もっと私を愛してくださいー魔物
二人切りでいる状況じゃ、抱きしめる以外の選択肢はあり得ない。
【はぁん、キスはもう充分よ。 丁寧にドレスを脱がしてちょうだい】
紅赤のイブニングドレスをワイルドにバリバリと脱がしたかったのだが、シルクのお高いドレスだから、どう考えても〈まうよ〉が正しいと思う。
俺はど庶民なんだよ。
ドレスを脱がすと〈まうよ〉はプルルンとノーブラだった。
このことは、おっぱいの先っちょをドレス越しにコネコネしたから知っていた。
ぽっちに驚きはない。
驚きは下半身の方にあった。ドレスの裾が長いため手を入れられなかったんだ。
思いもよらない感動パンツがそこに隠されていた。
真珠パンツとでも呼称するのであろうか。
大切な部分に真珠の粒が縦に七個並んでいる、エッチ過ぎるデザインである。
酸性の分泌液でやられてしまうから本物ではないのだが、一粒ずつ数えたから七個は正確な数字である。
これはあれか縦筋に添って七個の粒を上下させて刺激を与える仕様だな。
俺の本能がそれで間違いないと荒ぶって告げた。
パォー。
【変なふうに動かさないでよ。 うふぅぅん、そんなに動かしたら壊れちゃうでしょう。 早くそれも脱がしなさい】
分かってましたよ、〈まうよ〉さん。
いつもの落ちか。
俺は真珠パンツを泣く泣く下へ落として、己の舌で無慈悲な〈まうよ〉を泣かしてあげるのだった。
この行き場の無い俺の猛烈な怒りを感じやがれ。
【〈かっくん〉、縄を切ってよ】
怒りに任せて〈まうよ〉を亀甲縛りにしたわけじゃない。
残念でもないが、俺はそんな高尚な趣味も高度な技術も持ちあわせていなんだ。
幽霊を防止するためなんだろう。
切子細工の工作機械がロープでグルグル巻きにしてあったんだ。
お守りも吊るしてあったが、神様が俺達の邪魔をするはずが無いので、当然ながら何の効果もありはしない。
〈まうよ〉が開けた扉から中へ入り、黒い柄のナイフで縄をバラバラに切断してあげた。
5分とかからなかったし、すでに俺は家の外へ出て〈まうよ〉が中からカギをしめている。
カギは新しい物が5個も増やされているが、〈まうよ〉にかかれば何個あってもなんの意味もなさない。
「うわぁ、鍵を増やしたのにまた出た。 本物の幽霊だ。 こんな家にはもう居られないよ」
「きゃー、もう限界だわ。 あんたがどうにかしなさいよ。 あんたの嫁でしょう」
「今はお前が嫁じゃないか」
「ふん、戸籍上はね。 お情けで何回か抱かれてやっただけだわ。 夫ずらしないでよ」
「なんだと。 まさか。 〈清人〉は俺の子供じゃないんだな」
「はっ、何を言っているのよ。 〈清人〉にはどう見てもアメリカ人の血が入っているでしょう。 どこをどう勘違いして自分の子なんて思ってたのよ」
「お前がそう言ったんだよ。 騙したな、 このクズ女め」
「そうだったかな。 でもクズで情けない男には言われたくないわ。 稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んでいるダメ男がお前よ。 そのくせ、しぶといと言ったらありゃしない。 あぁー、酒を飲ませればもっと早く死ぬと思ったのにあてが外れたわ」
「なんだと。 俺が死ぬのを待っていたのか? 」
「当たり前でしょう。 あんたにはこの土地しか価値がないのよ。 ちょうど良いから幽霊と仲良くいなくなってくれない」
「長い間、気持ち悪いのを我慢して、可愛い僕の父親をさせてやったんだ。 そのお礼にもうこの世から消えてくれよ」
その後も醜い言い争いが聞こえていたので、俺はもう嫌になってしまった。
こんな汚らしい生き物とは関わるのは止めようと思う。
【ふぅ、幽霊の恐怖よりも怖くなる邪悪な欲望だわ。 妖魔よりもっと歴然とした魔物だったんだね】
「そのとおりだ。 復讐はもう止めて、俺達は自分達の幸福を目指せば良いと思う。 〈まうよ〉が側にいてくれるだけで俺は幸なんだよ」
【うふふっ、私はもっと幸せよ。 〈かっくん〉を心から愛しているわ】
「〈まうよ〉はまだしたいと思っているの? 」
【もう復讐する気は無くなったわ。 お母様のお水を替えなくちゃいけないから、今日で終わりにしましょう】
何日ぶりかでマンションに帰った俺と〈まうよ〉は仏壇のお水を替えてあげた。
「商売ものでただだから、いくらでも飲んで良いよ」
【そうなんだけどね。 もう少し言い方があるでしょう。 お母様も呆れるしかないわ】
いつも俺は〈まうよ〉に小言を言われているな。
俺はまるで叱られる子供のようだ。
俺の父親は母さんがいたことで何とか普通の人でいられたんだと思う。
母さんが重い病気になったため、父親を正しく導く存在がいなくなったんだ。
父親は全面的に母さんに依存していた歪で不完全な男だったんだ。
それが怖い。
俺も変わらないと思えるんだ。〈まうよ〉と出会う前の俺はカスだったからだ。
俺は〈まうよ〉に何もかも依存している。
クズで人でなしの父親と同じじゃないか。
「〈まうよ〉、俺は怖くなったよ。 父親の血を引いているんだ。 俺の本質はクズかも知れないな」
【ふっ、そんな心配はいらないわ。 〈かっくん〉はお母様が産んだ子で、お母様に愛情深く育てらたんだよ。 今は私が愛で包んでいるでしょう。 だからクズになりようがないんだよ】
「そっか」
そう言われると、より〈まうよ〉に依存している気がしてくるじゃないか。
こうなったら、〈まうよ〉が消えたり病気にならないことを祈るしかないけど、それはいつもしている事だから、俺は何をしたら良いんだ。
【それは簡単だけど、逆にとっても難しいことかな。 もっと私を愛してくださいね】
「よし、もっと頑張って腰を振るよ」
【あははっ、それだけじゃないんだけどな。 それも大切なことではあるから良いでしょう。 〈かっくん〉の恐れも喜びも何もかも全てを受け入れてあげるわ。 うふふっ、もちろん〈かっくん〉のあそこもね】