白い結婚のままでは
翠の瞳を持つ私は、不義の子と扱われました。
ハッピーエンド
私の瞳は珍しい緑色をしていました。
その為、父からは愛されず、母も虐げられていたのです。
使用人達も父の言う事を信じ、私は不義の子だからと、朝から晩まで働かせられました。
母は部屋から一歩も出る事を、許されません。
私がちゃんと働けば、一日三度の水と食事だけは与えられたのです。
でも、それ以外は酷かった。衣類はいつも誰かのお古が回って来て、それを何年も着ていました。デザインは一体いつの物かという程古く、色も燻んで汚かった。
私は屋敷の中で働いていたので、お仕着せがあったけど、下着や靴下はいつもボロボロでした。
唯一の楽しみは、母と話しをする事。母は高位貴族の出でしたから、私に様々な知識を与えてくれました。
それに、父は知らなかったのでしょう。私達を押し込めた館には、古い本が沢山あったのです。
母が亡くなった15歳の時、私は使用人として売られました。
父の身分が高かった為、王室で下位の侍女として働く事になったのです。
私の珍しい緑色の瞳は、いつの間にか国王陛下の耳に入り、知らぬ間に第一王子と婚約をしていました。
納得行かないのは第一王子。彼には愛する人がいたのです。
*****
国王陛下が長い旅に出ていくと、第一王子は私に婚約破棄を言い渡しました。
「コーデリア!私はお前との婚約を破棄する。お前はフェリシテを殺そうとしたな?しかも、一度だけでは無い、何度もだ!他にも金を横領したり、使用人を虐待、宝石の横流し、そんな勝手が許されると思っているのか?」
言い掛かりでした。
「婚約破棄ですか?、、、国王陛下は
「うるさいっ!黙れっ!王が不在の時は、俺が一任されている。寄って、これは王命と同じ事!」
「そうですか、、、」
「お前は辺境に行けっ!二度と王都に帰って来るな!」
第一王子の横に立つフェリシテ様が嬉しそうに笑います。
「殿下、コーデリア様を辺境伯に嫁がせたら如何ですか?令嬢達は誰もあの地には行きたがりません。彼女が嫁げば、多くの令嬢と両親が喜びますわ」
「それは良い考えだ。俺はアイツも嫌いなんだ。流石、フェリシテ」
**********
私は何日も何日も馬車に乗りました。王室の馬車は有難い事に乗り心地は最高で、何とか辺境伯の城まで辿り着いたのです。
馬車から降りた私は、来客として扱われ、応接室に通されました。使いの方が手紙と一緒に辺境伯の元を訪ねます。手紙の内容は私には分かりません。
閣下はどんな方かしら、、、。そう思いながら、窓の外を眺めていると、扉を叩く音がしました。
「はい、どうぞ」
と言うと
「失礼」
と低い声で言いながら、見知らぬ男性が入って来たのです。
この方かしら、、、?
「王命で結婚との事だが、君は罪人だ。私は君と結婚はしない。此処を出て行こうが好きにして構わない」
「あの、王命に従わなくて宜しいのですか?」
「、、、罪人風情がよく言う、、、」
、、、私は何もしていないのに、、、。
「公爵家の令嬢が言ってましたけど、こんな遠い所に嫁に来たがる人なんて、いないそうですよ?だから、私が貴方と結婚すればみんなが喜ぶんですって。もし結婚しなければ令嬢を持つ貴族から抗議が来るかも知れませんね。それに私が街に出れば、罪人を野放しにしているって言われちゃうんじゃ無いかしら」
段々腹が立って来た。
私は何も悪い事なんてしていないわ。国王陛下が勝手に婚約させて、第一王子が其れを気に入らないからって私を陥れたのに。
悔し涙が出そうだった。
「分かった。では、白い結婚だ。籍だけ入れる。君は侍女として働け」
私はカーテシーで返事をしました。
*****
案内された部屋は、侍女が使う狭い部屋でした。
荷物の無い私には丁度良い広さです。小さなタンスにはお仕着せが二着入っていました。
はぁ、、、とため息を吐いて布団に入ります。
翌朝は陽が上る前に目が覚めました。お仕着せに着替え、準備をします。
扉を叩く音に返事をして、そっと開くと女性が一人立っていました。
「お早う御座います」
と挨拶をすると、その方は
「侍女長のエレーヌです」
と自己紹介をしてくれました。
「コーデリアです」
「着いて来なさい」
数歩後ろを歩きます。台所には扉がありません。近付くと、賑やかな笑い声が聞こえて来ます。
エレーヌさんが入って行くと
「お早う御座います!エレーヌさん」
みんなが挨拶をします。
「あ!新人さん?」
「コーデリアと申します」
「うわぁ!ちゃんとした人だ!」
ちゃんとした人???
