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宇宙は直ぐそこだー昇天

 どこまでも上昇しそうな〈コモド滝〉ではあったが、ビニールシートの強度に多大な問題があったみたいだ。

 良く理解出来る話である。

 ただのビニールシートのため飛行には向いていないのは当然だと思う。


 あちらこちらがパラパラと()がれ出している。

 気球に穴が空き徐々に高度を下げ始めたのだが、都合良く突風が吹いて海の方へ運び去ってくれた。

 ビルの向こうだからもう見えないが、ザブンと海に落ちたらしい。

 

 人家に落ちずに本当に良かったよ。


 〈聖子ちゃん〉も消防職員も警察官さん達も助けた女性達も野次馬も、みんなポカーンとなっていたから、これ幸いと俺達は家に帰ることにした。

 〈まうよ〉が(かぶ)っていたお面は、突風が吹いた時に空高く飛んでいってしまって、もう見えない。


 女性達を救出出来たのだから、ヒーローの出番はもう終わったのだろう。


 俺も被っていたパンティストッキングも脱いだのだが、〈まうよ〉はそれをもう一度はこうとしている。

 止めておけとは俺は言わなかった。

 伝線したパンストは(みょう)になまめかしい、と一目で理解したからだ。


 俺は〈まうよ〉が倒れないように体を(ささ)えているが、役得だからと胸の部分を押さえることにした。大きな(ふく)らみを優しく手で包んであげる。


 【ん、もう。 〈かっくん〉は本当にいやらしいね】


 そう俺に文句を言った〈まうよ〉のにこやかな笑顔がとてもすがすがしい。


 〈真田〉はこの世から消え去った。

 俺の復讐は20数年の時を()てようやく完了したんだ。

 中学の時の屈辱と苦しみは空へ昇り海の中へ沈んでしまった。

 俺の心に蓄積していたドロのようなカスを、〈まうよ〉の笑顔が昇華してくれたんだ。


 パンストマンから、パンストをはかしてからの脱がしマンへ変身しよう。


 ただし世の中はそう甘いものじゃない。

 俺が脱がす前に〈まうよ〉がパンティストッキングを脱いでゴミ箱に捨ててしまったんだ。

 捨てるのならはかなければ良いじゃないか。女心ってのは理解しがたいな。


 続けて全ての服を脱ぎ全裸になりやがった。


 【〈かっくん〉、一緒にお風呂へ入ろうよ】


 「えっ、良いのか」


 俺はバカか。

 そんなことを問い返してどうするんだ。

 入りたかったんだから、チャッチャッと入れば良んだよ。


 【えぇ、そうしたいの】


 俺は速攻で服を脱ぎ〈まうよ〉の手をとってお風呂へ突入してからの洗いっこだ。

 自分から言い出したくせに、〈まうよ〉が恥ずかしがって体を隠すそうとするのが、かなり新鮮でとてもエロい。


 俺は〈まうよ〉に洗ってもらい天国にいるみたいだ。昇天しそうだよ。

 俺が洗ってあげると〈まうよ〉は【飛んじゃう】とこちらも昇りつめそうになっている。


 お風呂から上がり火照(ほて)った体に冷蔵庫から取り出した氷を(すべ)らせてやると、もう後がないようで、俺にしがみついてくるからそのまま台所のテーブルの上で始める。


 「アイドルの〈まうよ〉も良かったな」


 【今度あれで踊ってあげるから、頂きまで高く私を登らせてね。 んんう、熱いのが氷を溶かしてまうわ。 〈かっくん〉が私の体に火をつけたんだよ】





 「〈うろ君〉が監禁されていた女性達を助けてくれたんでしょう。 そのことに関してはお礼を言うわ。 でもね。 また私を残して逃げたわね。 そのことに関してはすごく怒っているのよ。 警察にもマスコミにも、根掘り葉掘り聞かれて疲れ果ててしまったじゃない」


 〈聖子ちゃん〉はパンストマスクが俺らしいとは思っていたらしいが、確証が無いたため黙っていてくれたようである。こちらもマジで都合の良い女だと思う。


 助けられた女性達は犯罪者が仲間割れをしたと思っているようだ。

 金を盗もうとうした裏切り者と争いになり、その隙をついて同様に囚われていた勇気ある女性が解放してくれた、と頭からその物語を信じているらしい。


 〈まうよ〉のアイドルへの擬態が功を奏(ぎたいがこうをそう)したってことだ。何事もやってみるものだな。

 パンストマスクがただの強盗でヒーローじゃないのが腹立たしいが、俺がその無念さを飲み込めば良いだけの些細(ささい)なことである。


 どうするのかと秘かに注目していた、海に沈んだ〈コモド滝〉の引き上げは早々に実施しないと決定されたようだ。

 〈真田〉達を雇っていた裏社会の者が、この決定に影響を与えた可能性が高い。

 証言により身元は割れたみたいだから、税金を投入して遺体を確保する意義が無かったのかも知れない。


 誰も汚物を引き取りにはこないだろうし、公務員の方々も触りたくないんだと思う。

 黒い石に呪われたと、とんでもない噂が飛びかっているらしいな。


 飛び過ぎて噂になっている物もある。

 あの青いビニールシートが成層圏の狭間(はざま)でジェット機から目撃されたんだ。

 おまけにヒーローのお面がひっついていたから驚くしかない。


 その勇姿を撮影されたものがネット上に流されて、飛び抜けた再生数を稼ぎ出しているようだ。

 糸が切れた凧の状態になってしまったのだと考察するが、自分が行った屋根の修繕だからとても誇らしくなってしまうな。


 ネバーギブアップブルーシート。

 宇宙は直ぐそこだ。


 そしてブルーシートは新しいアイドルまでを生み出してしまった。

 かなりお年は()されているが、〈聖子ちゃん〉が各種メディアへ露出しまくったため、正義のヒロインになったんだ。

 女性を救った英雄と目出度く認定されてしまったのだ。


 〈聖子ちゃん〉は弁護士で美人さんだから、視聴率アップを狙いそのような虚像が作られたのだろう。

 年齢層は高いが熱狂的でコアなファンもついているみたいだ。

 偶像崇拝だからそのものであるな。

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