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舞ってくれる美人妻ー衣装

 それから二日後に、警察から会社へ連絡が入ってきた。

 父親が殺されたから、遺体を引き取ってほしいそうだ。


 女性を騙した件で〈清人〉に任意同行を求めるため、実家を警察官が訪問したちょうどその時に、〈清人〉とその母親が切子細工の工作機械で父親の手首を切断しようとしていたらしい。


 二人で押さえつけても切断することは出来なかったが、手首からの大量の出血で命を落とした、と警察官が溜息交じりに説明をしてくれた。

 三人の怒号が外まで聞こえていたらしいが、カギが何個もかかっており扉を蹴破るのに手間がかったと申し訳そうにしていた。


 必要のない気づかいをされると、俺の方が反応に困ってしまう。


 アルコール成分の異常値が血中に検出されたため、泥酔状態での事故を偽装した、と結論づけられるようだ。

 ガラスを削るだけの用途でしかない切子細工の工作機械で、手首を切断するのは初めから無理な話だよ。


 とことん常識が無いクズ親子であるな。


 内心は嫌だったのだが、警察や役所に迷惑をかけられないので、渋々父親を火葬するはめになってしまった。

 火葬した後の骨をゴミに捨てると法律に違反してしまうから、どうしたもんだと悩んでいると、〈叡行管理不動産〉の会長さんが実家の土地と家屋を売ることを条件に処分してくれることになった。


 〈清人〉とその母親のクズ親子は、被相続人への殺人罪で遺産相続が出来なくなったんだ。

 こう言うのを相続欠落って言うんだって、知らなかったよ。


 ありがたいことである。これで一気に厄介払いが出来るぞ。

 まるで良い想い出が無い実家はもう見たくもないし、ゴミ屋敷でガラスの欠片が散乱している家なんか欲しいはずがないからな。


 俺は買い取り額も聞かずに返事をしてしまったから、会長さんにすごく怒られてしまった。

 少しは値段交渉をしろってカンカンだったな。クズの父親とは大違いだよ。





 それから二年ほど経った頃、実家と〈コモド滝〉の跡地に立派なマンションが建ち、俺はその中の二つをもらったんだ。


 実家の土地と等価交換ってことである。

 二つとも2LDKで大きくはないが、これからは家賃がただになるうえに、家賃収入も入ってくるのだから経済的余裕は半端ないぞ。


 小さいマンションでも俺と〈まうよ〉が不便さを感じることは無いし、新しい家族が増える予定もない。

 生でやりまくっているのに〈まうよ〉が妊娠する気配は全くなく、それ以前に生理もないようだ。


 妖魔との間には子供は出来ないのだろう。人じゃないのだから当然ではある。


 マンションにちょうど良い場所があったから、母さんの仏壇は少し大きな物に買い替えた。

 紅色の作務衣は仏壇の横にかけられたままだ。これを〈まうよ〉が着ることはもう無いだろう。


 その代りじゃないけど、舞扇の柄(まいおうぎのがら)の浴衣を買ってあげて、夏祭りに出かけてこともある。

 〈まうよ〉と手を繋いて花火を見たのは何回もあったな。

 もちろん、その後に俺が浴衣の帯をクルクルと脱がしたのは言うまでもない。


 何種類ものアイドルの衣装を着て踊って見せてくれることもあったな。

 ミニスカートから覗くパンツは、エッチな何種類もの感動パンツだ。

 興奮した俺は踊っている最中に抱きついて、〈まうよ〉に怒られたことが何回もある。


 そうだった。

 お金に余裕が生まれた俺は〈まうよ〉の服を次々に買ってあげたんだ。

 〈まうよ〉の機嫌を取るためと、当たり前だけど、それを脱がすためである。


 セクシーボディコンワンピース、タートルネックの全身ニット、料理目的じゃない各種エプロン、定番のミニスカートに止めはビキニの水着もあったな。

 街で着ることが出来る服は、これらの何倍もあると思う。


 ウォーキングクローゼットの中に俺の服は(わず)かしかなく、〈まうよ〉の服で満杯の状態である。それでも俺の幸せは僅かではない。

 〈まうよ〉が服をおねだりするのは俺に見せるためだと思っているからだ。


 〈まうよ〉のサポートもあり、俺は順調に出世の階段を昇っていったんだ。

 最終的には親会社の会長まで昇りつめたんだぞ。わははっ。すごいだろう。


 東南アジアで新規事業を立ちあげたこともある。

 かなりの豪邸に住んでいたから、そこで〈まうよ〉にビキニの水着を買ってあげたんだ。

 〈まうよ〉は【はぁ】溜息を吐いていたけど、自宅プールだからガッツリやれるんだよ。

 最終的にはプールの中で【はぁん】と熱い溜息を吐いていたぞ。


 出世に(とも)い欧米人との会合も増えて、パートナーがいた方が良いことと、近年は事実婚が珍しく無くなったこともあり、〈まうよ〉を遅ればせながら籍を入れていない妻とすることにしたんだ。


 誠に〈まうよ〉は都合の良い女であるが、本人は喜んでいたので良いんじゃないかな。


 そうだ。

 踊りの衣装も沢山買ってあげたな。


 ジャズダンスのレオタード、バレエのチュチュ、フラダンスの腰巻、ベリーダンスのへそ出し衣装、ポールダンスのポール達だ。


 俺のではポールの代りには【短くて無理に決まっているじゃない。バカなの】と言われて、おちこんだ事もあったのが良い想い出だよ。

 そうでも無いか。


 〈まうよ〉はどんな踊りも華麗に舞うことが出来る。

 どんなスターも〈まうよ〉の舞を見れば、赤面して逃げ出したくなるだろう。

 そんな舞を俺はただ一人見ることが出来るんだ。世界一の幸せ者に間違いない。


 おまけに舞を終わって息の荒い踊り子を、強引に引き寄せて抱くことも出来るんだぞ。


 舞が終わった後直ぐに衣装を脱がすのか、一緒にお風呂へ入るか、俺はいつも迷っていたな。

 本心は衣装を着せたままでしたい、とずっと思っていたからだ。


 だけどその願いだけは、〈まうよ〉が嫌がったのでとうとう(かな)わなかったよ。

 頼めば毎日でも舞ってくれる美人妻なのに、自分のことながらなんとも贅沢な悩みだと思う。

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