「コーデリアも座って食事を摂りなさい。体力が持ちませんよ」
「そ!10時まで働いて、おやつを食べるからそれまで頑張ろう!」
おやつ???
エレーヌさんが朝食のプレートを置いてくれました。
「頂きます」
と挨拶をすると、一瞬、話し声が途絶えました。
「侍女の仕事で、何か出来るものはありますか?」
食事を摂りながらエレーヌさんに聞かれます。
「一通り出来ます」
「炊事、洗濯、お料理どれでもですか?」
「はい、ベッドメイキングも出来ます」
「それでは、今日は私と一緒に仕事をしましょう」
「お願いします」
**********
侍女長がコーデリアの報告に来た。
「旦那様、コーデリアは侍女の仕事を全て出来ます」
「全部?」
「はい」
一体どこで覚えたんだ?
貴族令嬢、しかも第一王子の元婚約者ともなれば、高位の筈だ、、、そんな事があるだろうか、、、?
「長い間、侍女の仕事をしていたそうです」
「そうか、彼女は手癖が悪い様だから、気を付ける様に。暫く毎日報告をしてくれ」
「畏まりました」
**********
旦那様はあんな事を仰っていたけど、本当にそうかしら、、、?本当なら相当の詐欺師ね、善良な人にしか見えないわ、、、。
コーデリアの仕事は早くて丁寧だった。
「以前はどちらのお屋敷で働いていたの?」
「王都の伯爵家です。小さい頃から働いていました」
「ご両親がそちらで働いていたのかしら?」
コーデリアは少し考えて
「あ!あんな所に蜘蛛の巣が!」
と私から離れて行きました。まるで、会話の続きを誤魔化す様に。
何か事情があるようね、、、。
**********
痛い、、、。指先が痛くてジンジンする。水に漬ける事が怖い位冷たい、、、。外での洗濯は、暑い時期は楽しいけど、今の時期は苦行だった。
指先を「はぁ、、、」と息で温めて、洗濯を再開する。
痛い、、、。
じわりと涙が滲み、捲り上げた袖で拭く。
痛いな、、、。
「コーデリア!御免なさいっ!」
オーレリーだった。
「姿が見えないから探したの!御免ね。冬場の洗濯は大変だから、台所の横で出来るよ。お湯を貰えるし、室内だから!本当、御免!」
オーレリーは涙を流して謝った。
そして、二人で洗濯物を運んだ。
**********
二週間経っても、彼女から苦情は出て来なかった。伯爵令嬢ならば、侍女の仕事をさせられるだけで屈辱だろうに、、、。
エレーヌの話では、仕事は真面目で早く、気も効くと言う。遅刻や寝坊も無く、約束事もちゃんと守っているらしい。
本当に伯爵令嬢か?
