〈お救いパンツ〉じゃないかー下着
俺達は〈穴山大輔〉に案内されて、三階へ昇っていく。
少しは警戒をしているのだろう、通常の階段じゃなく、外壁に作られた非常階段を昇らされている。
非常階段も古くて壊れそうなっているから、ちょっとビビるくらいだ。
手すりが赤さびで覆わられてボロボロだ。少し触っただけで崩れそうに見える。
驚いたことに非常階段の出入口には頑丈な鍵がつけられていた。
これでは非常時に逃げられないじゃないか、こんなの非常階段の役目を果してはいないよ。
二階に上がるとバスタオルに隠れて、睨んだとおりに女性物の服が干してあった。アイドルが着るような短いスカートの服が数着ある。
下着もレースが多く使われたヒラヒラとしたものが何枚も風に揺れていた。
こんな服を着せられてエロい撮影会で激写されているんだろう。他人とはいえ強い怒りを覚えてしまうぞ。
ただし壮観ではある。犯罪の拠点とはいえ、良い景色だと思わざるをえない。
【二階は下着の数から推理すると5人くらいかな】
〈まうよ〉は俺の脇腹を抓りながら、囚われている女性の人数の予想を教えてくれた。
俺は痛いのを堪えて沈黙を守るしかない。こんな時は何も言わないのがベストである。
三階にも同じように服と下着が干してあった。少し数は少ないようだ。
【三階は下着の数から推理すると3人くらいかな】
「合わせて8人か。 よくこれだけの人数を監禁出来ているな」
【暴力の恐怖と物理的にも何かで拘束されているんじゃないかな】
俺がまた〈まうよ〉に抓られながら下着を見ていると、そこに込められたあるメッセージを認めた。
これはアレだ。〈お救いパンツ〉で間違いない。
物干し竿に、SMあるあるの女王様がお召しになるボンテージのビニールレザーの黒パンツと、局部がO型に丸く空いたパンツと、またボンテージのビニールレザーの赤パンツが三枚仲良く風にヒラヒラしていたんだ。
SOS 。
「〈まうよ〉見てみろよ。 あれはSOSのサインだ。 〈お救いパンツ〉じゃないか。 女性達が俺に助けを求めているらしいぞ。 痛ててっ」
【はい、はい。 もっと痛くしてあげようか。 白昼夢はもう見たくないでしょう】
「うぅ、干してある下着をジロジロともう見ません。 〈まうよ〉のしか見たくないです」
【良く言えました。 お利口さんですね。 後でお駄賃をあげましょうね】
無料点検だから〈まうよ〉と俺は、屋根の上に登り点検らしいことをして見せる必要がある。
屋根がせり出している構造のため、非常階段からは簡単には登れそうにないな。
どうしたものか。
それらしく見せるための用意してきた脚立が本当に役立ってしまうな。
〈まうよ〉のお尻を「うんしょ」と押してあげたら、なんとか登ることが出来た。
いつも触っているため、〈まうよ〉のお尻に今さら特別な感動は持てない自分がいる。
少し淋しいぞ。
「あぁあぁ、僕が押してあげたいス」
深海ギョロがふざけた欲望を吐きやがるので、淋しい気持ちが殺意に変わってしまうな。
巨大隕石が落ちて地球が滅亡しても、お前には〈まうよ〉を絶対に触らせない。
他の男も全てだ。隕石の衝突で出来たクレーターに落ちてしまえ。
「点検の結果ですが、屋根に大きな穴が空いていますね」
玄関からも見えていたんだ、点検の必要はないくらいの大きな穴が空いている。
〈左官〈中〉〉のスキルが屋根全体を修理する必要がある、と分野違いであるにもかかわらず俺の頭の中で判断を下した。
それだけ大きな穴で、屋根全体が損傷を受けているってことだ。
そう言う事だから、俺と〈まうよ〉は屋根の大きさを計測することにした。
結果は横約2㎞縦約1㎞だった。思ったよりも小さいな。
【〈かっくん〉、ちょっと図り方が違っていない? 】
「大丈夫、大丈夫。 何も問題はないさ」
「〈穴山大輔〉さん、普通では考えられない大きな穴が空いています。 このままではこのアパートに深刻な影響が出るでしょう」
「そうスね。 もう出てるんスよ。 〈正人〉と〈誠也〉が呪われた黒い大きな石で怪我したんス」
隕石作戦は思った以上に効果を生んだらしいな。
「えぇー、呪われた石に当たったのですか? 」
「〈正人〉と〈誠也〉は天罰が当たったと非科学的を言っているス。 でもおいらは信じないスよ。 〈真田〉の兄貴が無傷なのがその証拠ス」
なるほどな。この深海ギョロは見かけより科学的な思考が出来る生き物らしい。
「呪われた石は一旦落としてしておいて、屋根の件ですが、直ぐに修理が出来ないです。 修理に長い時間がかかりますので、一旦ビニールシートを被せるしかないと思います。 地震とかで壊れた屋根にかける青いヤツですよ。 テレビで見たことがあるでしょう」
「あれスか。 雨がドスドス漏ってきているんスよ。 早く被せてほしいス」
「了解しました。 火災保険で全額カバー出来ますので実質は無料ですが、一千万円かかりますけど、実はタダなのです」
「そっスか。 タダならいいスよ」
【〈かっくん〉、犯罪者の拠点が火災保険に入っているとは思えないんだけど? 】
「まぁ、良いじゃないか」
【もぉ、いい加減なんだから】
色々と穴はあるし、口頭ではあるけど無事契約を済ませることが出来たんだ。
目的は達成したと言えるだろう。
非常階段を降りて一階に戻ると、真っ赤に怒った〈真田〉が仁王立ちで待ってやがった。
中学の時よりも厳つい顔と体になっている。プロレスラーでも通用しそうなほどだ。
眉間の皺は深く目つきも鋭い。不機嫌そうな顔はカッカッと怒っていても爬虫類のように冷たい印象がある。
顔の輪郭はゴツゴツと歪で首には青い線の刺青が覗いている。
パッと見てもじっくり見ても、斜めから見ても、まともな人間の顔じゃない。




