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まるでメルヘンの世界だー永遠

 〈まうよ〉を先頭に、首輪に繋がれた女性達、そして俺がしんがりを勤めつつ非常階段を降りていく。


 〈まうよ〉が誘導を行い、俺が一番後ろで女性達の安全を守るための布陣であるが、首輪が邪魔で女性達の歩く速度が上がらない。

 炎はさらに勢力を拡大中だ。いつ壁を(つらぬ)いてくるか、分かったものじゃない。

 もう直ぐそこまで炎が迫って来ているんだ。


 その焦りが俺の油断が生んだのだろう。


 【〈かっくん〉、危ない。 後ろよ】


 〈まうよ〉の切迫した声でハッと振り返れば、口から血の泡をブクブクと噴き出した〈真田〉が直ぐ後ろまで迫ってやがった。

 〈まうよ〉の注意が無ければ俺は、〈真田〉に捕まえられていただろう。

 火事のため熱くなった空気の中でさえ、俺の背中にブルッと冷や汗が流れる。


 悪人だからか、嫌になるほどしぶとい。

 狂ったような赤い目が(うと)ましい。

 どす黒い血を吸った服が心底汚(しんそこきたな)らしい。


 俺はもう〈真田〉を相手にしたく無かったので、先頭にいる〈まうよ〉の元まで宙を飛んだ。


 「やっぱり〈まうよ〉の隣が良いよ」


 俺を避ける女性達なんか後回しで良いと思う。


 【うふふっ、そうでしょう。 ようこそ〈かっくん〉】


 〈真田〉はもう目が見えていなかったのか、非常階段の手すりへ体ごと突っ込んでいった。

 錆びだらけの手すりは〈真田〉の体を支えることは出来なかったんだ。

 ボロボロに(くだ)け散り、〈真田〉も宙を飛んでいる。


 ただ美人妻が待っていた俺とは大きく違い。

 着地点に待っていたのは、壊れた鉄柵に唯一残っていた鉄柱である。


 体が非常階段に少し引っかかったためだろう。

 〈真田〉はケツから、鉄柱へ突き刺さりにいきやがった。


 肛門(こうもん)へジャストアタック。


 ようこそ肛門様とでも鉄柱が誘ったのだろうか。

 ケツを串刺しにされた〈真田〉は、表現のしようもない奇怪な悲鳴をあげ続け、狂ったように手と足をバタバタとさせている。


 おバカな〈真田〉くん。

 肛門に鉄柱が刺さったままじゃ飛べないよ。

 あっ、刺さって無くても無理か。


 背骨が鉄柱に砕かれたから、脊髄反射(せきずいはんしゃ)状態じゃないかな。

 想像ではあるが、鉄柱が内臓を貫通したことにより少し軸がずれたんだろう。

 〈真田〉はバタバタだけじゃなく、回転まで始めやがった。


 とんでもないヤツだ。


 淫獣と名付けたことだけはある。

 ここまでくれば化け物の仲間入りだ。

 おめでとう。


 駆けつけた消防職員と警察官さん達が苦しんでいるじゃないか。

 プップッと押し殺した笑い声が非常階段の周りで聞こえている。


 必死にあらがいてるのを見て笑うなんてひどい、と責めるのは(ひか)えよう。

 多くの火災現場を経験した人達にも、人間故(にんげんゆえ)に限界があるのはしょうがない。


 〈真田〉は悪人で有名だから、多くの人がいい気味だと思っている可能性もあるか。


 俺も必死でこらえている。

 いくら昔虐められていたとしても、この状況で笑うのは不謹慎でしかないと思う。

 後で思い切り笑えば良いのだから。


 〈聖子ちゃん〉はビックリして目も口もまん丸に見開いているが、それは危険だ。 

 四十歳を過ぎているんだから、おでこの(しわ)が増えてしまう事態になりかねない。


 「ガガァ」

 「ゴゴォ」

 「ミシミシ」

 「バキッ」

 「ブチッ」


 「えっ、なんだ。 この音は? 」


 【〈かっくん〉が測り方を間違ったせいだと思うな。 ビニールシートが熱気球になっちゃったんだよ】


 「えぇー、そんなバカな」


 【だってそうだもん。 見てみなさいよ。 〈コモド滝〉が空に浮かぼうとしているじゃない】


 「はぁー、〈コモド滝〉はやっぱり竜だったのか? 」


 【違う。 たきだよ】


 〈コモド滝〉はあり得ないことではあるが、火事で温められた空気でパンパンに(ふく)れあがったビニールシートに()り上げられている。

 浮きだしたんだ。

 徐々に高度を上げていっているところだ。


 さっきの大きな破壊音は基礎部分が壊れる音だったらしい。元から腐っていたところへ一階の床が燃えたせいだと思う。


 〈コモド滝〉は当然なことであるが、(かたむ)きながら上昇しているため、開口部から滝のように家具や衣類やゴミとかを落としている。

 もっと上へと上がるためには良いことかも知れないな。


 〈聖子ちゃん〉は連続で目も口もまん丸に見開いている。

 おでこの皺がクッキリと見えるのでもう手遅れだ。

 消防職員と警察官さん達も、目も口もまん丸に見開いているぞ。

 野次馬達も同じだ。


 これが日本人の同調圧力のパワーなんだな。火事現場なのにまた寒気がしてくるよ。

 俺もそうなっていると思う。


 空飛ぶ〈コモド滝〉はとても雄大だし幻想的なんだ。

 空へ飛びたてばボロさなんか関係ない。その勇姿へ神秘性が付加される。

 ゆっくりと上昇する姿は優雅で風流でしかない。まるでメルヘンの世界だ。


 空高く飛べ。

 自由に飛べ。

 どこまでも飛べ。


 玄関だった空間から、深海ギョロとギブスコンビが両手を勢いよく振っているのが見えた。

 もちろん俺も元気良く振り返してあげる。


 「永遠(とわ)にさようなら」


 〈真田〉はまだバタバタと回転を続けているよ。ゴキブリ越えの生命力じゃないか。

 まさかとは思うが、プロペラの役割を果してはいないよな。


 「〈真田〉、最後の別れだ。 キサマと交わした約束は今果たしたぞ」

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