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裸の女が俺の隣で眠っていたー裸体

 シュッと四人の鼻先にナイフを近づけてやると、四人は「ヒィ」と押し殺した悲鳴をあげた。

 そして我先(われさき)に逃げ出しやがった。バラバラの方向にだ。


 何が目的だったんだ。

 何をしに来やがったのか。

 バカの考えはまともな人間には理解しがたい。


 【私は毛があっても良いわよ。 男らしいじゃない。 ワイルドさがあるわ】




 元だけど〈松木専務〉と〈増本社長〉および〈鈴木〉〈斎藤〉〈佐々木〉〈笹本〉の四人は、当然だが懲戒解雇となり退職金は1円も支払われなかった。

 今後は困難な人生が待ち受けているだろう。

 今は警察の拘置所(こうちしょ)で取調べを受けているようだ。

 〈植草元課長〉がどうなったかは知らない。


 〈KM環境〉は不正を行った会社のため解散と清算が行われ、その業務は新たに作られた〈ABCぴゅあウォーター〉という名称の会社に引き()がれた。

 汚名を(かぶ)った会社は商売上よろしく無いってことだ。

 名称さえ変えれば気づく人は、そうはいないってことでもある。


 ABCは原点に戻りやり直すっていう意味らしい。

 俺はそこの〈統括部長兼総務課長〉のままだ。

 社長は〈田野元総務課長〉だし〈営業課長〉は〈木本さん〉だから、何にも変わってねぇぞ。




 朝起きると裸の女が俺の隣で眠っていた。俺の日常は異常すぎるな。


 昨日は酒を飲んでもいないし、女性を持ち帰りなんてしたはずが無い。

 それどころか女性とお酒を飲んだことなど、今までの人生で一回も無かった。

 俺はつい最近まで不潔で無能な、キモい中年のおっさんでしかなかったんだ。


 裸の女は悲しい想い出を総動員しなくても、誰かは一目瞭然(いちもくりょうぜん)である。

 ついている顔が〈まうよ〉だからだ。


 おー、とうとう体が生えたのか。

 だけど違和感がある。生えるのは普通に考えると体からだろう。


 どちらにしても、普通じゃないよな。

 それなのに悲鳴もあげずに、まじまじと裸体を見ている俺は、まともじゃ無くなったのか。

 自分自身に、ちょっとヤバさを感じてしまう。


 それにしても綺麗な裸体だ。

 これを完璧なプロポーションと言うのだろう。

 いやらしい気持ちを超えて神々しさまで感じてしまうぞ。


 ゆっくり上下する胸はかなりの大きさだ。

 俺の手ではとてもじゃないが隠しきれないほどの大きさがある。

 キュっと細くなったウエストに、内臓が(おさ)まりきっているのが不思議だ。

 妖魔だから内臓は無いのかも知れないけど。


 そして秘密の股間には毛が生えていた。

 それは普通で不思議な事では無いが、女らしく柔らかで朝の光が透けていた。

 ワイルドと言うよりもセクシーだと思う。


 【もう、穴があくほど私の裸を見ないでよ。 悪いけど〈かっくん〉の相手はまだ出来ないわ。 もう少し体が馴染(なじ)んでからにしてよ】


 「馴染まないとどうなるんだ?」


 【どうなるかは、私にも分からないけど、パカッと分離したら嫌でしょう】


 俺は首と体の間をツーっと触ってみた。

繋ぎ目(つなぎめ)の線でも走っているのかと思ったんだ。


 【あん、ちょっと。 いやらしい触り方は止めてよ。 まだダメって言ったでしょう。 それよりもお目覚(めざ)めのキスをしてちょうだい】


 俺は裸の〈まうよ〉を抱きしめながらキスをした。

 体があった方がとてもやりやすいと思った。

 こんな感想を持つ男は、俺以外にはいないんじゃないかな。


 抱きしめた〈まうよ〉の肉感が新鮮で、さらに強く抱きしめてしまう。

 柔らかいお肉は最高に良い。

 〈まうよ〉は妖魔だけど、体が(そろ)うともう人と何も変わるところが無い。

 ただの超絶美人でしかない。


 「〈まうよ〉は人間になったのか?」


 【そんなことは無いわ。 私は準成体になった今でも、誇り高き妖魔で〈かっくん〉の番に変わりはないよ。 スキルも見えるし姿を消すことも出来るのわよ】


 〈準成体〉と気になる言葉が出てきたが、まず俺は愛称の方を聞いてみることにした。


 「これから〈かっくん〉と、俺は呼ばれるのか?」


 【そうよ。 〈かつとしさん〉では親密さが今一歩でしょう。 〈かっくん〉の方が恋人らしいでしょう?】


 「恋人がいたことが無いんだ、良く分からないよ」


 【ふふっ、私が良く分かるようにしてあげるわ。 まずは、お洋服を買ってもらおうかな。 下着もつけずに裸のままじゃ人前に出られないでしょう?】


 そう言って〈まうよ〉は舌を(から)めてきた。

 自分の女には一杯(みつげ)ってことなんだろう。


 貢ぐのは、交尾のために昆虫のオスでもしている由緒正(ゆいしょただ)しいおこないだ。

 俺もめげないでするしかない。


 〈まうよ〉の裸を独占したいとも思っているし、統括部長に昇進したんだ。

 お金は普通に持っている。服を買うくらいで金銭的に困ったりはしない。


 〈まうよ〉はとりあえず、俺が買ってきたファストファッションの服を身に着けている。

 パンツが小さくてお尻がはみ出すとか、カップつきのランニングシャツがガバガバで先っちょが見えちゃうとか、かなり文句を言われた。


 女性の服なんか買うのは初めてだから、しょうがないだろう。

 胸が大きいからと大きなサイズを選んでしまったんだ。


 【でも、嬉しいわ。 ありがとう】


 〈まうよ〉は、お尻が少しはみ出して左の胸の先っちょが(のぞ)いたままの下着姿で、俺に抱き着いてきた。

 少しあざとすぎやしないか。やり過ぎだと思う。


 やりたい。

 俺は猛烈にやりたくなってしまう。股間が物理的に痛くなるよ。


 「痛いよ」


 【うふふっ、ここ、パンパンになっているわね】


 ズボンの上からだけど〈まうよ〉は俺の股間をスルッと触りやがる。

 この女はサド気質じゃないかと疑ってしまうな。俺の一部が暴発したらどうするんだよ。


 襟付(えりつ)きのシャツと幅の広いズボンを〈まうよ〉が着て、町へ()り出す準備は整った。

 シャツとズボンは無難だと思いグレーで統一した。無難と言えばグレー一択に決まっている。


 〈まうよ〉は微妙な顔をしていたが、とても美人に見えるから、グレーが正解で間違いない。


 【これからは、〈かっくん〉の服も私が選んであげるね】


 「おぉ、それはありがたいな。 よろしく頼むよ」


 〈ファッションセンス〈下〉〉があるのだが、スキルがあっても興味が持てないものは、どうしようもないんだ。


 繁華街を〈まうよ〉と歩けば、すれ違う人がみんなこっちを見てくる。

 芸能人にでもなった気がしてしまうな。

 違うか。俺を見てるわけじゃないから、芸能人のマネージャーってとこなんだろう。


 【この先のビルの三階に、お目当てのお店があるのよ】

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