知恵くらいはつけてみろよー冤罪
「軽井沢グリーンウォーター」の営業部長のクレームは、何年も前からグループ企業以外にも販売を広げてほしい、と懇願していたが一向に改善されないと言うものだった。
俺が過去にさせられた無理な営業は、ここからも来ていたんだな。
自社製品には確固たる自信を持っているため、他社のミネラルウォーターには負けるはずが無い、と営業部長さんは力説している。
ミネラルウォーターに、それほど大きな差があるとは思えないが、そう言うのならそうなんだろう。
「大きなグループの一員だからと、長期の独占契約を結んだのが失敗でした。 これほど営業力が無いとは思いもよらなかったのです」
営業部長は最初の怒りはどこかに消えて、話し終えた時にはガックリと肩を落としていたよ。
これは本気で困っているようだ。我が社は本当にダメな会社なんだな。
俺もガックリだよ。
「すみません。 私は新参者ですから、まだ課内を掌握出来ていないのです。 ぶっちゃけますが、今いる無能を取り除けば、外への営業も何とかなるはずです」
「どの程度かかります?」
「数年はかかるでしょう。 ほとんどが抵抗勢力なのです。 私が取り除かれる方が早いかも知れません」
不倫の噂は流しているが、一社員が社長を追い出そうとしているんだ。
良く考えると無理ゲーだよな。
「はー」
「ふー」
会議室で同時に溜息をついた、中年のおっさんである二人は、見る人がいればすごく憐れに感じただろうな。
「もう、こうなったら、アレですよ」
「アレとは?」
「そちらの親会社の〈NKUカンパニー〉の専務さんと知り合いなんです。 前にも一度動いてもらいましたが、再度頼んでみます」
「おぉー、そうなんですか。 有力な知り合いお持ちですね。 ただ専務が動いて、なぜ上手くいかなったのです。 問題がない範囲で結構ですから、教えていただけますか?」
「そちらの会社の社長が、〈NKUカンパニー〉の〈小林常務〉の親戚のようです」
ふーん、そうだったのか、それで無能なのに今の地位につけているんだな。
〈軽井沢グリーンウォーター〉の営業部長が帰った後に、俺は社長室に呼び出された。
社長室には〈鈴木統括部長〉もいやがった。こいつは初老にもうなろうとしているのに痩せすぎだ。
中年になれば普通は腹が出てくるものだぞ。なんかの病気じゃないのかな。
「〈うろ君〉、君はなんてことをしてくれたんだ。 〈笹本さん〉〈斎藤君〉〈佐々木君〉の三名から君にパワハラをされたとの訴えがあったぞ。 どう責任をとるつもりなんだ?」
ほぉ、パワハラの冤罪で俺をはめようとしているらしいな。
「私はパワハラなんてした覚えはありません。 そもそも着任してまだ日が浅いのですよ。 常識的にありえないでしょう」
「何が常識だ。 俺は社長だぞ、バカにするな」
怒鳴っているあんたの方が、よほどパワハラじゃないか。
それじゃバカにされて当たり前だろう。
「呆れるほど失礼な男ですね。 これほどご立派な社長様を尊敬出来ないとは。 哀れな猿です」
人を猿と呼ぶ、お前の方がよほど人じゃない。
〈鈴木統括部長〉がニヤニヤしている姿は人間ではなく魔物みたいだ。
〈妖怪ゴマすり〉ってとこか。
「その三人は、どんなパワハラをされたと言ったのですか?」
「よく言うよ。 君がしたのだから、聞かなくても知っているだろう」
〈妖怪ゴマすり〉のお前の方が良くいうよ。
「君はパワハラを犯した罪で処分だ。 平社員への降格と給料の減額を三割とする。 これに懲りて二度とするなよ。 再度するようならば改善の見込みがないと判断して、懲戒免職にするからな」
嬉しそうな社長が俺の処分を書いた一枚の紙を、丸めて投げてよこしやがった。
ただ俺が手を伸ばしてそれをキャッチしたので、悔しそうに顔を歪めてやがる。
俺が這いつくばって紙を拾う姿でも見たかったのか。
いい歳こいてガキだな。
それにな、俺が平社員へ降格したなら、もう三人は同格かそれ以上だ。
パワハラとはならないじゃないのか。
あまりにも穴だらけで、無能すぎて、俺は呆れてしまい社長室を出て行くことにした。
この二人に何を言っても無駄だろう。
「悔しいだろう、わははっ」
社員に言う言葉じゃない。コイツはなんて社長だ。こんなこと子供でも言わないぞ。
「思い知ったか、クズが。 ふふふっ」
なんて情けない統括部長なんだ。何十年も生きているのに、なぜ知恵がつかなかっただろう。
猿知恵くらいはつけてみろよ。
俺はもうこの会社にいるのが嫌になってしまった。また工事警備の仕事に戻っても良いな。
〈橋本〉と〈森川〉の返信には人手不足で大変です、と書いてあった。
【もう少し粘ってみようよ。 これだけボロクソな目にあわされたんだから、思い切り仕返しがしたいでしょう】
そうだよな、こんなことではへこたれ無いぞ。〈ネバーギブアップ〉だ。
「声が少し漏れていましたよ。 良ければ、ちょっとその紙を見せてください」
大きな声で怒鳴られたから、総務課の〈田野課長〉にも聞こえたんだな。
「えぇ、良いですよ。 お恥ずかしい話です」
「拝見させていただきますね。 それと〈うろ課長代理〉が恥ずかしく思う必要は、全く無いです」
へぇー、〈田野課長〉の言葉を深読みすれば、俺以外に恥ずかしい人がいるとも取れるな。
「〈うろ課長代理〉には、こちらの書類を見てもらえませんか?」
「えっ、良いですよ」
書類はウオーターサバ―の売り上げ表だった。ん-、でもどこか変だぞ。
「あっ、管理記録と発注記録に比べて、かなり大きい数字になっている。 どうしてなんだ。 倍近い値になっているぞ」
俺はビックリして思わず声に出してしまった。
「それは本当ですか?」
「えぇ、取引先の半分は、俺が管理記録と発注記録を入力したのですよ」
「やっぱり」
そう言ってから〈田野課長〉は黙りこんでしまった。
請求金額が水増しされているってことなのか。
ミネラルウォーターは水だからって、これは冗談じゃ済まされない話だ。
【はぁー、おやじギャグは止めてよね】
冗談じゃないって言ったのに、〈まうよ〉は厳しい女だな。




