帰ってから生乳を揉めば良いー倫理
俺と〈まうよ〉は部長室でキスをしてみた。
〈まうよ〉を壁に押しつけ逃げられないようにしたんだ。
【いやっ】
怯えたように目を伏せたのは、きっと演技だろう。
この女は危険だと思う。メスだったか。
「顔をあげろ」
どスケベで倫理が欠如した部長が、部下の女性社員に無理やりせまるってシチュエーションに近い。
そうであるなら、胸も揉んで良いよな。
倫理なんてクソだ。
【んんぅ】
〈まうよ〉は俺を睨みながら眉をしかめている。
少し怒っているようだ。
ただ逃げようとはしていない。
体もずらさずに、まだ俺の背中に腕を回したままだ。
不快感は示しているが、胸を弄られるのを許してくれているんだ。
俺のスケベな心を優先して、自分の気持ちを後回しにしてくれている。
俺の女なんだと改めて、嬉しく思う。
「とん」
「とん」
「部長おられますか? 報告したいことがあるのです」
〈木本さん〉の声と同時に〈まうよ〉はスッと消えた。
服越しの胸の感触は俺の手に残ったままだ。
生乳を思う存分味わった後では、それはかなりチープなものである。
一度贅沢を覚えた人間はもう元には戻れないんだな。
マンションに帰ってから、服を脱がして生乳を揉もう、と俺は心に誓った。
「どうぞ。 誰もいないから入ってください」
コンパクトな応接セットのソファーに、二人はちょこんと腰をかけている。
四つの瞳が俺に喜びを伝えたい、と煌めいている感じだ。
頬は薄く紅潮しているように見えるから、少しだけ興奮もしているらしい。
「〈うろ部長さん〉、契約が10もとれたんです。 二人で営業をすごく頑張りました」
「えへへっ、私らのコンビは最高なんだよ。 まだ商談中の案件も沢山あるんです」
〈木本さん〉と〈優香〉の二人は、どうも俺に褒めてほしいようだな。
「おぉ、それはエクセレントで、スーパーリッチな出来事ですね。 二人の営業力の数値は、一万をはるかに超えているんじゃないかな。 誠におめでとう、と言わせてもらうよ」
意味は良く分からないけど、出来るだけ大げさに褒めてみた。
褒めて伸ばすタイプの上司だ、という設定にしておこう。
女子限定の恐れはあるが。
「もぉ、〈うろ部長さん〉は簡単に褒めすぎですよ」
「えへへっ、こんなに褒められたのは初めてかも。 照れちゃいます」
俺自身でも自分の言った意味が、分からんのに、なぜか二人には上手く伝わったみたいだ。
〈交渉〈下〉〉のスキルのおかげなんだろう。
でもなにか違うような気もする。
顔を赤らめて喜んでいる二人を良く見れば、リクルートスーツっぽいのは同じだけど、スカートがかなり短くなっているぞ。
あの地味で真面目な〈木本さん〉までが、短いのをはいている。
他の部分は見逃せても、この部分だけは見逃すはずがない。
おう、男として当然のことである。
「うふふっ、〈うろ部長さん〉も私達の戦略にお気づきなりましたね。 男性が担当者の場合は、これくらいの丈の服を着ていくようにしているんですよ」
「あっ、見てますね。 〈うろ部長〉も男なんだから、しょうがないですけど。 じっと見るのはどうなんですかね。 ふふっ」
〈私達の戦略〉って違うだろう。
〈晴れ晴れライフ〉で言われたことを、そのまま実行しているだけにすぎないんじゃないか。
「えっ、じっとは見てないよ。 チラッとだけだ、誤解しないでほしい」
今の言い訳の意味が、自分でもよく分からん。
俺がアタフタと狼狽えていると、二人はなんという事でしょう。
足を上げて組み直しやがった。
低いソファーの柔らかなクッションで、お尻が沈んでいれば、スカート奥が見えてしまう。
白とピンクだった、とだけ伝えておこう、これは義務だと思う。
なぜか俺の顔は赤くなっていたらしい。
「うふふっ、〈うろ部長さん〉のお顔は真っ赤ですね。 でも残念でした。 見えたのは見せパンですよ。 私達はいやらしいまねまでして、営業はしていません」
「きゃははっ、慌てた顔が可愛いね。 もっと見たいのなら、今度飲みに連れていってよ。 ただし見せパンだけですけどね」
二人は言いたいことは言えたのだろう。
きれいな動作で俺に頭を下げてから、部長室を出ていった。
俺は茫然としたまま何も言えなかった。
口を半開きにして二人を見送ったんだ。
あんな営業をさせて良いのか、思い切り〈いやらしいまね〉のような気がするけど。
俺がスケベすぎて、正しい認識が出来ない可能性もある。
【なによ、〈かっくん〉は。 あんな羞恥心が無いメスガキが良いの? 顔を赤くして、やらしいったら無いよ】
「そうじゃないんだ。 顔を赤くしたのは、四十にもなって、若い女性にからかわれたからなんだ。 情けなくて恥ずかしいと思ったんだよ。 部長にはなったけど、俺は貫禄ってものがないんだな。 〈まうよ〉もそう思うよな? 」
【そう言うことなんだ。 部長になったのは、ついこの間だから、これからだよ。 良いように考えれば、あのメスガキどもは〈かっくん〉をオスだと認識したんじゃないのかな。 昔の〈かっくん〉に比べて、今は清潔感もあるし、お金も持っているし、顔もスキッとしているわ】
「ふーん、俺の顔って変わったのか? 」
【基本的なとこは変わっていないわ。 でも、シャープになったって言うか、自信がついて明るくもなっているわね。 笑顔にハッとしてしまうのよ。 暴力の匂いも漂っているから、ちょっと危険で影もある感じね】
「ほぉー、そうなら俺はモテるってことか? 」
【はっ、調子に乗らないでほしいわね。 浮気なんかしたら、絶対に二度とさせてあげないわよ。 それでも良いのかしら】
「いいえ。 良くないです」
【それならよろしい。 これからも私だけを愛してください。 お願い】
再び姿を現した〈まうよ〉と俺は、深く長いキスをした。
もう胸は揉まない。
帰ってから生乳を揉めば良いんだ。
今は〈まうよ〉の唇に全身全霊で集中だ。
【はぅ】
唇に唇を這わせば、〈まうよ〉の吐息が漏れる。




