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人間の尊厳を失くすようなまねー天誅

 二階にはヒーローもののお約束どおり男が二人待ち構えていた。


 「なんだてめぇは。 強盗がこんなボロアパートに来るなよ。 直ぐそこにマシなマンションがあるだろが」


 俺を強盗と間違ってやがる。

 どう見てもそうだとしても、天は許しても俺は決して許しはしない。

 気持ちだけは完全無欠のヒーローなんだ。

 人呼んでパンストマスクだぜ。


 【〈かっくん〉、冷静になろうね。 強盗にしか見えないわよ】


 〈まうよ〉のパンストで脳が熱くなっているから、心まで熱くなるのはしょうがない。

 ヒーローとは高め合うものなんだ。


 二人の男は俺を強盗あつかいするし、〈まうよ〉のムッチリした太ももを見てニチョリを笑っている、どうしようもなく悪い人間どもだ。

 おまけにもうナイフを(かま)えているから、少しも遠慮をしてあげる必要はない。


 「天誅(てんちゅう)(くだ)してやろう」


 【〈かっくん〉に代わって天誅よ】


 直ぐ前に俺も言いましたよね、〈まうよ〉さん。


 俺は黒い柄のナイフを手に持ち男達と対峙(たいじ)している。

 パパッとやれないことも無いが監禁されている女性がいるんだ。ここは慎重にいこう。


 男達の意識が俺に向いているのをチャンスととらえたんだろう。

 〈まうよ〉が女性達を助けようと左の部屋に走っていく。そうさせまいと男の一人が〈まうよ〉を追いかけようと俺に背を向けた。


 〈まうよ〉の太ももに理性を少し失くしたか、俺をかなり()めているのか、きっと両方なんだろう。


 俺への間違いを正してあげるために、タッと瞬時に駆動(くどう)したパンストマスクの俺は、男の背中へ両足を(そろ)えて飛び蹴りをお見舞いしてやった。

 オリジナルじゃないけど両足ロケットと名付けよう。


 男の後ろ(がわ)には目がついていなかったようで、両足ロケットが完璧に決まり壁へ「ドガン」と頭から突っ込んでいった。

 俺は男の背中を踏み台にして後方宙返りを決行する。

 両足を綺麗に揃えて、俺は着地もピタリと華麗に決めることが出来た。

 パンストさえ(かぶ)っていなければ完璧だと思う。


 【〈かっくん〉、ありがとう。 カッコ良いよ】


 ちょっぴり嬉しいぞ。意味の無い嘘を吐いていました。すんごく嬉しいです。


 壁に激突した男がピクリとも動かないのは、打ち所が俺には良くて脳震盪(のうしんとう)を起こした可能性が高い。


 「なんだよ。 カスのくせに暴力はよせ」


 〈まうよ〉が〈かっくん〉と呼んだから俺の正体が分かったらしい。残りの男は明らかに動揺しているようだ。

 女の〈まうよ〉は数に入れずに、二対一と思っていたのが、早々に仲間がやられてマズイと感じているんだろう。


 だけどマズいのは俺も方もだ。

 一階から黒くて臭い煙がモクモクと上がってきているんだ。一階は燃え広がっているらしいぞ。


 赤い炎がチロチロと二階の廊下を舐めるように上がってきたのも見える。温度も急激に上昇中だ。

 俺の(ほほ)から汗がタラリと流れ落ちていくのを感じた。


 【一部屋は開けたわ。 二階は後一部屋に三人が監禁されているみたい】


 〈まうよ〉はとても都合の良い女だから、部屋の内側に出現してドアの鍵を開けることが可能だ。

 未来の動物型ロボットも真っ青になる超便利な女である。

 真っ青になるのは、決してブルーシートで(おお)われているせいじゃないと思うな。


 〈まうよ〉の開けた部屋から、三人の女性が出てくるのが見えた。

 腹立たしいことに三人は犬の首輪のような物で一繋(ひとつな)ぎにされているようだ。

 せめて人として(あつけ)えよ。人間の尊厳を失くすようなまねをするんじゃない。


 残った男が逃げる女性達に気をとられた(すき)に、俺はスーッと近づいて、ナイフを握っている親指の(けん)をスッパと切ってやった。


 「ぎゃあー、指を切り落とされた」


 ブラブラとしているが、まだついているじゃないか、大げさに(わめ)くな。


 〈まうよ〉はもう一つの部屋も開けて、後の三人も助けてくれたが、一階へ降りる階段はすでに燃える試練へ変わろうとしている。


 【〈かっくん〉、どうするの。 私達だけならどうにでも出来るわ。 でもこの女達は無理そうね。 首輪で繋がっているのが根本的にマズいのよ】


 どうするべきか、無茶でも強行突破しか無いと腹を決めようとした時に、パーンと音をたてて青いブルーシートが(ふく)らんだ。


 非常階段を(おお)いつくしいていた邪魔なブルーシートが、急に上へと持ち上がっていっている。

 火事で熱せられた空気が持ち上げたんだろう。

 俺の作戦ミスを帳消(ちょうけ)しにしてくれているじゃなかいか、どうもありがとうございます。


 「〈まうよ〉、非常階段が使えるぞ。 そっちへ誘導してくれないか」


 【はい、任されたわ。 ふふっ、天も〈かっくん〉のことを愛しているんだね】


 「よせやい。 俺は〈まうよ〉だけで充分満足しているよ」


 「イチャイチャは後でしてください。 早く逃げましょうよ」


 繋がれた女性達は呆れてしまったのか、少し怒っているようだ。助けてあげたのにそれはひどいと思うな。


 「〈聖子ちゃん〉、監禁されていた女性達を救出したんだ。 非常階段を今降りていくから、保護を頼むね」


 「ちょっと〈うろ君〉、何回も連絡したのに無視してひどいじゃない。 何が何だか分からないよ。 このビニールシートはなんなの。 おまけに煙まで出てきたわ。 私に代わってちゃんと警察に説明してちょうだいよ」


 長くなりそうだったから俺は返事を~あきらめて、〈聖子ちゃん〉との通話を直ぐに切った。

 まだ三階に監禁されている女性達が、俺というヒーローを待ち望んでいるんだ。




 三階へ駆け上ると火事の煙の中に〈真田〉が、醜悪極(しゅうあくきわ)まりない怒りの表情で俺を待っていた。


 決着をつける場所として、良いセットが組まれていると思うが、待っていたのは〈まうよ〉の方だったのかも知れない。

 ヒーローのお面をつけているのは俺じゃないし、俺の約束を勘違いしている可能性もある。

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