エロくてバカで面白いー嗜好
現実でも俺は、トラブルに巻き込まれないため、喫茶店のテーブルにしっかりと掴まっていた。
底に渦巻くものは、そのくらいの激しさがあると感じていたんだ。
掴まっている俺の手を、〈まうよ〉が優しく自分の手で覆い、またニコニコと笑っている。
止めて抓らないで、と祈ることしか出来ない俺は、とてもヘタレなんだと思う。
そして俺は中身を知らないまま、〈聖子ちゃん〉の頼みを引き受けてしまった。
だってさぁ。
〈聖子ちゃん〉に助けてもらったのだから、少なくとも一回は頼みを聞く必要があると判断したんだ。
〈聖子ちゃん〉が上手く言ってくれなかったら、俺は社長どころか、今頃は刑務所の中かもしれないよ。
同窓会はあの後、大変だったらしい。それはそうだろう。それで逃げたんだからな。
〈聖子ちゃん〉は警察の事情聴取を長い時間受けたそうだ。
長髪幽霊はお店に多額の清掃と修理代を支払うことになったが、起訴までされなかったらしい。
消火液を噴出しておしっこを漏出しただけだから、居酒屋ではたまにある事なんだろう。
ぐでんぐでんに酔っぱらったおっさんなら、たぶんやるよ。
店もおしっこを撒き散らされた、と評判になるのが嫌だったんだと思う。
おしっこ塗れの店だと、嫌がるお客さんがいてもおかしくはない。
もうあの店には行かないと俺は固く心に決めている。
一番の問題は全裸で拘束されていた男女の扱いだ。自分達で拘束するのは不可能であるため、自動的に犯人がいる事になってしまう。
良くないな。
そこで登場するのが、ぬりかべこと〈鈴木〉女史だ。
意識を失う寸前に〈鈴木〉女史に服を脱がされたとの証言が決め手になったようだ。
〈鈴木〉女史は睡眠薬で眠らされたと訴えたのだが、薬の瓶からは〈鈴木〉女史の指紋しか検出されなかったため、逆にとても悪い心証を警察に与える結果となっている。
〈鈴木〉女史は記憶に無いと言っていたらしいが、〈まゆよ〉が化けていたんだ。悔い改めて素直に諦めろよ。
ロープも手錠も、全裸で拘束されていた男女が用意していた物だ、と捜査で明らかになった。
消火液の噴出とおしっこの漏出は別として、ロープと手錠で拘束されるのは、本人達の希望だったと推理出来ないこともない。
ロープと手錠を用意した本当の目的を言わないのだからな。
〈聖子ちゃん〉は集団で暴行されるところだった、と真実を証言したのだが、その犯人達が全裸で拘束されているのだから。
「言ってみただけって感じ」
と遠い目をしていたよ。
チョコチョコと俺が動き回っているのが見えたらしいが。
「黙っててあげたのよ」
「感謝してよね」
「〈うろ君〉はあんなに虐められていたんだから、これくらいの復讐は当然よ」
とニッコリ微笑んでくれた。
〈聖子ちゃん〉はやっぱり良い女だな。
結婚はしているのかな。子供はいるのかな。セクハラ研修を受講したせいで、俺は聞く事が出来ないのだ。
同窓会の出席者は、全裸で拘束されてする行為を嗜好しているとんでもない変態と、噂が広まっていくだろう。
SNSにそう書き込む、全裸じゃなくて着衣プレイ好きがいるらしい。
しこうの違いは相いれない。それは時に大きなウエーブを引き起こしてしまうんだ。
きっと世に広く長く拡散するに違いない。だってエロくてバカで面白いもん。
【〈かっくん〉、モテていると調子に乗ってませんか。 もう私に乗せてあげませんよ】
「〈まうよ〉、なんて事を言うんだ。 〈まうよ〉に乗れなくなったら、俺は液を漏らしてしまうぞ。 ニチャニチョからカチコチになっても良いのか? 」
【うふふ、いつも私に中に漏らしているくせに、今さらなによ】
「違う。 それは大きく違うんだ。 それは漏らしてはいないんだ。 噴出って言えよ。 大噴出でも良いが」
【おほほっ、小噴出となら言ってあげるわ】
「ちくしょう。 毎晩してるから、その量になるのはしょうがないんだ」
〈聖子ちゃん〉のお願いは、俺が中学生の時に住んでいた町の様子を、探ってきてほしいとのことだった。
俺の実家の近くに、どうも違法行為の拠点があるらしい。
タレントやモデルにスカウトしたふうを装って、撮影会と称する乱交の売春を強要されているようだ。当然ながら若い女性が犯罪の被害にあっている。
「私は女性の権利を守る活動をしているんだけど、その違法なスカウトグループのリーダーを炙りだしたいのよ」
「そいつの拠点が俺の実家の近くってことか? 」
「そうなのよ。 実家に帰省したってことで、近くを散歩してくれるだけ良いわ。 出来ればそのアパートに出入りしている男の特徴を教えてほしいのよ。 ただ裏で暴力団と繋がっている可能性もあるから、絶対に無理はしないでね」
〈聖子ちゃん〉の実家はまともだから、俺にも軽く帰省と言ってくれる。
だけど俺の実家はまともじゃない。中学校での虐めよりも、ある意味ひどい目にあわされていたんだ。
大きな原因は俺の実母が重い病気になった後、父親が愛人を家に連れ込んだからだ。
だから実家には帰りたくもない。しかし〈聖子ちゃん〉の頼みを破るのは男がすたる行為だ。
そんなヤツはマスターベーションを一生やっていろ。とても経済的ではあるけど、それでは少しだけ情けない。グリングリンされる気持ちの良さも味わえない。
エロの3DはAiの発展により、後五年待てば飛躍的に進歩するはずだが、それまではとても待てないんだ。
俺は何をほざいているんだ。精神が乱気流だぞ。それだけ実家が嫌だってことだろう。
ただ良く考えれば、そのアパートの前を散歩するのに、実家に帰省する必要なんかないじゃないか。
公道なんだから堂々と歩けば良いだけの話である。




