いい気になっているんじゃないー嫉妬
「ははっ、ナイフの達人から盗んだんだよ」
「へぇー、見て技術を盗んだんだ。 〈うろ君〉はやるね」
「〈聖子ちゃん〉、〈うろ〉なんて褒める必要はない。 君まで穢れてしまうぞ」
ラクダの〈斎藤〉が俺に嫉妬したのか、赤ら顔で立ち上がりド失礼なことを言ってくる。
「穢れているのはお前だろう。 ほうら、一番穢れている場所を消毒してやるよ」
俺は瞬間移動ばりに近づき、グレープフルーツに突き刺さったナイフを抉るように抜き取った。
その酸っぱいナイフを〈斎藤〉の肛門にズボン越しに刺してやる。
ズボンの縫い目がほつれていたんだろう。ズボッと根元までナイフが突き刺さる。
食器のナイフで突き破れたのは、〈短刀術〈上〉〉が伊達じゃない証拠だ。
グレープフルーツの酸で肛門が消毒されたのは間違いない。
元が穢れすぎているため、ほんの少しだけだが。
このナイフを洗って再利用することは倫理的にアウトだな。
「ひぃー。 突かれた。 おぉおんー」
ラクダの〈斎藤〉はナイフを尻に刺したまま、崩れ落ちて四つん這いの姿勢だ。
肛門に異物の侵入を許して立っていられないんだな。
敏感な場所を刺激されて、力が入らないんだろう。
気持ち悪い男だよ。
ラクダ男として四つん這いは似合っている。その点だけは評価してあげよう。
この騒ぎで、このテーブルはもちろん、もう一つのテーブルの四人も俺を注目してだした。
当然だよな。
俺がいたテーブルでは、ぬりかべが昏睡状態になっているが、まだ誰も気づいていない。
テーブルに突っ伏しいるから、酔っぱらって寝ていると思っているのだろう。
だが正解は俺と〈聖子ちゃん〉に盛った薬をすり替えられて、逆に自分が摂取したからだ。
俺がやったんだ。
ぬりかべのくせに、木乃伊取りが木乃伊になっているぞ。
そのぬりかべを、〈まうよ〉がバックヤードを隠すための衝立の向こうへ、引っ張りこもうとしている。
パーテイションってヤツだ。
両足を持って引っ張るから、スカートがめくれあがり赤いレースのパンツが丸見えだ。
ぐぇっと、えずきそうになる。俺は瞬間的に目をそらした。
〈まうよ〉は何を企んでいるんだ。
こんな汚物を見せるなんて虐待に近いよ。
衝立から出て来た〈まうよ〉は、ぬりかべの服を着ているぞ。
どんな服を着ても〈まうよ〉が美女なのは変わらないな。
俺の目も美しいものを見ることが出来て、ほっと一息つけている。
髪で顔を隠すように俯いたままで、ぬりかべに化けた〈まうよ〉が大声で告発を始めた。
化けたか。
ぬりかべは化け物だから、ややこしいな。
「私は告白します。 ここにいる男どもは〈聖子ちゃん〉に薬を飲まして、なぶりものにしようとしていました」
〈まうよ〉は物真似も出来るんだ。
〈まうよ〉だと知っている俺は別人と分かるが、知っていなければ違いが分からないレベルだ。
「あっ、何を言っているんだ。 〈鈴木〉は頭がおかしくなったのか」
「証拠もないのに、いい加減ことを言うなよ」
「この強力な睡眠薬がその証拠です」
「〈鈴木〉が持っているのが、どうして証拠になるんだよ」
「そうだ。おかしいだろう」
「〈鈴木さん〉、その話は本当なの?」
「〈聖子ちゃん〉、本当よ。 私はお金のために、あなたに睡眠薬を飲まそうとしたんだ」
「はぁ、違うだろうが。 〈鈴木〉が言い出したことだろう。 〈聖子ちゃん〉が嫌いだからって言ってたよな」
金のためじゃなかったのか。〈まうよ〉の推理が外れてしまったな。
だけど、酔ったせいなのか、自分で悪だくみを白状してやがる。
バカっじゃない。
「〈森本君〉、どう言うことなの。 あなたも私に乱暴しようとしていたの?」
〈森本〉の顔は猿のように真っ赤だ。
知能も猿並みで、性欲もムキ出しで隠せていない。
きっと尻も赤いはずだ。
あそこは尻尾みたいにビロンビロンしているに違いない。
「ち、違う。 俺は止めようとしてたんだ」
「はぁ、良く言うよ。 〈森本〉が一番乗る気だったじゃないか」
「なに言ってるんだ。 〈広川〉が作戦を考えたんだろう」
〈広川〉は背がひょろっと長く舌が異常に長い。漫画に出てくるキリンのような男だ。
キリンの属性は正義のことが多いけども、こいつは根っからの悪だ。
極悪キリンだな。
「信じられない。 こんなの大きな犯罪よ。 大勢で私を犯すつもりだったのね」
「ちっ、こうなったら、さくっとやっちまおうぜ。 五階に部屋を用意してあるんだ。 撮影機材もバッチリだからよ。 凌辱シーンの動画で¥脅せば、口封じは出来るってもんよ」
病気のヤギは法律事務所に勤務しているくせに、もろに犯罪を実行する側になってやがる。
「呆れたわ。 忙しいからと断っていたのに、しつこく同窓会に誘ってきたのは、こんな目的があったんだ。 最低の人達だね。 中学の時から何にも変わっていないクズね」
「ぎゃぁぎゃぁと五月蝿いわね。 少し顔が良いからって、ちょっと頭が良いからって、あんたは鼻につくんだよ。 私より不幸になりなさいよ」
「そうよ。 〈美鈴〉の言う通りだわ。 昔から男にチヤホヤされて、いい気になっているんじゃないよ。 傲慢な女は地獄に落ちろ」
「くっ、〈美鈴ちゃん〉と〈良美ちゃん〉は私をそんな風に思っていたの? 」
「あははっ、〈聖子ちゃん〉はもう諦めた方が良いよ。 味方はカスの〈うろ〉しかないんだぞ。 そいつは屁の突っ張りにもならないダメなヤツだ。 大人しく俺に犯されてくれよ。 気持ち良くしてやるからさ」
男達は鞄からロープや手錠を取り出し、ニタニタと口を歪ませている。
こいつらは中学生の時から人でなしだったが、今はそれ以上だ。
動物の姿を借りた低位の悪魔に見える。
今までの人生においても、様々な罪を犯している可能性が高いと思われる。
〈聖子ちゃん〉とぬりかべにジリジリ迫ってくる姿は、まるで欲望を悪意で固めた塊だ。
か弱い女性をロープや手錠で拘束するのか。
こいつらは、つくづく歪んだ精神を持ってやがる。
口封じのために、ぬりかべの裸も撮るつもりなんだ。
たぶん、さかった猿が上に乗っている動画になるんだろうな。




