この変態野郎がー淫獣
「けっ、カスの〈うろ〉ごときが。 強盗のマネをしてもお前が誰だが一発で分かるんだぞ。 お前からは負け犬が小便をチビった、弱えぇ匂いがするんだ」
「あははっ、どっちが負け犬だよ。 キサマはすでに〈聖子ちゃん〉が呼んだ警察に囲まれているんだぞ。 もう逃げ場はないんだ」
「ちっ、あのアマめ。 弁護士でちょっと美人だからって調子に乗りやがって。 攫って薬漬けにしておくんだったな。 ヤク中にして俺が抱いてやれば性奴隷に出来たんだ。 本当にマジで残念だ。 昔からそうすると決めていたのに腹が立ってしょうがねぇよ」
「ふん、〈聖子ちゃん〉が思い通りになるかよ。 間抜けなキサマなんかに出来るはずがない」
「はっ、誰が間抜けだと。 〈うろ〉、お前の頭は大丈夫か。 お前は俺に好き勝手にいたぶられるだけの存在だろう? 」
「それは過去の話でしかない。 俺は変われたんだ。 社長にもなっているし、美人の嫁もいるんだぞ。 キサマみたいに組織の単なる駒じゃないんだ。 手下のゴミカスのくせに、キャンキャンと鳴くな」
「けっ、ゴミカスはお前だ。 のこのこと俺の前にいるのがその証拠だよ。 俺のストレスをお前で発散させてもらおう。 お前の嫁は〈聖子〉の代りだ。 ヤク中にして性奴隷にしてやるよ。 あははっ、〈聖子〉より若いし美人だからその方がお得だ」
これ以上〈真田〉と話をするのは時間の無駄にしかならない。
話なんかしても何の得にもならない。
汚らしい淫獣の声など聞きたくもない。
これ以上聞き続ければ反吐が出そうだから、俺は〈真田〉に後ろへ回りこもうと床を蹴った。
「はっ、カスがいきるなよ。 てめぇの命が大事なら、もう一度土下座をしてみろ。 ぎゃはは、女を渡せば命だけは助けてやるぜ」
〈真田〉も暴力を売り物にしているだけあり、そう簡単に後ろはとれない。
まだ俺を挑発するだけの余裕があるようだ。
さらに俺は床を蹴り後ろへ回りこもうとした。その動きを三回、四回と諦めずに繰り返してみる。
ワンパターンのような気もするが、実績もある俺が得意としている戦術なんだ。
「くっ、ちょこまかとドブネズミみたいな野郎だ。 ビビッてないで正面から来いよ」
今の俺なら正面からでも勝てないことは無いが、万が一ってこともあるんだ。
しなくても良い危険を犯すのはテンパった素人がすることである。
五回目に背後をとる動きの逆をついて、俺は反対側に急旋回を行う。
〈真田〉はそれでも何とか俺の動きについてきたが、右左とフェイントを織り交ぜて翻弄してやると大きく体勢を崩しやがった。
自堕落な生活を送り、心はもちろん、身体も腐っているからだろう。
{隙を逃さず背中へ回った俺は、〈真田〉の肩を黒い柄のナイフで刺してやった。
あばらの間から心臓を狙ったのだが、淫獣が持っている本能のなせるわざなのか、わずかに体を逃がされてしまったんだ。
生命力と悪運が強いのは、腹立たしいことだが認めざるえない。
「ぐわぁ、痛ってぇ。 このカスが。 よくもやってくれたな。 お前みたいな弱えぇヤツに俺が負けるはずがない。 俺はカスじゃないんだから、〈うろ〉に負けるはずがねぇんだ」
「ふん、よく言うよ。 昔からカスでクズのくせに。 俺に負けたことを潔く認めろよ。 そんなに血を流しているんだ。 ふっ、直ぐに動けなくなるぞ」
「余裕ぶちやがってそれがお前の敗因だ。 ぎゃははっ、偉そうに言ってる暇があったら俺に止めを刺していれば良かったのにな。 お前はやっぱりカスだ。 ほら、これが見えるか。 ポリ公が持っているピストルと同じ物だぞ。 玉は満タンの6発入っている」
