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馬乃アシは振り返らない!

馬乃アシは、人の話を聞かない。


そういう性質だった。

少しでだいたい分かった気になるし、分からなかったら後で考えればいいと思っている。


そのせいで、うまくいかなかったこともある。


小さな部屋。

机と、椅子、スマートフォン。

昼なのか夕方なのか少し分かりにくい。


画面の光だけが、やけにくっきりしていた。


アシは、ベッドの上に座っていた。

短くて柔らかい髪は、きちんと整えればきれいなのに跳ねている。

ぱっと見はおとなしそうだが、勝気な目が爛々としている。


薄い唇は可愛らしいが、黙っている時間があまり長くない。



「それ、考え方古くない?」


ぽつりと呟いて、そのまま打ち込んだ。



「なんでそれが正しいのか全員が理解できるように説明できないなら、ただの言いがかりでしょ」


SNSの海に投げ放った。


それだけの言葉。

少なくとも、本人はそう思っている。


最初は、少しだけ反応がついた。


「くだらないよね」

「それ思ってた」



アシは満足して、画面を眺める。


「ほらね」


ゾクゾクするような喜び。


少しして通知が増えた。

今度は、違う方向で。



「言い方悪くない?」

「ルール守りたくないだけだろ」

「人のこと考えてない」


アシは、画面を見ながら首をかしげた。


「はー?なんで?」


隣に座っていた幼馴染のモチが、横から覗く。


「アシの言い方が難しかったからかもね」


「説明してるのに?」


「言葉の真意までは受け取らない」


「めんどくさ」


少し考え次の手を思いつく。

アシは姿勢を直し今度は長く書いた。


反論。



送信。



少しして、また通知が増えた。



「は?」

「攻撃的過ぎ」

「論破したいだけでしょ」

「結局何が言いたいの?」



アシは、少しだけ止まった。


「……先に攻撃したのはあんたたちでしょ?」


「そうだな」


モチは言う。



アシは、画面を見たまま、ぽつりと呟く。


「なんでうまくいかないの」

それは独り言に近かった。


「曖昧だからだよね?」


思いついたまま口にする。


「ちゃんと決めないから揉めるんでしょ」


モチは何も言わない。

アシは笑った。


「じゃあさ」


どこか、うまくいく前提の明るさがある。


「全部決めればいいじゃん!」

それは、とても単純な結論。


「ルールをはっきり書けばいいんだよ」


少しだけ、嬉しそうに言う。


「ないんだから、私は悪くない!」


モチが小さく息を吐く。


「……アシがそう言うなら、そうかも」



アシはにっこりした。


「私がやればいいじゃん」


その言葉には、妙な確信があった。


「世界を変えるの!絶対大丈夫!」


モチに向かって微笑んだ。


「だって、私だし」


そうして彼女はSNSの住人になった。

炎上は止まらなかった。二人は少しずつ疲弊していった。



白い空間。

中央に、女神が立っている。


「馬乃アシさま、荷物モチ様、あなた方は転生して――」

厳かな声で告げる…


「あ〜異世界転生ね!」


女神の言葉は途中で切られアシは軽く手を振った。


「だいたい分かるからいいよ」


隣で、モチが頷く。


「でも、最高!今度こそ主人公じゃん!」


女神は、困った顔をし手を伸ばす。

「お待ちください…っ!」


アシは無視してモチの手を取った。

光るゲートに飛び込む。


「はやく世界を救いに行こ!」


何も知らないまま、何も決めてないまま、2人は遠くに女神の声を聞いた。


「スキル…は…」



次に目を開けたときには青い空、下には草原。

遠くで、何かの動物の声がする。


アシは少しだけ目を細めた。


「…ここなら、きっと思い通りになる…」


その声は小さく、でも楽しそうだった。


「今度は、ちゃんとやる」


これはうまくいかなかった女の子が異世界転生して、今度こそちゃんとやろうとして、やっぱり少しだけズレてしまうお話。


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