「ヒューゴ、済まない、彼女の事を調べてくれ」
「奥様のコーデリア様ですね」
「ああ、頼む」
すっかり自分の嫁と言う事を忘れていた。
**********
私達のお仕着せは可愛い。襟と袖口が白い布。全面は黒。それに白いエプロンを付ける。
「あわわわわ、、、」
「どうしたんですか?」
「エプロンに穴が開いてる、、、」
「何処かに引っかけちゃったんですね。ちょっと待ってて下さい」
私はエレーヌさんに相談に行く。
「刺繍?」
「そんな感じです。破けた所を補修したいのです」
「例えば?」
「オーレリーのエプロンが破けてしまったんです。白い糸で直せば多分目立たないし」
「同じ色の糸なら良いと思います。でも、実物を見ないとわからないわ。オーレリーのエプロンを直したら見せて下さい」
「はい!」
私はオーレリーの元に戻り、エプロンを借り、白い糸で簡単な刺繍をした。
「え、可愛い、、、」
「エレーヌさん、出来ました。どうですか?」
同色で縫った場所は、遠目では区別が付かず、近くで見るとちょっと浮かび上がって可愛くなりました。
「良いでしょう、許可します。ただし、同じ色を使用して下さい。統一感が無くなってしまいますから」
私とオーレリーは嬉しくて、目を合わせながら笑い合いました。
*****
廊下で閣下とすれ違う時、私は端に寄り、目が合わない様に俯き気味になる。
彼が通り過ぎる時はお辞儀をして、顔が見えない様にした。
足音が少し先に聞こえてから、顔を上げる。
彼からは、あれから一度も声を掛けられない。
私、本当に結婚した事になってるのかな?
ま、どうでも良いけど。
**********
第一王子が結婚する。コーデリアとの婚約を破棄してから、それ程時間は経っていなかった。
ため息を一つ。
その数日後、ヒューゴからコーデリアの件で報告があった。
伯爵令嬢と言うのは本当だった。しかし、彼女が産まれた時、瞳の色が違う事からと不義の子を疑われた。
それからは、母親と別館で暮らす事になる。
幼少期から、侍女として昼間は本館で働いていたが、15歳になると母親が亡くなり、王室で下位の侍女として働く事になる。身売りだった。
侍女と第一王子が婚約?
翠の瞳
国王陛下がそれに気付き、第一王子と婚約。翠の瞳とは、遠い異国の王族が持つ瞳の事だ。
第一王子は反発した、幼い頃から婚約者がいたからだ。
王子は、国王陛下が旅に出た日、彼女を断罪する。罪の内容は、元婚約者への暗殺未遂。横領罪。貴金属の横流し。使用人への虐待。他
罪を犯した証拠や確実な証言は取れなかった。
旅から帰った国王陛下は、第一王子を叱責。しかし、断罪したコーデリアを迎えに来る事は無かった。
はぁ、、、。
彼女は何も悪く無かった、、、。
**********
此処での生活は楽しかった。仕事は目が回る程忙しいけど、二日働けば1日休める。
朝日と共に起きて、みんなと朝食を摂る。10時と3時におやつの時間があり、昼食も夕食も時間が決まっている。みんなで揃って食べる食事が嬉しかった。
そして、お給金が出るのだ。
伯爵家で働いていた時は出なかった。母の食事がお給金代わりだった。
初めてお金を手にした時、私はどうしたら良いか分からなくて、エレーヌさんに使い方を習った。
今思えば、とても不用心で決してやらないけれど、全部のお金を持ち、街へ行き、買いたい物を選んだのだ。
私がお仕着せ以外に持っていた服は、王都から着て来たドレス一枚だけ。だから、買い物にもそれを着て行くしか無くて、恥ずかしかった。
一番最初にみんなと同じ様な服を買い、すぐに着替えた。ドレスは持ち帰ろうと思っていたら、エレーヌさんがドレスを売ってお金に変える事が出来ると教えてくれた。
私は、王都の生活を忘れたくて、ドレスを売る事にした。
*****
私達が街に買い物に行く時、馬車を出して貰う。街に行くと申請すれば、朝から馬車が用意され他の侍女達と乗り合って行くのだ。
帰りもまとまって帰って来る。
「旦那様がね、馬車を準備してくれたの。それまでは歩いて行くか、お金を払って馬車で行っていたんだよ」
馬車は裏門から出て行く、私とオーレリー、他に三人乗っていた。一人は私達より年上の女性。後の二人は若い男の人。騎士かしら?
