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地獄の針山でも見えているのかー平手

 「あははっ、〈うろ〉、お前は(ひら)になったんだ。 俺は主任だから、お前の上司に戻ったんだぞ。 俺の靴を()めろ。 命令は厳守(げんしゅ)だ。 しないと許さないからな」


 〈斎藤〉は、それはそれは嬉しそうな顔をしている。

 この世の春が来たって感じだ。それほど俺の下が嫌だったんだろうな。


 「きゃはは、無能のつばが汚いから私は良いわ。 その代わりに、これからは〈笹本様〉って呼ぶのよ。 分かったカスの〈うろ〉」


 「うーん、僕は何をさせようかな。 そうだ犬みたいに、お手かチンチンでもしてみろよ」


 コイツらは俺をとことん侮辱(ぶじょく)して辞めさせようとしているんだな。

 会社にいられるとマズいのだろう。

 それとも、虐めることが単に快感なんだろう。根元から腐った人間だ。


 これだけ言われたら、普通は怒りで我を忘れるはずだ。

 だが俺の心はそれほどじゃ無い。〈まうよ〉に感情を喰われているせいだ。


 「パッシ」


 俺は〈佐々木〉の腕を平手で叩いてやった。

 手の形に赤くなってやがる。


 「痛てぇ。 うぅ、なにするんだ」


 「お手をしてやったんだよ。 してほしいんだろう。 次はチンチンで良いんだな?」


 俺が股間を見ながら少し足を動かしたら、慌てて両手で股間を押さえてやがる。

 情ないかっこうで笑いをとりたいのか。

 そんな防御じゃ俺の()りは(ふせ)げないぞ。


 「〈うろ〉、何しているんだ。 二回目のパワハラは懲戒解雇だぞ」


 「そうよ。 暴力なんて最低だわ」


 最低の〈斎藤〉と〈笹本〉が何をほざいても、何も響いてこない。

 空虚(くうきょ)戯言(たわごと)でしかない。


 「三人とも、帰り道に気をつけた方が良いぞ」


 (おど)すのはちょっとアレだけど、最低の人間だから俺の良心は、少しも痛むはずがない。


 「どういう意味だ」


 「脅そうとしているつもり」


 「ちょっと待ってくれ」


 三人は急に大人しくなり不安そうな顔になってやがる。

 少し暴力を匂わせれば途端にこうなるのは、暴力に自信がないからだろう。

 やる側からやられる側に回れば、コイツらは単に弱者でしかない存在だ。


 「最近は物騒(ぶっそう)だってことですよ。 良ければ俺が〈実践空手〉を教えてあげましょうか。 ほうら、これが正しい正拳突きです」


 「ひぃー」


 〈斎藤〉の顔面ギリギリに正拳突きを寸止(すんど)めしてやったら、分かりやすく悲鳴をあげやがった。

 まさか小便を漏らしていないだろうな。汚らしい男だ。


 このクソみたいな三人とは、話したくも無かったので、俺は自分の机に戻ることにした。

 そして、〈田野課長〉へ管理記録と発注記録をメールで送信しておく。

 俺の知らないところで何かが動いているんだろう。


 俺は〈板垣ジェネラルマネージャー〉の踊らされている猿回しの猿に違いない。

 せいぜいウキキと芸をするまでだ。


 【また(くわ)えてあげるから、腐らないでよ】


 〈まうよ〉は、こんな展開を予想していたんだろう。

 咥えてくれるが、喰えない女だ。


 髪をかき上げた〈まうよ〉の耳のピアスが、チロンと()れた気がする。


 俺は〈板垣ジェネラルマネージャー〉に呼び出された。

 〈NKUカンパニー〉の本社は見上げるほど高いビルにある。

 途中で数えるのを止めたから何階建てか、もう分からない。


 〈NKUカンパニー〉の幹部会議で俺は、〈板垣ジェネラルマネージャー〉に背中を押されて、嘘のパワハラを理由に降格処分と減給をされた話を報告している。


 ズラリと並んだ幹部が俺を見ている。

 〈コイツは何者だ〉〈何をしたいんだ〉〈何のためにいるんだ〉、心の奥までを見透(みす)かそうとする厳しい目が、俺を捕えて離そうとしない。


 幹部の中には、俺が勤めている〈KM環境〉の社長の顔が見える。

 そわそわしてまるで落ち着きがない、小物感が半端なさすぎて、こっちまで恥ずかしくなってしまいそうだ。


 他には、「軽井沢グリーンウォーター」の知り合いの〈小林常務〉や、前の会社の〈NKU警備保障〉の社長もいるのだろうな。


 「私からも報告すべき情報がありますので、発言の許可をお願いします」


 〈板垣ジェネラルマネージャー〉がスッと手を上げて、幹部会議の議長の許可を待っている。


 「〈板垣ジェネラルマネージャー〉の発言を許可する」


 「〈KM環境〉の社長の奥様から、当グループの倫理観を(ただ)す意見を頂戴(ちょうだい)しております。 具体的には〈KM環境〉内の社長と職員の不倫行為に関することです。 私立探偵の調査報告書が()えられていました」


 〈KM環境〉の社長の顔が真っ青だ。

 もっと青よりも()いか。ナスビみたいな紫になっているぞ。


 俺が流した噂だけど、やっぱり真実だったか。

 社長の奥さんは徹底的にやるつもりらしい。社長にはもう何の愛情も持っていないのだろう。


 「〈KM環境〉の内部調査をしていた件で、発言の許可をお願いします」


 えっ、〈KM環境〉の総務課の〈田野課長〉がなんで幹部会議にいるんだ。

 緊張していたせいか、少しも気がつかなかったぞ。


  【〈田野課長〉はスパイだったようですね。 いくらなんでも、2倍の請求はやり過ぎだったのでしょう】


 「〈KM環境〉が〈NKUカンパニー〉グループの各企業に請求していた、「ウオーターサバ―」の費用は、実際より約倍の請求がなされておりました。 会社ぐるみで管理記録と発注記録を改ざんしていた証拠を、皆様の手元にお配りしております」


 〈KM環境〉の社長は下を向いてしまったから、もう顔の色がどうなったかは分からない。

 机を見て何が楽しいのだろう。地獄の針山でも見えているのかな、ざまぁ見ろ。

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