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革命のスマホアプリ、ルッキズムブレイカー

作者: はんすけ

 202✕年、人類は恐るべきスマホアプリの開発に成功した。その名は、ルッキズムブレイカー。読んで字のごとく、ルッキズムをブレイクするスマホアプリである。

 ルッキズムブレイカーは、画像を対象とする三つのフィルターを搭載している。一つ目は、画像加工ブレイクフィルター。画像加工を学習したAIが対象の画像加工をブレイク、画像加工前の状態でスマホ画面に表示するのだ。二つ目は、メイク加工ブレイクフィルター。メイク技術を学習したAIが対象のメイクをブレイク、すっぴんの状態でスマホ画面に表示するのだ。三つ目は、整形加工ブレイクフィルター。整形技術を学習したAIが対象の整形をブレイク、工事前の状態でスマホ画面に表示するのだ。

 現代ルッキズムを根底からブレイクしかねない危険なスマホアプリ、そのリリースの是非をめぐる議論が、シンガポールで行われていた。


 議論の参加者は、ルッキズムブレイカーの開発者と、出資者の五名、計六名である。

 「こんなスマホアプリを公開されたら、私のビジネスは破綻だ!」

 声を荒げたのは、エンタメ業界のドン、チャッキー小林だ。身長180センチメートル以上の男子と体重50キログラム以下の女子を世界中からかき集め、顔面を整形、完璧なルッキズムサイボーグとして世に送り出す。そうして抱えたスターの数は既に千人を超えている。

 「俺が抱えている連中は全員、スタイルが良いだけの不細工に成り下がっちまう! 俺だけの問題じゃないぞ! 世界中のアイドルや俳優、インフルエンサーが生業を失うことになるのだ! それはビジネスのシステムが大きく崩れることを意味する! ルッキズムブレイカーのリリースなど、到底、容認できん!」

 「私も、ルッキズムブレイカーのリリースには反対です」

 チャッキー小林に同調したのは、世界の袋小路、袋小路自動車社長、袋小路正宗だ。彼は今、家庭の問題に心を捕らわれている。大学受験に失敗した次女が、承認欲求の怪物と化し、リアルの全てをネットに捧げているのだ。父親として、当然、匿名で、次女のインスタはフォローしている。三分に一回、更新されるストーリーズで目にする次女は、自分と妻の面影が皆無で、切なくなる。それでも、可愛いとコメントしてやり、綺麗とコメントしてやり、故に次女は生きながらえているのだと実感する。賞賛のコメントが潰えたならば、次女は十中八九、手首を切るだろう。

 「そもそも、おかしな話ではないですか。我々は、知能を下げる電波を発するスマホの開発に出資したのですよ。それが、こんな訳の分からないアプリが開発されるなんて・・・・・・」

 スマホに通知があった。次女がストーリーズを更新したのだ。

 スマホを手に取る袋小路、その背後に、若い男が立った。そうして、若い男はチョークスリーパーを決める。袋小路は、渾身の力を振り絞り、素敵だね、とコメントして、失神した。

 「血迷ったか、花京院!?」

 叫んだチャッキー小林の背後を、花京院と呼ばれた若い男は忍者のような身のこなしで、とった。そうして、チョークスリーパー。チャッキー小林は失神した。

 花京院豪、純資産9000億ドルを超えるIT長者だ。分かり易くいうと、イーロンより金持ちだ。

 「反対の意見ばかりでは公平ではない」花京院は自身の艶やかな黒髪をなでた。「リリースに賛成の意見もお聞きしたい」

 「やっちゃえ、ルッキズムブレイカー!」

 容姿に恵まれていない男が、叫んだ。チャンネル登録者数5億人を超えるユーチューバー、コンチーこと根治智昭だ。

 「俺はよぉ、昔からよぉ、容姿で良い思いをする連中が許せなかったんだよぉ! ましてや嘘っぱちの容姿で稼ぐなんて、反吐が出るぜ! 奴らが全員、地獄に落ちるっていうなら、俺は全面的に賛成するぜ! やっちゃえ、ルッキズムブレイカー!」

 「根治さんと同じ意見です」

 そう言ったのは、宗教団体ナチュラルボディの教祖、天然DE満念。過激なデモを繰り返し、公安にマークされた人物だ。

 「ありのままこそ絶対神レットイットゴー様の教え。全て人はありのまま生きるべきなのです。加工など、言語道断。ルッキズムブレイカーは乱れた世を正す希望の光となるでしょう」

 自らの発言に酔う、故に教祖。

 天然DE満念が冷静さを取り戻したとき、根治は、花京院のチョークスリーパーによって失神していた。

 「血迷ったか、花京院さん!?」

 叫んで、すぐに背後をとられ、天然DE満念は花京院のチョークスリーパーで失神した。

 「利権でもなく、感情でもなく、思想でもない。世界は淘汰の連鎖によって形作られている。人類もまた、鎖の一部に過ぎない」

 世界の全てを手に入れた、だからこそ花京院は、世界の全てを俯瞰していた。純資産9000億ドルとは、そういうことだ。

 「最後に、君の意見を聞きたい。ルッキズムブレイカーの開発者である、君の意見を」

 「僕は、あくまで開発者ですので・・・・・・」開発者は、言った。「ノーベルやオッペンハイマーみたいなものです」

 「それでは、淘汰を見届けよう」

 こうして、ルッキズムブレイカーは世界に放たれた。

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