「もし、途中で帰りたくなったら御者に言えば良いの。お金を払うか歩く事になるけどね」
貴族が乗る様な馬車では無い、大き目の馬車。もう一人位は乗れそうだった。
「オーレリーは何を買うの?」
「私は飾り紐を見たいんだ。コーデリアは?」
「私は服を。街に着て来る服がコレしか無いから」
「そうなの?」
「ええ、だから服を一着買いたいわ」
私達は街に着くと帰りの時間を確認して、まずオーレリーの飾り紐を見に行った。
**********
閣下に彼女の報告書を書いた時、俺はコーデリアが可哀想だと思った。彼女は何も悪くは無い。
それなのに、此処でも侍女扱いだった。
俺はその後も継続して彼女を監視している。悪い所は見当たらない。
それはエレーヌ侍女長も同じ意見だった。
「馬鹿な男だな、、、」
「ん?」
「あ、いや、、、」
つい口に出ていた。
王室からの手紙一枚で、彼女を拒絶した。白い結婚を宣言して、侍女の仕事をさせる。
本当に馬鹿だ、、、。
そう言えば、婚姻の書類はどうなっているんだろう、、、。彼女はサインしたのだろうか、、、。
「ヒューゴ、何から見る?」
「な、さっきの侍女達、可愛かったよな?」
「何だよ。彼女達を誘いたいのか?」
同僚はニヤリと笑った。
**********
飾り紐のデザインが好き。色の組み合わせで、全く違う感じになるし、リボンよりも細いけどしっかりしているから。
「どの色にしようかな、、、」
隣でコーデリアも選んでいる。
「コーデリアはどの色が好き?」
「優しい感じの色が良いな」
最近コーデリアはやっと打ち解けて来たのか、話し方が変わって来た。初めて会った時は、丁寧過ぎる言い回しで、上品だったけど、今は身近に感じて好き。
「可愛い感じなら、この薄ピンクと黄色とかどう?」
「可愛い、、、」
コーデリアの方が可愛いよ。
初めて紹介された日、すごく可愛いなって思った。仕事は良く出来るし、立ち姿が綺麗だった。お金の事が分からなくて、びっくりしたけど、何だか放って置けないなって感じたんだ。
「馬車で一緒だったよね」
後ろから話し掛けられて振り向くと、多分お城の騎士様だ。
コーデリアが避ける様に私にくっついた。
「騎士様もお買い物ですか?」
「買い物と言うより、美味い物を食べに来たんだ」
「美味い物?」
「城で食べる物とは違う美味さがあるだろう?」
「あります、あります!」
「お昼、一緒に食べようよ」
「でも、私達、お買い物に来たから」
「それも付き合うよ」
同じ馬車に乗って来たと言う事は、絶対にお城で働いている。心配ないかな?
「コーデリアは大丈夫?」
「オーレリーが良いなら平気」
「私達の買い物、退屈だと思いますよ?」
**********
俺はコーデリアの横に着く、同僚はオーレリーの側。
彼女の肩に、トン、と身体が触れた時、顔を真っ赤にして俯いた。それがちょっと可愛かった。
「名前、教えて?俺はヒューゴ」
「俺、ロイク」
「オーレリーよ」
「コーデリアです」
「コーデリアも買い物に来たの?」
「服を、、、お仕着せ以外は、コレしか持っていなくて」
情けない様な、恥ずかしい様な苦笑をした。
これは閣下に報告しなければ、、、。
「いいです!いいです!自分で買えます!」
急に大きな声を出したオーレリーを見る。
「でも、折角だから」
と、ロイクが飾り紐を買おうとしている。
「遠慮無く買って貰うと良いよ。コーデリアはどれが良い?」
「えっ?!」
コーデリアがびっくりして、俺を見る。少し瞳が大きくなって可愛い。
飾り紐を買い、次はコーデリアの服を見に行く。オーレリーがいつも買いに行く店を案内して貰った。彼女は極々普通の服を買う。
