童貞あるあるなんだー童貞
【私は初めて抱かれます。 だからとても怖いのです。 お願いします、優しくしてください】
〈まうよ〉が消え入るような弱弱しい声で、俺に懇願した後、バスタオル一枚だけをまとい、布団の上で目を瞑っている。
裸の肩が少し震えているようだ。
いつもの俺を小バカにしたような態度じゃない。
初めての経験をとても恐れているが、俺のため、それに耐えている。
はかなげな美少女にも思えてしまう。
俺がフラフラと引き寄せられてしまうのは当たり前だ。
〈まうよ〉が俺と一つになりたいと待っててくれているんだ。
桜色の唇にそっとふれる。
【あっ】
ずるい。
そうだろう。
普段とのギャップがあり過ぎて、胸がキュンとなってしまう。
演技なら主演女優賞だし、素なら愛しすぎる女だ。
どっちにしても俺は完敗である。
バスタオルをめくり上げると、成熟したメスがそこに存在していた。
双丘の先は濃い桃へ色づき、少し開いた太ももの奥は芳香を放っている。
緊張のためか、ペロッと舌で唇を湿らせたのは、無意識なんだろうか。
美少女どころか、男を知り尽くした女にも見えてくる。
〈もう待てないわ、早く〉と俺を誘っているのだろうか。
「〈まゆよ〉、俺は君を愛している」
【うぅ、世界中でただ一人、私も〈かっくん〉を愛しています】
カックン。
少しズッコケそうになったけど、俺は今この時、猛烈な感動に襲われていた。
愛しているなんて、初めて言われたからだ。
もう我慢なんて出来ない。
この感動を生まれたままの〈まうよ〉にぶつけてやる。
猛烈に俺は、〈まゆよ〉の唇に吸いついた。
胸にも吸いついた。
あそこにもだ。
【あん、そんな】
唾液を塗りたくるように俺は、〈まゆよ〉の唇を舐めた。
胸も両方とも舐めた。
あそこの上下左右も舐めたんだ。
【はぁん、ダメなのに】
奥に刻み込むように、童貞喪失の記念のために、〈まゆよ〉の初めてのために、人類平和のために、俺はガンガンと=突こうと思ったんだ。
だけどたった三突きでジ・エンドだ。
情ないったらありゃしない。
これは童貞あるあるなんだろうか。
あまりにも、〈まゆよ〉が熱すぎたんだ。
気持ち良すぎたんだ。
愛しすぎたせいだ。
でも心配はいらない。
もう回復しそうだ。
このまま二回戦に突入しよう。
胸をあまり揉んでいないから、次は一杯おっぱいを揉もうと手を伸ばすと、〈まゆよ〉にピシャリと叩かれてしまった。
【〈かっくん〉、まさかとは思いますが、もう一回なんて思っていないでしょうね?】
「いいえ。 思っていません」
叩かれた後に、宙ぶらりんになっていた手を俺は高々と横に上げて、〈寝転んでいるから横になる〉、否定の言葉を何とか絞り出した。
正直な意見を言えば怒られる予感がビシバシとする。
【初めての時は痛いのですよ。 女性はデリケートなんです。 労わってほしいものですわ】
「はい、良く分かりました」
【分かってくれて、すごく嬉しいな】
「〈まうよ〉、俺と愛し合ってくれて本当にありがとう。 この感動を一生忘れることは無いよ。 世界一の女と名実ともに番となれたんだ。 俺は宇宙一の幸せ者だと思っている」
【うぅ、泣かせないでよ。 私こそ妖魔の中で一番幸せなメスだと思っています。 〈かっくん〉だけなの、私が愛するオスは〈かっくん〉しかいないよ。 ぐすっ】
〈まうよ〉は涙を流しながら俺の胸の顔を埋めている。
妖魔も泣くんだ。
〈まうよ〉の涙は初めて見たな。
たった三回しか突けなかったけど、俺はそれなりに満足している。
大量に放出が出来たからだと思う。
二人とも裸のままだ。
