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作業服

 ホテルは朝食つきだったから、バイキングをお腹一杯食べて、まったりと俺はコーヒーを飲んでいる。

 奪った金がまだ9万円近くあるのは心強い。

 俺からすれば大金だ。

 だから余裕をこいているんだ。


 これからどうしようかな。

 働き口を見つける必要があるな。

 奪った金でしばらくは暮らせるけど、金はいずれ無くなってしまうものだ。


 「〈まうよ〉は、どうすれば良いと思う? 」


 口だけの〈まうよ〉は他の人からは見えていないようだ。

 隣のテーブルのサラリーマンも、わざとらしく俺を視界に入れないようにしている。

 

 俺はいない人あつかいだ。

 作業服でビジネスホテルに泊まる人は少ないし、俺の作業服はドロドロに汚れているからな。


 【そうですね。 服を買いに行きましょう。 その作業服はかなりダサいですね】


 「そうか、ダサいか」


 自分でもそう思っていたが、〈まうよ〉に言われるとショボンとなってしまう。

 金はあるんだ。

 まともな服を買おう。


 〈まうよ〉に勧められて、流行を安く提供してくれるファストファッションの店に行くことにした。

 安いのは良いけど、若者のファッションが俺に似合うか、かなり心配になる。


 大きな通りを歩いて店に向かっていると、前からきた三人組のチンピラが明らかに俺を見ている。

 逃げようかと迷ったのだが〈まうよ〉の【やっちゃいましょう。私は食事がまだです】と言う言葉で、逃げずにいた。


 そして、三人は俺を取り囲んできた。

 目は血走り顔も脂じみている。

 なんだか疲れてもいるようだ。

 〈実践空手〈中級〉〉のスキルを手に入れた俺はチンピラの三人くらい屁とも思わない。


 昨日の俺からすれば考えられない話だな。

 ただ過信は良くないとも思う。


 「おい、作業服のおっさん、見たヤツがいるんだ。 お前、兄貴をやっただろう。 俺らが敵をとってやる」


 こいつらはあの男の舎弟か何かだろう。

 一晩中俺を探していたらしいな。

 ご苦労なことだ。


 「兄貴は膝が潰れて、精神的にも参っているんだぞ。 おっさんは、やっちゃいけない事をしたんだ。 その報いを受けろよ」


 スキルを奪われて劇的に弱くなったから、精神を病んだのかな。

 暴力を売り物にしている稼業じゃ致命的なんだろう。


 こいつは報いって難しい言葉を使えるから、まあまあの学校を出ているのかも知れない。

 その分迫力もないな。


 「キッチリとけじめはつけさせてもらうぜ。 俺達のメンツを潰してそのままじゃすまないぜ」


 なるほど。

 兄貴分が素人にやられたんだ。

 このままじゃ舎弟達もただじゃすまないんだな。

 可哀そうなことだね。


 路地裏に面した飲み屋に俺は連れてこられた。

 営業はもう止めている。

 以前は〈クラブ祝祭〉と言う名の店だったらしい。


 少し前にはここで、厚い化粧と安い香水をつけたブクブクの女が、文句を言うしか能がないダルダルなおじさんに、惰性で割った酒を注いでいたんだろう。


 おじさんのように禿げた壁紙と、女の体のように凸凹でこぼこになったソファーが、昔を懐かしがっている。


 「大人しくついて来たな。 ビビッて逃げられないんだろう?」


 背が高くて痩》せているこの男は一応リーダーなのかな。

 俺に質問をしているのか、他の二人に言っているのか、微妙だな。

 スキルも一応〈交渉〈下〉〉を持っているな。

 スキルも微妙である。


 行くあてがない少女に適当な話を勢い良く浴びせ。

 きっと何人も騙したんだろう。

 風俗に売られた少女は今も泣いている。

 きっとそうに違いない。


 「はははっ、俺達にビビッているに決まっているぜ。 早くやっちまおうよ」


 小太りで短足だな。

 頭も悪いらしい。

 兄貴をやった男が舎弟にビビるって、バカみたいにおかしいだろう。

 スキルは持っていない。

 頭も含めて有用なものは何も持っていないってことだ。


 「こんなクソみたいな服を着て、ブ男のおっさんは、死ねばいいんだよ。 その方が幸に決まっている」


 中肉中背で派手な服を着ている、この男が一番暴力的だな。

 思い切り殴って来そうだ。

 スキルは〈ファッションセンス〈下〉〉か、専門学校にでも行っていたらしいな。

 真面目にやっていたら、普通に就職くらいは出来たのに性格がダメだったのか。


 少女を騙すために服のセンスを活用してたんなら、そのセンスって何だろう。

 ひどく汚いものとしか思えない。


 俺は最後に言葉を吐いた、中肉中背の若い男の顔面へ正拳突きをおみまいしてやった。

 無言のままでいきなりだ。

 鼻血をまき散らしながら倒れていった。

 元〈クラブ祝祭〉の床に口づけをしてやがっている。

 キスするのがお好きのようだな。


 「てめぇ、先に手を出したな」


 あははっ、こんな場所に連れこんだヤツの吐くセリフじゃないぞ。

 頭がおかしいんじゃないの。


 お次は背が高くて痩せている一応のリーダーだ。

 左ミドルキックからのショートボディブローの連打を鳩尾へ叩きこむ。

 朝食か昨日の夕食かを吐きながら、うずくまってしまった。


 あははっ、汚いリーダーだな。

 元〈クラブ祝祭〉の床を汚すなよ。

 もう掃除をする人はいないんだぞ。


 「くっ、笑うな」


 小太りで短足で頭の悪い男は震えているらしい。

 足が動かないから逃げ出せないようだ。

 ハイキックを口に入れてあげると、黄ばんだ前歯を散らして、「ウガガァ」と呻だした。

 笑っているわけじゃないようだ。

 涙をボロボロと流しているからな。


 「痛っ」


 あまりにも簡単だったから俺は油断してたんだろう。

 とっさに引いたため傷は浅いが腕をナイフで切られてしまった。

 床に口づけをしてた若い男だ。


 「ふん、素手で刃物に勝てやしないよ」


 ナイフを持っている右手をスピード重視で蹴り上げると、ナイフは空中でクルクルと回っている。


 驚愕している男の顔面にもう一度正拳突きを放ってやった。

 もう生意気なことは言えなくなったはずだ。

 白目をむき後ろへバタンと倒れている。

 俺は蹴って逆向きにしてやった。

 もう一度床に口づけをしたいに決まっているからな。


 〈ファッションセンス〈下〉〉と〈交渉〈下〉〉のスキルを奪い、三人の財布の中身も奪った。

 三人合わせて3万円も無かった。

 しけているとしか言いようがない。


 しょうがないので一番マシな時計も奪っておくか。

 時間はちょうど12時だ。

 牛丼でも食べよう。

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