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『バブル』とは、この世界に突発的に表れる異空間の総称だ。
バブルの中はいずれも独自の生態系を持っており、人間とは別の覇者がいて、小さな生態系が回っている。
その生き物たちを、俺たちは雑にひとくくりにして、魔物と呼んでいる。
なので魔物の強さはまちまちだ。
が、まあ、俺にとって強さなど割とどうでもよく、問題はその魔物が面倒くさい性質を持っていないかどうかにある。
バブルを攻略し魔物を駆除さえしてしまえば、そのバブルは純粋な『土地』としての価値が残る。土地は金になる。だからその土地が居住可能であるかどうかは、魔物が厄介な性質を持っていないことが前提になる。
そして俺の経験則だが、寒冷地には毒持ちの敵が少ない。
生きるだけで必死の環境で、毒など作っている余力がないのだろう。
毒がないということは、販売可能な土地になり得る可能性がある。
それならば、命を賭けて冒険する価値がある。
「さっびぃ~~~」
しんしんと雪が降る雪原エリア。
冬、コタツから出てそのまま外に出たときのような、肌の表面の水分が凍てついていくような、痛む寒さが全身を襲う。
革ジャンのジッパーを上げ、くるぶしほどまで深い雪をもくもくと進む。
道中出てきたオオカミどもは、すべて蹴りで脳天を破壊して進む。
バブルを進むこと10分、俺はすでに後悔し始めていた。
極寒の地の空間を切り取って持ってきたかのような景色が続く。
寒さが終わらない。
貧乏カネなしの俺は、当然、水も食料も持ち込んでいない。
攻略できたとしても、帰るまでに力尽きて死ぬかもしれない。
そんなことない、とは言い切れない。ここは会社や学校からの帰り道ではないのだ。
自然は必ずしも人間が攻略できるようには作られていない。
進める道が存在する保証はないし、滑って足をくじいたら死ぬし、裂傷ひとつから寒さで血が回らず腐敗して死ぬし、常に最高の結果を出し続けていても天候悪化すれば死ぬし、救助は来ない。
自然というのは、ランダム要素と即死要素と進行不能バグに溢れたクソゲーなのだ。
「……ちっ、クソすぎる。マジでクソすぎる。なんてクソゲーなんだ」
強いマナが流れる方向は、かじかんだ肌でも、なんとなくわかる。
それを頼りに真っ直ぐ進んできたが……。
見渡す限りの氷の壁が立ちはだかる。
大きさにして、田舎なら平均的な一軒家サイズ、都会にあれば豪邸クラスの大きさだ。
ただの氷のクリスタル。シンプルだ。
「あークソだ、クソクソクソ、マジでクソ。俺の人生、クソすぎる」
短歌を嗜みつつ、現実を罵倒する。
バブルには、その中に『核』がある。
バブルの攻略方法はふたつで、ひとつは核を持ち出すこと。ふたつは核を壊すこと。
前者はこの世界のマスターキーを得たも同然で、
後者はバブルの破壊を意味するので、売れなくなる。
めきり、めきりの氷の中からゴーレムみたいな敵が現れ、自らその身を動かす真理を刻む。
俺は容赦なく、氷から完全に体が出るよりも先に踏み込み、踵を蹴り上げ、ゴーレムの顎を蹴り砕く。
ぱらぱらと空に氷の破片が舞うダイヤモンドダストの中、眼下で新たなゴーレムが生えてくるのを見る。
ゴーレムの欠片を足場に、稲妻のように駆け下り踏み砕く。
めき、めきと今度は頭上でゴーレムが生える音がする。
「あー、クソ、またハズレかよぉ。あー、マジ期待して損した。あーあーあー、運がねぇ~、ツイてねぇ~、クソ、クソなんでいっつもこうなんだよ俺ってよぉ~」
俺は足に力を込め、やけくそ威力の百裂脚をクリスタルにぶち込む。
破損と同時に、凄まじい冷気が溢れてくる。冷気耐性のない俺にはキツい。
多分、これ壊すころには、帰りの体力なんてなくなってる。
核を手に入れたとしても持ち帰ることができない。
ぶっ壊すしかない。
「避暑地として金になると思ったのにー!!」
右足を前に突き出し、左足を畳み、肘を前に出して猛進するそれはまさにライダーキック。
冷気で鼻水が一瞬で凍りつく。
前歯が視覚過敏でビリビリ痛む。
だが、今はそれよりもこのストレスを、ただただぶつけたかった。
「なぁんでいつもこんなんなんだよぉ~!」