〈まうよ〉の柔肌が俺の皮膚に吸いついてくるから、こいつは俺のものになったんだと改めて思う。
女性を〈もの〉あつかいするのは侮辱だと言われるが、俺も〈まうよ〉の男で〈もの〉なんだから許してほしい。
「いってくるよ」
「…… 」
あれ、〈まうよ〉からの返しが無い。
玄関まで見送りにくるのも初めてだ。
んー、目を閉じて顔を少し上げているな。
おっ、これは世間一般に広く流布されている。
伝説のあの旅立ちの儀式を要求されているらしいぞ。
俺は恐る恐る〈まうよ〉の唇に自分の唇を重ねた。
いってらっしゃいのキスだ。
伝説が日常に現れやがった。
俺はヒーローなのか。
早漏ではあるがな。
〈まうよ〉はギュッと俺を抱きしめながら、俺の唇を軽く吸ってくる。
一分以上はキスしていたと思う。
「気をつけてね。 浮気なんかしたら殺すわよ。 いってらっしゃい」
弾けるような笑顔で〈まうよ〉は俺を送り出してくれた。
まるで新婚さんのようだ。
妖魔の婚姻は本番をしたことで成立するのだろう。
くすぐったいけど、心の奥底から嬉しくなってしまう。
こんな幸せとは無縁のはずだ。
底辺だった俺はずっとそう思っていた。
駅の改札を潜った後に「よし、頑張るぞ」と小声で呟いてしまった。
気分が高揚していたのだ。
【頑張っていきましょうね】
玄関で見送ってくれたはずの〈まうよ〉の声が聞こえてくる。
「えっ、いるの?」
【なによ、その言い方は、ムカつくんだけど。 私は〈かっくん〉に憑ついたのよ。 一生一時も離れたりなんかしないわ。 妖魔的に出来ないことなのよ】
「でも、お風呂の時とかは、離れていたよな?」
【ふうん、私と一緒に入りたかったの。 慣れたら入ってあげるから、ちょっとだけ待ってよ。 まだ恥ずかしいのよ】
「それは楽しみに待っているけど、俺が聞きたかったのは違うんだ。 妖魔的にはどのくらいなら離れらていられるんだ?」
【そっちか。 そうね、うーんと、5mくらいかな。 10mも離れるとすごく不安になってくるのよ。 本能が警告のサインを出しているんだと思うわ】
「そうなんだ。 ずっと一緒なら俺も心強いよ。 これからもよろしく頼むな」
【豪華客船に乗ったつもりで私に任せてちょうだい。 〈かっくん〉の正の感情も食べられるようになったから、ドンドン楽しくいきましょう】
「んー、俺の楽しい感情や幸せも食べちゃうのか?」
【それほど心配はいらないわ。 正の感情は三割も食べていないわよ。 楽しみや幸せを感じられなくなったら、人生が色あせて、つまらないものになっちゃうでしょう】
「三割か。 昨日の夜はものすごく感動したんだけどな。 MAXならどうなっていたんだろう? 」
【うふふ、抱いてくれた時に、すごい感動が伝わってきたわ。 私の感動と混ざり合って極楽だったんだ。 〈かっくん〉のメスになって本当に良かったよ、えへへっ。 MAXならマジで〈かっくん〉は昇天していたかも知れないな。 それほど深い感動を私で感じてくれたのは、光栄でしかないわ】
「マジで昇天か」
底辺だった人間の童貞パワーって恐ろしい。
狂おしく欲していたものを、絶対に無理だと諦めていたものを、手に入れた時には、幸福の限度を超えて狂ってしまうのだろう。
ずっと痛めつけられていたため、脳が耐えられずに委縮しているからだ。
大きな幸せを許容出来なくなっているのだと思う。
今までの辛い人生とあまりにも異質だからだ。
脳の回路がショートしてバグってしまうんだろう。
推しのトップアイドルと男女の仲になった場合を想像してほしい。
〈まうよ〉はトップアイドルの1.7倍は美人だけどな。




