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ギラギラとテカっているー迷惑

 「〈植草さん〉はもう出て行きましたよ。 あなた達も出ていきなさい。 仕事の邪魔なだけだ」


 「そう言わないで、俺がいないと業務が回らないだろう」


 〈斎藤〉はまだ変なことを言っているな。


 「そうですよ。 誰が仕事をするのです。 お客さんが迷惑します」


 〈佐々木〉はバカか。二倍も請求しておいて、何が迷惑だ。


 「〈増本社長〉の影響力を甘く見ない方が良いわよ」


 まだ〈増本〉にすがろうとしているのか。

 まあ、それしか無いのだろう。

 それに不倫が旦那にバレる恐れもあるのが分かっていないらしい。

 脳がお花畑なのか、それともすでに夫婦関係が破綻(はたん)しているのかも知れない。


 ちっ、こんな女のことなど、どうでもいいか。


 「お前達はバカか、まともな仕事をして無かったくせに。 派遣の人達を正社員にするから、全く問題ないんだよ」


 「頼む」

 「でも」

 「お願い」


 本当にしつこいな。


 「自分達の立場をわきまえろよ。 不正に関与したのだから、起訴(きそ)されるんだぞ。 犯罪者になるんだ。 仕事どころじゃ無いと思わないのか」


 「そんな」

 「えぇー」

 「無実だ」


 「早く出て行け、この犯罪者の無能どもが」


 本当に頭が悪いヤツらだ。

 嫌になってしまう。

 自分がしたことを棚上(たなあ)げにして、被害者面(ひがいしゃづら)が出来る化け物がなぜ生まれたのだろう。


 親の顔が見たいよ。

 んー、見たくは無いか。

 化け物の親も化け物の可能性が高い。不快にされるだけだ。


 部長室で泣いていた〈鈴木〉と、三人を無理やり追い出した。

 最後まで手間をかけさせやがる。風呂場の黒カビみたいなヤツらだ。

 やっと出て行ったのでスッキリとしたぞ。

 クリーンで清々しいオフィスになった。


 「これから、この会社はどうなるのでしょう?」


 〈木本さん〉が心配そうに聞いてきた。


 「きっと良くなると思う。 まともな仕事をしていなかった嫌な人間が、みんな消えたのだからね。 信じられないほど、働きやすくなるはずだ」


 「それはそうかも知れません。 私は今まで通りで良いのですね?」


 「そうですよ。 同じように働いてくれたら良いのです。 ただし、営業課長へ昇進してもらいます」


 「えぇー、そんな。 今まで通りじゃ無くなっています。 そんなの私、出来ません」


 しぶる〈木本さん〉に俺はニカッと笑いかけた。

 出来る男を演じてみたんだ。


 「統括部長が面倒なことを、全て引き受けるので安心してください」


 何回か押し問答(おしもんどう)をした後に〈木本新営業課長〉はしぶしぶだが、昇進を受け入れてくれた。

 俺の男の魅力がそうさせたのだと思う。


 「本当にお願いしますよ。 〈うろ統括部長〉だけが頼りなんです」


 俺の顔を見つめる〈木本新営業課長〉の瞳が、よく(なつ)いた子犬のようですごく可愛いな。


 【ちょっと、調子に乗りすぎだわ。 そんな気でいたら、もう(くわ)えてあげないわよ】






 数日経ったある日、会社からの帰りを〈鈴木〉〈斎藤〉〈佐々木〉〈笹本〉の四人が待ち()せしていた。

 ぐるりと取り囲んだのは、俺をボコボコにしたいのだろう。

 バカだな。

 出来るつもりでいるんだ。


 「はぁー、しつこいな、あんたらは。 何の用だ?」


 「俺達は何もかも全て失ったんだ。 それも全てお前のせいだ。 許さないぞ」


 〈斎藤〉は手をワナワナと震わせて怒っている感じだ。

 はっ、何が許さないだ。

 全て自分が悪いんだろう、笑わせるな。


 「私なんか、夫に何度も罵倒されたわ。 離婚されて首になったら、暮らして行けなくなるのよ。 みんなあんたが悪いのよ。 カスのくせに」


 〈笹本〉みたいにクズで股の緩い女から、カスと言われる理由が俺には無い。

 全部自分がした結果だ。因果応報(いんがおうほう)って言うものだろう。


 「犯罪者は子供じゃないって、僕は実家を追い出されたんだぞ。 どうしてくれるんだ。 責任をとれよ」


 〈佐々木〉はいい歳をこいて、実家に寄生していたのか。

 とことん情けない男だったんだ。


 「妻は離婚届を置いて出ていったし、子供には縁を切ると言われたんだぞ。 この悲しみをどうしてくれるんだ」


 そんなこと俺の知ったことか。

 〈鈴木〉のような男に、妻と子供がいたのが異常だったんだ。

 この男の遺伝子が残ってしまったことで、誰かが不幸にならないと良いな。


 「言いたいことは終わったか。 くだらない話はもう聞かないぞ。 時間の無駄だからな」


 俺は素早く四人の背中の方へ回り、肩を叩いてやった。

 これが本当の〈肩たたき〉ってヤツだ。

 ビジネス用語で〈肩たたき〉とは、リストラ対象になったと言う事だが、俺は物理的に叩いてやった。


 「あっ、いつまに」

 「す、素早い」

 「嘘だろう。いつ動いたんだ」

 「くっ、〈肩たたき〉なんて、からかっているのか」


 俺が背中へ回った動きに驚嘆(きょうたん)しているらしいが、お前らの動体視力がお粗末(そまつ)すぎるんだ。

 そんなことで俺をボコボコにするつもりだったのか。甘いと言うしかないな。


 セクハラだと騒がれたら厄介(やっかい)なので、〈笹本〉には特別な情報を教えてあげよう。


 「〈笹本〉、社長の奥さんが〈不倫の慰謝料の請求をする〉と張り切っているらしいぞ」


 「えぇー、そんな。 お金なんて持ってないよ」


 さらに俺は黒い()のナイフを取り出して、自分の指毛を()ることにした。

 最近じゃ指に毛が生えていることが、すごくキモいと思われてしまうらしい。

 男が生き苦しくて、もの悲しい世の中になったものだ>

 中年のおっさんは黙って耐えるしかないのか。


 「指に毛が無い方が良い、と彼女が言うのですよ。 あんた達も剃ってやろうか? それとも一気に指ごとの方が早くて良いか?」


 「…… 」


 大きなナイフを大胆に動かして、鋭い刃を皮膚に当てながら、俺が何のためらいも無く指の毛を剃っていくのを、目の前で見せられた四人は驚愕したんだろう。

 声も出せなくなっているらしい。


 これほど大きなナイフを見たのは、生まれて初めてに違いない。

 徐々に俺を囲む輪も広くなっていく。もう腰が引けている。逃げようとしている感じだ。


 黒い柄のナイフで、深々と刺される自分を想像したらしいな。

 それを狙っての演出だから正解である。

 ズブリと刺したら射精するほどの爽快感(そうかいかん)を味わえるだろう。


 この黒い柄のナイフは、少なくとも百の人の血を吸っていると思う。

 禍々(まがまが)しい刃の輝きはかなりの説得力があるはずだ。

 大きな刃がピカピカなのは、人の(あぶら)に何度も(まみ)れたことがあるからだ。

 それでギラギラとテカっているんだ。


 「ほうら、良く切れそうだろう」

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