本当は、伯爵令嬢で辺境伯の奥様なのに、、、。
この中で、それを知っているのは俺だけだった。
*****
1日街を歩き周り、夕方馬車に戻る。城に向かう方向とは反対に行く馬車を見て、コーデリアは
「あの馬車は何処に行くのですか?」
と聞いて来た。
「王都では無いよ。別の領に向かう馬車だね」
彼女はいつまでもいつまでも、その馬車を見ていた。
**********
城に戻ると早速、閣下の部屋に行く。
ノックをし、返事を確認して入る。
「只今、戻りました」
目の前に進み
「奥様は衣服を購入されました」
「、、、まだ、奥様では無い」
「は?!」
「彼女は婚姻届にサインをしていない。多分、サインをする事も知らない。婚約者と言う立場だ」
「、、、」
「続きを」
「、、、閣下は、コーデリア様とお会いになられましたか?」
「無い、、、廊下ですれ違う位だな」
「彼女は、衣服を購入されました」
「さっき、聞いた」
「お仕着せ以外、街で着ていた服しか持っていなかった様です」
閣下の指が止まった。書類に目を通しながら、俺の話しを聞いていた閣下は、顔を上げ
「本当か?」
と聞いた。
「本人がそう発言しました」
「そうか、、、」
「このままで宜しいのですか?」
「婚約期間は、一般的に一年だ」
「では、一年経ってから入籍して、三年後に離婚ですか?」
「、、、そうだな」
「随分と拘束するんですね」
閣下に睨まれた。
「もう良い、下がれ」
俺は一礼して部屋を出た。
**********
婚姻届の書類は準備してある、後は、コーデリアのサインをするだけだった。
白い結婚で、三年後離婚すれば良いのだが、結婚すれば彼女を公の場に連れて行かないといけない。
第一王子の虚偽を知っているのは、私とヒューゴだけだ。それに私自身、彼女を罪人扱いした。
どうしたら良いか、、、。
私は、コーデリアを呼んだ。
*****
暫くして、コーデリアが来た。お仕着せを着ているのに、何故か可愛い、、、。
「この書類にサインを」
と目の前に出すと、スッと目を細めた。
「罪人と結婚するおつもりですか?」
「王命だからな」
「承知いたしました」
彼女はペンを取り、サインをする。
美しい字だ
「貴女の事を調べた、、、」
つい、、、口が滑った、、、。美しい文字を見たからだ、、、。言い訳をする。
「エレーヌからも仕事の様子を聞いている。君は素晴らしいと褒めていた」
「、、、有難う御座います」
「君には申し訳無かったが、過去の事も調べさせて貰った。報告から、罪人と言うのは第一王子の虚偽と思われる。済まなかった」
彼女が少し、揺らいだ。
「私が罪人では無いと分かったから、入籍をするのですね。分かりました。、、、しかし、生活はこのままで結構です。白い結婚のままでお願いします」
と深々と頭を下げた。
「それで構わない。ただし、公務で君を連れて行かないといけない場合は、着いて来て貰う」
「、、、あの、、、お聞きしたい事があるのですが」
「何だ?」
「使用人の皆様は、私の立場をご存知なのでしょうか?」
「エレーヌは知っている」
「他の、、、」
「知らないだろう」
「、、、そうですか、、、」
「この書類を提出したら、国王陛下に報告に行く。準備をしておく様に」
**********
準備も何も、一着しか無いドレスは売ってしまったし、いきなりの展開で頭は混乱しているし、、、どうしたら良いのか分からない、、、。
折角仲良くなったオーレリーに、どうやって話したら良いのかしら、、、?侍女の仕事だって、辞めたく無いわ、、、。
