かなり短いタイトスカートー営業
〈統括部長〉の最初の仕事として、俺は〈ABCぴゅあウォーター〉に攻めの営業チームを作った。
グループ企業以外の顧客を獲得するのが、このチームの大きな目的である。
〈軽井沢グリーンウォーター〉との約束を果たすためでもある。
営業部長さんの「よし、やれ」と言う声が聞こえてくるようだ。
営業チームの人員は、〈木本営業課長〉と、派遣から正社員にした〈優香さん〉だ。
女性二人のチームにしたのは、企業の総務課的な部署には、女性が多いと仮定したからだ。
女性同士の方が安心されるし、共感も得られるに決まっている。
それと〈優香さん〉をキツイ肉体労働から解放した面もある。
ミネラルウォーターの補充には、けっこうな力がいるんだ。
水って思ったよりも重いんだよ。
空いた穴には運動部出身者の若い男性を派遣で雇うことにした。
正社員で雇ってしまうと営業チームが成果を出せなかった時に困ってしまう。
元派遣の俺としては派遣は良くないと分かっているのだが、管理する側の責任てヤツだ。
保身かも知れない。
単に自分の立場を優先しているだけだと思う。
管理職って言うのは全くの善人では務まらない仕事なんだな。
「〈田野社長〉、営業チームは二人に任せようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「〈うろ統括部長〉の思うようにやってください。 君に全幅の信頼を寄せているんだ。 全てを任すよ」
信頼されているし期待もされているが、俺が全責任を負うのか。
こんなの丸投げだとも思ってしまう。
中間管理職の辛さはこんな時に発生するんだな。
「今日から〈ABCぴゅあウォーター〉の営業チームが新たに胎動する。 最初は私もついていくよ。 説明資料の準備は出来ているかな? 」
「はい。パンフレット類と〈軽井沢グリーンウォーター〉から提供されました水源のプロモーション動画も、タブレット端末に入っています」
〈木本営業課長〉は少し緊張ぎみだけど、若い女性が張り切っているのは、見ているだけで楽しくなってくる。
「〈優香〉もバッチリだよ。 説明内容は全部、この頭に入っているからね」
「こら〈優香〉は無いだろう。 お客さんの前ではちゃんとしてくれよ」
〈優香〉の方は全く緊張していないようだ。
これが若さの特権なんだろう。
二人はリクルートスーツ的な、お堅くてかなり地味な服装だ。
おっさんの俺が言えばセクハラになるが、少し華やかさに欠けているな。
でも真面目な〈木本営業課長〉だから、こうなるのはしょうがないと思う。
【言っている事がちょっと矛盾しているよ。 それと私を抱いたくせに、若いメスに慣れてない感じをどうして出すのよ? 】
「〈まうよ〉は別格だからだよ。 この二人には気の毒だけど、比べものにならないな」
【ふーん、そうなんだ。 今日もする? 】
「するする」
今日は二回しよう。
〈まうよ〉の声は明らかに嬉しそうだ。
褒めて褒めてスカートもまくろう。
褒めまくった先には快楽が待っているはずだ。
一番最初の訪問先は、期待値100パーセントの〈晴れ晴れライフ〉に向かう。
〈木本さん〉と〈優香〉が、一生懸命に社長と庶務担当者に説明をしてくれた。
女好きの社長は始終ニコニコ、いいや、ニヤニヤとしている。
この会社に若い女性の社員がいないのは、大正解だな。
この社長は自分を良く分かっている。
己がドスケベである事を客観視出来る聡明さを持っているんだ。
金を持った男は若い女性を追い求めてしまう。
分かりやすいオスの本能だ。
己の遺伝子をバラ撒こうとする、マンモスを狩った原始人と少しも変わらない。
庶務担当者のおばちゃんは、水源のプロモーション動画を食い入るように見ているぞ。
中年になって色々な毒が蓄積しているのだろう。
ピュアなもので洗い流したいと思っているに違いない。
それは出来ない相談だけど、夢を見るくらいは良いはずだ。
他の夢は全てビリビリに破けているのだから。
「ふぁ、これは良いです。 〈ぴゅあウォーター〉をゴクゴク飲みたいのです」
おばちゃん、溺れるほど飲んでくれよ。金になるからな。
「ふんふん、商品を売ろうとする熱意は伝わったが、スカートが長すぎるぞ。 ソファーに座った時に、見えそうで見えないのがベストだ」
己のドスケベを一般化しているな。全ての人がそうだとは限らないよ。
「社長の意見にも一理はありますが、女性との商談時には悪手でしかありません。 営業とは何度でもしつこく行うものです。 一回で契約などあり得ないでしょう。 相手を確かめてから、服装を変えるべきです。 私もそうしてきましたわ」
おぉ、このおばちゃん、昔は営業でバリバリやっていたんだな。
スケベな社長より、よっぽど説得力がある。
ふと見れば、おばちゃんのくせに、かなり短いタイトスカートをはいているな。
俺が太ももを見たのが分かったのだろう。おばちゃんは「ふふっ」と笑いやがった。
まさか誘っているのか、何回もおばちゃんと言ったけど、俺もおっさんだからな。
負けた気がするのは、なぜだ。
おばちゃんが足を組み替えながら、一度の営業で契約してくれたのは、強盗を防いだことに対する感謝なんだろうな。
純粋な営業でとれたものじゃない。
だけど契約は契約だ。
これは俺という人間にとっては小さな一歩だが、営業チームの二人にとっては偉大な一歩である。
「新しく始動した〈営業チーム〉の二人が、グループ企業以外の顧客を早くも獲得しました。 みなさん二人の活躍を祝して拍手をお願いします」
〈ABCぴゅあウォーター〉に帰り、第一号の契約をとれたことを報告した。
社員は全員、大きな拍手で祝ってくれた。
契約が増えればボーナスにも影響するんだ。
その意味では心からの祝福だと思う。
〈木本さん〉と〈優香〉の二人は顔を赤くして照れている。
はにかんだ笑顔が初々しくて良いぞ。
「ありがとうございます。 契約がとれたのは〈うろ部長〉のおかげです」
〈優香〉がキャラクターに無い、しおらしい事を言ってきた。
それだけ初めての契約が嬉しいのだろう。
「〈うろ部長さん〉、本当にありがとうございました。 ただ良いのですか、〈うろ部長さん〉のお手柄だと思うのですが? 」
「全く問題は無いですよ。 私は部長ですから、部下の活躍が評価されるのです。 部下に勢いをつけるのは、私の役目ですし、得にしかなりません」




