さてと。僕も出かける準備をしなくては。