「〈真田〉、そんな物どこで手に入れたんだ? 」
「ぎゃははっ、デパートのローンで買ったんだよ」
「パァーン」
くっそ、迷わず撃ってきやがった。
狙いをつけられたので、迷わず後ろへ跳んだから何とかなったが、さすがにピストルが相手じゃ迂闊には近づけないぞ。
それに〈真田〉の構えがそれなりだ。
ピストルを撃つことに慣れている感じがする。
フィリピンの射撃場とかで百発以上は撃ってきたんだと思う。
「ぎゃははっ、形成逆転だな。 そこを動くなよ」
〈真田〉は肩から血を流し続けているから、何とか動き回って時間を稼ぐしかない。
それが一番いい方法で、それしかない解決策だ。
【今から女達を助けるわよ。 うふふっ、私はヒーローなんだから当然よね】
「ちっ、女のくせに何がヒーローだ。 バカみたいな面をしやがって、俺を舐めるな」
「〈まうよ〉、危ない」
美しい顔の〈まうよ〉なら、失うのが惜しくてピストルの引き金は引かなかったはずだ。
だけど今は、男を夢中させる顔を隠しているんだ。
お面を被っていた事が禍を招いてしまった。
「パァーン」
〈真田〉のクズが〈まうよ〉に狙って引き金を引きやがった。
俺はピストルの狙いが俺から〈まうよ〉に移っていた時には、もう走り出していたと思う。
〈まうよ〉に向けられた銃口を俺に変えようとしたんだ。
だが俺は一瞬遅かった。
弾丸は〈まうよ〉へ発射されてしまった。
〈真田〉の醜悪な顔が目前に迫っている。
俺は最大限の怒りを込め、薄笑いを浮かべている〈真田〉口に中へ、思い切りナイフを刺してやる。
脳まで届け。
床に落ちたピストルを蹴り飛ばすと、ゴトンゴトンと重い音をたてて階段を落ちていった。
「〈まうよ〉、死ぬなよ。 敵はとったぞ〉」
【〈かっくん〉、盛り上がっているとこ悪いんだけど、 勝手に殺さないでほしいな。 私が一瞬で消えるとこを、〈かっくん〉は何度も見ているでしょう。 忘れたのかしら? 】
「そうか。 そうだったな。 本当に良かった」
俺は不満げな〈まうよ〉を強く抱きしめた。〈まうよ〉を失わなくて本当に良かった。
〈まうよ〉も俺の気持ちを分かってくれたのか、徐々に体が熱くなっていく。
ものすごく熱くなっていくぞ。
んー、なんだかおかしい。
【抱きしめてくれるのは嬉しいんだけど、火がここまで上がってきたわ。 早く女達を逃がさないとマズいんじゃないかな】
「あっ、いけない」
俺と〈まうよ〉は慌てて監禁されていた女性達を解放するために走った。
〈コモド滝〉に向かい消防車とパトカーの沢山やってきている。
サイレンの音がすごい。大事になってしまったな。
炎は二階を超えて三階にも上がってきている。
その熱のため、ブルーシートはますます膨れ上がり、パンパンになっているのはかなり想定外である。
やっぱり大き過ぎたんだ。
〈コモド滝〉の上空に大きな青い球が浮かんでいるのは異様な光景でしかない。
たぶんニュースのトップを飾ってしまうぞ。
【女達は全員部屋から出したわ。 火が回ってきたから、もう逃げるよ】
救出された女性達は〈まうよ〉の後ろに隠れて、俺には誰一人近寄ってはこない。
「〈まうよ〉、ありがとう。 逃げるとするか」
まさかとは思うけど、女性達に俺は危険な男だと思われているのか。炎に包まれそうになっている〈お助けパンツ〉が無性に悲しいぞ。
【他の女の下着を見るんじゃない。 この変態野郎が】
そこまで…… 。
ちょっと言いすぎだと思う。




