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 バーカウンターに立つマスターが、ナパーム弾のように膨らんだ腕でカクテルシェーカーを振っている。

 シャカシャカシャカ…トン。


「ビールです」

「振るなよバカ」


 シテたタバコに火をつけてからビールを飲む。

 分かりきってるが炭酸も抜けている上に、なんかぬるい。最悪の口当たり。


 シャカシャカシャカ…チャッチャッチャ…トン。

 次のカクテルが隣の客に差し出される。


「日本酒です」

「ありがと」


 隣の席に座った小男は、ニコリと愛想のいい笑顔を向ける。

 犬歯が抜けて、牙も毒もない少年みたいな男。


「泡立ち日本酒がそんなにうまいか?クリン」

「ああ、うまいよ。タダ酒ならなんでもうまい。ジローだって飲んでるじゃないか」

「マッチョが温めた炭酸抜きビールなんて、好きで飲んでるわけねぇだろ…」


 シャカシャカシャカ…トン。

 最後の一杯が、小男の隣の席に提供される。


「ミルクです」

「…うむ」


 新撰組の生き残りみたいな格好をした細身の筋肉質のおっさんが、マッチョがシェイクした乳をクールに煽る。


「コスギ、マッチョのミルクおいしい?」

「…煽りか?…叩き斬るぞ」


 ぼそぼそと呟くように言いながら、腰に下げた日本刀の柄を親指で持ち上げながら、武士の誇りを脅しの道具に使うコスギ。

 人間、金がなくなると、プライドなどなくなるものだ。


 そう、俺たちは金なし三銃士。見栄やプライドをかなぐり捨て、人として最低限度の生活を送ることすらできない借金まみれのシケた中年男ども。

 ジロー、クリン、コスギ。この町で最も冴えない男ワースト3だ。


 そんな俺たちでも、ここでは奇跡的に酒が飲める。ただしその酒には、感性のぶっ壊れたマスターの、という形容詞が必要だが。

 こんな社会と切り離された空間に訪れる者など……まあ、たまにしかいない。


「……あ、あのっ!」


 おっさんだらけの空間に、相応しくない声が響き渡る。

 少女だ。上背はあるが痩せ型で、大きな栗色の目をした少女……いや、おっさんの俺から見れば、20代後半も少女だが。


「助けてください…!」


 無限の可能性を秘める少女の頼みごとに対し、ひとりクリンは冷静に声をかける。


「席に座るかどうかはお任せするから話してごらん、お嬢ちゃん」

「それどころじゃないの!すぐそこまで、魔物が…!」


 魔物。

 その単語を聞いて、はぁ、とため息のような声が漏れる。


「そりゃ大変だ」


 まずいビールとタバコを吸う。

 世はこともなし。


「今すぐ助けに行こう!」

「バカ言うなクリン。一銭の得にもならねぇよ」

「でも、この辺に戦える者は少ない。僕らが行かなくちゃ!」

「あのなぁ…」


 渋る俺を尻目に、少女がこう追い討ちをかける。


「ここ、非合法の『バブル』でしょ?もし助けてくれるなら、ここのことは黙っててあげるわ」


 うぐ、と喉が詰まるのを飲み下し、紫煙の煙と一緒に深々と息を吐いた。


「しょうがねぇなぁ」

「相変わらず女の子の頼みは承諾が早いよね、ジロー」

「ハードゲイがウケてハードレズがエッチな以上、この世から男尊女卑はなくならねぇよ」


 吸いかけのタバコを灰皿に叩きつけるように押しつけて、席を立った。

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