私は仕事に戻りながら、悩んでいた。
「コーデリア、少しお話があります」
エレーヌさんに呼ばれ、空いている部屋に入りました。
「閣下から、お話を聞きました」
「はい」
「黙っていて、申し訳ありませんでした」
頭を下げられて悲しくなった。
「辞めて下さい、エレーヌさん、、、。私、侍女のままが良いんです」
「コーデリア様、そう言う訳には行きません。貴女は閣下の奥様ですから」
「、、、楽しかったんです。初めてお友達が出来ました。一緒に仕事をして、食事をして、買い物に行って、みんなと沢山話しをしました」
「、、、奥様」
「侍女の仕事を続けたいんです。公務なんて出来ません、、、」
「大丈夫です。第一王子の婚約者だったんですから、心配する事はありませんよ」
「国王陛下に挨拶に行くそうです。、、、きっと第一王子と会う事になります」
指が震える。
「大丈夫です。閣下を信じて」
「でも、、、」
「明日から準備が始まります。まずはドレスを仕立てないといけません。暫くの間は、お仕事はお休みしましょう」
「嫌です、、、。オーレリー達と離れたくありません。準備は私がお休みの日ではダメですか?間に合いませんか?」
「、、、調整しましょう。少しハードなスケジュールになるかも知れません」
「大丈夫です、、、。有難う御座います、、、」
**********
それから私の毎日は忙しくなった。休みの日の初日はドレスの採寸と生地選び、アクセサリーを選び、靴や帽子も選んだ。ドレスは一着も持っていなかったから、数着は作らなければならない。勿論、それに合わせた靴も必要になる。
次の休みからダンスの練習が始まり、食事のマナー、姿勢、歩き方まで習う。
第一王子の婚約者になって、色々習ってはいたけれど、閣下の連れて来た先生は厳しかった。
「ねぇ、コーデリア。最近綺麗になったね、誰か好きな人でも出来た?」
オーレリーの質問に笑う事しか出来なくて、早く国王陛下との謁見を終わらせたいと思った。
**********
コーデリアの休日には、一緒に夕食を摂る様にした。しかし、彼女は使用人達と食事を摂りたがり、私との夕食の時間はスイーツと紅茶で済ませた。
所作の確認の為だったから、別に構わない。彼女は少しずつ貴族らしくなっていった。
ダンスの練習も、私の時間が合えば一緒に行う。最初は辿々しかったが、まぁまぁ、人並みには踊れる様になった。
彼女は頑張っていた。それが私には好ましく写り、私は彼女に会うのが楽しみになっていた。
しかし、彼女はどうだろう。私の第一印象は最悪だった筈だ。無理矢理結婚させられた様なモノだし、白い結婚だ。
*****
時間が少し空いたので、彼女がダンスの練習をしているのを見に行った。止めておけば良かったのだ。
彼女はヒューゴと踊っていた。
とても楽しそうで、とても美しかった。
ああ、私は嫉妬している、、、そう感じた。
彼女があんな顔をするのは、私では無い、、、。
*****
夜、ヒューゴからの報告に耳を傾ける。昼間の事を思い出し
「彼女は大分踊れる様になったのか?」
と確認する。
「そうですね、後はドレスを着て、どの程度踊れるか」
「分かった、それはこちらでやる。ダンスの練習はもう良い」
自分でも勝手だな、、、と思った。
**********
明日から、ダンスの練習は閣下と行う事になった。、、、嫌だな。緊張するんだもの、、、。
初めて会った時の、低い声、威圧的な態度。忘れる事は無かった。
新しいドレスが仕上がり、ドレスを来てダンスの練習をする。裾の長さやボリュームが邪魔をして上手く踊れない。
っあ!
