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パンティストッキングを頭から被ってー変態

 【お早うございます。 〈うろ〉の嫁が参りました】


 「うわぁ、〈ももちゃん〉だ。 早かったスね。 今開けまス。 兄貴の次は俺が可愛がってあげるス」


「残念でした。 可愛がられるのはあんただよ。 相撲業界の言葉だけどな」


「えっ」


「ドガァ」


 いそいそと玄関のドアを開けた、深海ギョロこと〈穴山大輔〉のにやついた顔へ俺の飛び膝蹴(とびひざげ)りがゴンと炸裂(さくれつ)する。

 深海ギョロの口の中がザックリと切れたらしい。

 真っ赤な口から血を撒き散らし、ギョロ目が白くなり後ろへドンと倒れやがった。


 虐められっこ〈うろ関〉の膝押し倒しで勝負あり。


 「今の音はなんだ」


 「玄関で大きな音がしたぞ」


 奥から出て来た二人の男は、それぞれの右足と左手にギブスをしている状態だ。きっとあの呪われた黒い石が当たったのだろう。

 こいつらは女性の尊厳をひどく(おか)したんだ。この程度の怪我じゃ呪いと言うか(うら)みに、まだまだ釣り合っているはずがない。


 だから俺はそれぞれの右足と左手に、ローキックと手刀を女性達の代りに追加してあげたんだ。当然だろう。


 「ぎゃあー、折れた足が」


 「ぐがぁー、また手が折れた」


 ぎゃあー、ぐがぁーと五月蠅く鳴き叫びやがるので、後頭部への回し蹴りからの踵落(かかとお)としで黙らせてやる。

 ふっ、騒がれるとこの後の作戦に支障(ししょう)をきたしてしまうよ。


 昨日夜に焼肉でも食ってたのか、テーブルを上のガスコンロを引き落としながら、二人の男は床に崩れ落ちている。

 こんな犯罪者でも健康に気をつけているんだな。肉だけじゃ無く、玉ねぎの焦げた匂いも強くしているぞ。


 非常階段の鍵がかかった鉄柵は前蹴り一発で粉砕出来た。()びてボロボロだったからだ。

 今は錆びた鉄柱だけになっている。


 〈まうよ〉と二人で「うんしょ」と青いビニールシートの大きな塊を屋根に運んでいく。

 ビニールシートの大きな塊を屋根へ上げるのは大仕事だけど、〈まうよ〉が超能力者のようにパッと屋根の上に姿を現すことが出来るため超便利である。

 屋根の(すみ)に丈夫なロープを(くく)りつけ、そのロープを使い引っ張り上げるのと俺が塊を押す連携でなんとか上に乗せることが出来た。


 〈まうよ〉の短いスカートから下着が見えていたが、今はゆっくり鑑賞している余裕がないことが超絶残念無念だ。


 俺は〈まうよ〉の白い股間から強い意志の力で己の邪な目を引きはがし、ビニールシートを屋根に広げようとしたけれど。

 あれれ、計算より大量に余ってしまうぞ。


 作戦ではビニールシートで〈コモド滝〉の全体を(おお)い、呪われた暗黒を突発的に作り出すことで、犯罪者の男どもがパニックになるはずだったんだ。


 それなのに全体を覆いつくしても、ビニールシートはまだ倍以上余りそうだ。


 【〈かっくん〉、失敗なんじゃないかな。 屋根を測った時から、大きすぎると思っていたんだ。 どうすんよ、このビニールシート? 】


 「くっ、早く言ってくれよ。 だけど、きっと問題はたぶん無いさ。 少なすぎるのは良くないが、多いのは問題がないはずだ。 大は小を兼ねるって言うだろう。 そう信じるんだ」


 かなり時間がかかったが、なんとかビニールシートで〈コモド滝〉を覆うことが出来た。

 〈コモド滝〉の四隅の壁をドリルでガリゴリと開けて、むき出しにした柱へ丈夫なロープでビニールシートを確実に括りつける。

 壁に大きな穴が沢山空いてしまったが、もう屋根に大穴が開いているのだから些細(ささい)な問題である。

 風でビニールシートが飛んだらいけないからな。何本ものロープを使うことは理にかなっているはずだ。


 作業に思った以上に手間取り、想定外に疲れた俺と〈まうよ〉は少し休憩をとっていたのだが。

 ビニールシートに包まれた〈コモド滝〉の中から、「ボン」と爆発音が響いた。


 俺の作戦には、爆破なんて高度のものは組み込んではいない。誰が起こした破壊活動なんだろう。


 「〈まうよ〉、何が起こったと思う? 」


 【私にも分からないわ。 ただ女達に危険が迫っているはずよ。 〈かっくん〉は女達を助けるために、昨日は土下座までして我慢を重ねたのでしょう】


 「作戦はすでにボロボロのような気もするけど、〈コモド滝〉へ突入するぞ」

 

 【ふふっ、殲滅(せんめつ)しちゃえば良いのよ】 


 俺達が〈コモド滝〉の玄関に飛び込むと、一階のあちこちから炎が立ち昇っていた。

 焼肉をした後のテーブルが一番強く燃えているようだ。


 「あっ、玉ねぎ臭いと思ったのはガスの匂いだったんだ。 ガスが漏れているのに、誰かが電気のスイッチを入れたんだな」


 【酔っ払って、ガスの元栓をちゃんと締めていなかったんじゃないかしら。 そこに私達が真っ青に暗くしたから、慌ててスイッチを入れたんだわ】


 〈まうよ〉の解説はやっぱり酔っ払いに厳しい。


 炎の横でまだ寝ている骨折コンビを後に、俺達は二階へ昇っていく。

 俺は階段の途中で立ち止まり、飲み友達から送られたヒーローのお面をかぶることにした。

 囚われた女性を救出しに行くんだから、ヒーローのお出ましに決まっているじゃないか。


 【そうだわ。 顔を見られないように隠した方が良いわね】


 〈まうよ〉は何を思ったのか、はいていたパンティストッキングを脱ぎ出したんだ。

 短いスカートでそんなことをすれば下着がモロ見えだぞ。

 まさか誘っているのか、今はさすがによそうよ。


 刹那(せつな)のうち俺の頭に去来(きょらい)した(よこしま)な思考は(またたく)く間に破られた。


 パンティストッキングを破ったわけじゃない。

 〈まうよ〉は脱いだパンティストッキングを頭から(かぶ)ろうとしているぞ。

 何を考えているんだ、この女は。

 

 〈まうよ〉の気高く美しい顔が、パンティストッキングの圧で変顔みたいに(ゆが)んでいるじゃないか。こんなことが俺に耐えられるはずがない。


 「〈まうよ〉、このお面をかぶれ。 俺がお前のパンティストッキングを被ろう。 〈まうよ〉はいつも美しいままでいて欲しいんだ」


 【あはっ、私のパンティストッキングを〈かっくん〉は被りたいんだね。 まだ体温でヌクヌクなんだよ。 ちょっと変態だけど、それ以上に愛を感じるわ。 そんな〈かっくん〉でも私は愛しているわ】


 大きな勘違いがあるし変態認定されてしまったけど、結果的には良かったのかな。

 評価が分かれるところである。


 〈まうよ〉はヒーローのお面を、俺は〈まうよ〉のパンティストッキングを頭から被って、改めて階段を駆け上がった。

 女性達に合わせてわざわざアイドルっぽい格好をしたのに、お面で台無しになっていないか心配ではある。

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