表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

底なし沼

作者: 青ペン
掲載日:2026/04/19

周りの音が、聞こえなくなった。

頭上を通る飛行機のエンジン音も、すぐ近くの道路の交通音も、何もかも。


少し興奮気味だが、頭は冷静だ。考えてみるに、原因は二つある。

一つ目は、雨だ。暗い雨雲や空気中の水分が音を吸収し、普段より少し静かだ。その少しの違いが俺に過剰な違和感を与え、無音の世界にいることを錯覚させている。

二つ目は、たった今妻を殺したからだ。


------------


俺はいつからこんな人間になったのだろう。小学生の頃までは明らかに順調な人生だった。家族とは仲良く、友達も多い。おまけに、可愛い子と両想いにもなれていた。今思い返しても不満はない。

中学生、高校生、大学生、そして社会人になったが、特段俺の人生を歪める出来事はなかったはずだ。まともな人間として、まともに学び、まともに働いていた。


だが、いつからだろう。

友達に連絡するのは億劫になった。親に数年会わなくなった。スマホを触りながら()()()()ようになった。そもそも、ご飯を()というようになった。


妻との結婚も、惰性みたいなもんだ。マッチングアプリで出会った女とセックスし、付き合い始め、半同棲になった。お互いに30を越え、彼女は結婚を希望していたし、俺も別に一人で生きていくつもりもなかったから、まあ結婚生活がダルくなれば離婚すればいいだけだろうと思いながら婚姻届を書いた。


結婚生活が幸せかだったかなんてわからない。飯は普通、セックスも普通、休みの日はゴロゴロするか外食する程度。これを別に幸せといえば幸せなのだろうが、昔に想像していた幸せとは違う。周りの人間も、YouTubeやインスタで見てる人間も、俺よりは充実した生活をし、幸せを享受しているように思う。


こんなくだらない生活に終止符を打ちたかったのかもしれない。嫁とはテンプレート通りに喧嘩するようになり、周りからは尻に敷かれてるなんて言われる。会社では出世レースに勝つでも負けるでもなく、特に責任ある仕事をすることもなく、給料は月35万円。不満はないわけではないが、不満を上司にぶつけられるほど仕事を頑張ってるわけではない。当然趣味もない。


そう考えれば、別に妻を殺す必要はなかった。家を出ていき、さっさと離婚すればいいだけだった。ただ、毎日小口を叩かれ、無能扱いをされ続けたから、寝室でYouTubeを観てる時に頭を軽く叩かれた時に、自然と少し殺意を持っただけだ。自分が感情的になってしまったことは分かりながら、一度掴んだ髪を離すことはできなかったし、喉から出てくるよくわからん怒号を止めることもできなかった。こんなに一気にエネルギーを使うことも久しぶりだった。

疲れにより俺が冷静になった後、向こうが包丁を持って叫びだすから、腹を蹴り、包丁を奪い、刃を喉に刺しただけだ。


------------


これを書いてるうちに、音が聞こえるようになった。

今日は、雨だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