「痛っ!」
「御免なさいっ!」
私は驚きと申し訳無さで、後ろに飛び退いた。瞬間バランスを崩す。彼が咄嗟に手を取り引いた。私は転ぶ事は無かったけれど、彼の胸に抱き締められていた。
背の高い彼、広くて逞しい胸、優しい香り。熱くなる頬。
嫌いな筈なのに、あの時、彼が「済まなかった」と謝った、申し訳無さそうな声を思い出す、、、。
彼の印象が、ほんの少し変わって行く。
彼が私の髪に触れながら
「この飾り紐、どうしたの?」
と聞いて来た。
私が持っている唯一の飾り紐は、ヒューゴ様からプレゼントされた物だった。
「以前、みんなで街に買い物に行った時、ヒューゴ様に買って頂きました」
閣下のご機嫌が急に悪くなった、、、。
***********
それから数週間後、私達は王都を目指した。
私は王都までの道のりを、まだ覚えていた。
あの時見た草原、見覚えのある大樹。季節が違うからもう咲いていないけれど、あの丘の辺りに沢山の花が咲いていた。
閣下は静かに腕を組み、目を瞑る。
間間で立ち寄る街も覚えていた。本当に遠い所に嫁いだんだわ。、、、いずれ離縁になるけれど。
*****
王都に着き、一日身体を休めてから、翌日準備を始める。
緊張する私に、閣下は度々
「大丈夫か?」
「心配するな」
と声を掛けてくれた。
城内の貴賓室で身体を整え、晩餐会に出席する。
第一王子殿下の横には、フェリシテ様が座っていた。出来るだけ二人とは目を合わせたく無い。
閣下は意外にも話し上手だった。
席の近い方と情報を交換している。私は、貴族同士の会話について行く事が出来ず、話しを聞くのがやっとだった。
食事が終わり、ダンスホールへと移動する。閣下は私をエスコートして下さった。
一曲目は第一王子殿下とフェリシテ様が踊る。それは本当に美しくて、私に彼女の代わりは無理だと見せ付けられた。
二曲目からは、全員がパートナーと踊る。私は練習した通り踊った。色取り取りのドレスが舞って綺麗だった。
**********
「久しいな」
聞こえたのは、第一王子の声だった。
「結婚おめでとう」
嫌な笑顔だった。閣下が私より少し前に出た
「有難う御座います。殿下もご結婚おめでとう御座います。美しい奥様ですね」
フェリシテ様が嬉しそうに笑った。
「私の妻も美しいですよ。特に彼女の瞳は、誰よりも美しい、高貴な生まれの証しなのです。国王陛下もご存知です」
コーデリアが私の顔を見上げた。
「翠の瞳、遠い異国の王族だけが持つ瞳だそうです。だから、陛下は貴方の婚約者に選んだのでしょうね、、、」
「高貴な生まれでも、罪人ではな、、、」
彼は鼻で笑った。
私は第一王子に一歩近付き、耳打ちした
「虚偽、、、ですよね」
にっこり笑う。
「調べました、自分の妻になる人ですから。その時、彼女の瞳の事が分かったんです。私の情報収集力はご存知でしょう?」
「、、、ま、まぁ、ゆっくりして行き給え」
第一王子殿下は、苦虫を潰した様な顔をして去って行った。
「あの、閣下、、、私の瞳って、、、」
不安そうに私を見るコーデリア
「本当の事だよ。貴女のお祖父様かお祖母様、もしくはもっと前のご先祖様が異国の王族とご縁があったんだろう。国王陛下はご存知だったんだ」
「それでは、私の父は」
「間違いなく、伯爵だろうね」
「、、、お母様、、、」
コーデリアの瞳から涙が溢れた。伯爵が本当の父親だった事が嬉しいのか、母親の無実を証明出来て嬉しかったのか分からない。ただ、彼女は
「有難う御座います」
と、私にお礼を言った。
**********
私達は、国王陛下に挨拶をすると早々に王都を出ました。
そして私は、閣下の事を信用する様になったのです。
城に着いてから、閣下は結婚式の準備を始めました。ちゃんと私の意見も聞いて下さいます。
「コーデリア、、、いつまで、侍女を続けるつもりなんだ?」
「でも、閣下が続けて良いと仰いました」
「、、、」
「やはり、私達は白い結婚のままなのだろうか」
「それも、閣下が、、、」
「、、、」
嘘です。
閣下、私は少しずつ貴方の事が好きになっています。侍女の仕事を続けたいのは本当です。でも、一週間後に結婚式を挙げたら、白い結婚のままでは嫌です。どうか、どうか、貴方の口からはっきりと仰って下さい。
白い結婚は取り下げると、、、。




