妻には良く言い聞かせますー明日
「バギィ」
〈穴山大輔〉は自分の行動がヤバいと察してアワアワとしていたのだが、言い訳も聞かないで直ぐに鉄拳制裁をしてやがる。
〈真田〉はたいていのことを今みたいに単純な暴力で解決しているんだろう。
「ぐぅー、兄貴すんませんス」
「バカ野郎。 持ち場を離れてどこに行ってやがるんだ」
「タダで屋根を直してくれんスよ」
「ほぉ、ここに詐欺の営業をするバカがいたのか? 」
「無料点検をさせていただきました。 屋根に大きな穴が空いていますから、ビニールシートで覆う必要がありますね。 火災保険で全額カバー出来ますので実質は無料ですが、一千万円かかりますけど、実はタダなのです」
「はっ、人をバカにした頭にくる言い方だな。 ん、良く見たら、カスの〈うろ〉じゃないか。 まだ死んで無かったのか? しぶといゴキブリのようなヤツだな」
「〈真田様〉はご壮健のようで何よりですね。 この度は我が社と一千万円のご契約を結んでいただきありがとうございます」
「はははっ、〈真田様〉とは笑わせる。 あんだけ虐めてやったのに、俺に様づけをするとは、とことん情けない男だ。 はん、そうか。 カスの〈うろ〉のことだから営業がまるでダメなんだろう。 契約がとれなくてクビになる寸前なんだな」
「そうなんです。 どうかお慈悲をお願いします」
「けっ、とことんカスだな。 お前にはプライドってもんがねぇのか。 毎日あれだけ殴ってやったのによ。 パンツを引きずり下ろして、むき出しの股間を女子に晒してやったこともあったな。 あははっ、女の子に変態だって悲鳴をあげさせるのが面白かっただろう。 お前が必死に抵抗するのがちょっとウザかったが、何回やっても飽きない遊びだったよ。 トイレにいけなくして小便を漏らしたこともあったよな。 股間を濡らしたまま、お前は午後の授業を受けていたっけ。 あははっ、みんなに汚いとか恥知らずって言われていたのを知らなかったのか? 」
「知っていましたよ。 何人もに直接そう言われました」
「へぇー、そうなのか。 それならお前の母親が虐めても良い、と言ってたのを知ってたか? 」
「それも知っています。 それも直接言われましたが、その人は母親じゃありません」
「あぁ、忘れていたよ。 カスの本当の母親はミイラ女になって干からびたんだよな。 あははっ、お前の次の母親は最高だったな。 担任と浮気をするわ、俺にもやらせてくれたぞ。 カスの母親に相応しいビッチだよ」
「もう一度言いますが、その人は母親じゃありません」
「はははっ、そう言ってやるなよ。 俺の場合はお前の弟を頼むという条件だったが、体を売って生活費を稼いでいたんだろう。 その弟は今もうそうだけど最高に悪いヤツだ。 可愛い顔をしてお前が死ねば良いって言うんだぞ。 すごい人気者でキャーキャー言われていたけど、ありゃ本当の弟じゃないだろう? 」
「その子は弟じゃありません」
「きゃははっ、やっぱりそうか。 どう見ても顔が外国人とのハーフだったからな。 外国人と浮気をしたのか、それとも売春で避妊を失敗したのか。 どっちにしろお前の父親は間抜けでとことん情けない男だ。 金も稼げない無能で、生きている価値も無いクズだ」
「あんなのは父親じゃありません」
「そりゃ、そう言うよな。 お前を道の真ん中で虐めていても、知らん顔で通りすぎて行ったからな。 あははっ、極悪で最悪の家族の中で良く生きてこれたな。 そこだけはすごいと思うよ」
「ありがとうございます。 明日は朝からビニールシートを被せに来ます」
「ちょっと待て。 隣のとんでもなく〈まぶい〉ねえちゃんを俺に貸せよ」
「貸すことは出来ません。 この女性は妻なのです」
「はぁ、カスのクセに嫁がいるのか。 それもすごい美人じゃないか、驚いたな。 世の中はやっぱり狂ってやがる。 良く見ると妖しいくらいに美しいぞ。 人間じゃないと思う、俺の目が狂っているのか? 」
「えぇ、人じゃないですからね」
「んー、どういう意味だ。 俺を人でなしって言いたいのか。 お前になんか言われても屁でもねぇよ。 はははっ、俺はその辺の一般人とは違う超人なんだよ。 〈まぶい〉ねえちゃんよ、俺の女になれ。 くくっ、俺のデカいあそこで毎日天国に連れていってやるからさ」
【お断りします。 私は〈かっくん〉にしか抱かれたくありません】
「ぎゃははっ、〈かっくん〉ってなんだよ。 言ってて恥ずかしくないのか。 バカじゃないの? 」
【〈かっくん〉はバカでもカスでもないです】
「ふん、そんなわけ無いだろう。 〈大輔〉、グズグズすんな。 女を捕まえろ」
「ちょっと待ってください。 〈真田様〉、一日だけ猶予をお願いします。 妻を必ず明日連れて参りますので、最後の別れをさせてください」
俺は土下座をして〈真田〉に懇願した。
顔を〈真田〉に足を舐められるくらいに下げた。
床に這いつくばった姿勢だ。
「くははっ、カスもカスなりに年をくって賢くなったらしいな。 しょうがない、明日まで待ってやるよ。 ただし約束を破れば絶対に容赦しないぞ。 どこまでも追い詰めて、生かしちゃおかないからな」
「感謝申し上げます、〈真田様〉。 妻には良く言い聞かせますので楽しみにお待ちください」
「ぎゃははっ、そんな顔をするな。 〈うろ〉なんかより俺の方が何十倍も男として優れているんだぞ。 直ぐ蕩けた顔へ変えてやるよ」
俺と〈まうよ〉は無言のまま、日曜大工センターで大量の青いビニールシートを買った。
数が足らないからタクシーで5店もハシゴをしてかき集めたんだ。
そしてその青いビニールシートを徹夜で接着剤を使い張り合わせていく。
俺は夕食を食べないし、〈まうよ〉はシャワーさえ浴びないで、ただ一心不乱に異常な集中力で張り合わせ続けた。
接着剤に含まれているシンナー成分でフラフラになりながらだ。
ようやくドデカい青いビニールシートが完成した時には、もう朝日がかなり高く昇っていたと思う。
〈まうよ〉が持っている服の中で、一番短いスカートと大きく胸元が開いたフリルブラウスへ着替えている間に、俺は〈聖子ちゃん〉に長いメールを送っておいた。
〈まうよ〉服は監禁されている女性達に合わせるためだ。
「さぁ、行こうか」
【えぇ、行きましょう】




