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 こんもりと盛り上がったー適性

 無能、役立たず、ごく(つぶ)し、間抜け、クズ、カス、バカ。


 契約が何もとれずに会社へ帰ると、ありとあらゆる侮蔑(ぶべつ)の言葉をはかれ、唯一奇跡的にとれた契約は〈斎藤〉に横取りされてしまった。

 俺はダメ人間だけど、それ以上にクソみたいな会社で、さらに腐った三人の社員だ。


 でも待てよ。どうもおかしい。冷静に考えると異常だ。


 「これでも一応は会社だぞ。 利益が出そうにも無い業務に、派遣とはいえ、なぜ人を雇ったんだろう?」


 【グループ内だけではなく、外へも売りに行けと言われたのでしょう】


 「まぁ、それは普通の発想だな。 ただな」


 【売りに行くかっこうだけで、真剣には取り組まなかった。 やっている感を見せたかったのでしょう】


 「誰に見せたのか。 何のために見せたんだろう?」


 【それは当然ながら、親会社の上層部でしょう。 たぶん、社長の適性を疑われているのだと思います】


 「うん。 僕もそう思う。 〈まうよ〉の考えと一緒だ」


 あの夏の日の少年のように、俺は素直にコクンと(うなず)いた。〈まうよ〉の推理が当たっていると思う。

 何よりも、社長の適性が無いのはハッキリとしているからな。


 「そうなら、一応だけど課長代理の俺に、三人がいきなり暴言を吐いた理由はなんだろう?」


 【一つは、ものすごく腹立たしいですが、〈勝利さん〉を()めていたってことでしょう。 ガツンとかませば(ひる)むと考えたのですね】


 「もう一つは?」


【親会社から〈勝利さん〉が送りこまれて来た、と思ったのでしょう。 〈勝利さん〉は会社に(うら)みを持っていますので、適任です】


 「〈板垣ジェネラルマネージャー〉の手の平の上で、踊らされているって、ことか?」


 【そのようです。 あの男は要注意ですよ】


 てめぇも少しは、自分自身を踊らせて汗をかけよ、と指に念を込め、〈板垣ジェネラルマネージャー〉にメールを打った。

 メールの内容は、社長と〈笹本〉の不倫だ。

 きっと〈噂話〈上〉〉が良い仕事をしてくれるだろう。

 

 「もうビックリしましたよ。 社長室に挨拶を行ったら、もうぐわぁと驚きましたわ。 真っ昼間から〈笹本〉という若い女性社員とお(さか)んなんですよ。 社長室からパンパン音が漏れていましたね。 それも既婚者同士のダブル不倫なんですね。 こんなの、ただじゃすまないでしょう。 着任(ちゃくにん)そうそう困っちゃいました、あははっ。」


 「内容は変えませんが、下品な言い方は添削(てんさく)します」


 と返信された。

 下品な方が面白いのに、全くおかしな野郎だぜ。


 〈沢村さん〉にも同じような内容のメールをしておいた。

 返信は良好だ。


 「そこのビルを掃除しているシングルマザーの友達に聞いたことがあるわ。 多目的トイレで、あんあん、やっていたんだって。 やってたのは、その社長と不倫相手だったんだね。 面白い話でもあるし、まかされたわよ。 シングルマザーの連帯で広めてあげるね」


 多目的トイレの使用目的外の使用が、社長と〈笹本〉と決まったわけじゃないが、可能性は高そうだから、まあ良いとしておこう。

 それよりも、シングルマザーの連帯の方がヤバい気がする。そんなのがあるんだ。


 さらに、〈YZタワービル警備チーム〉にも噂を流しておいた。

 既婚者は「不倫は絶対に許ません」と怒っていたな。

 自分の嫁さんの様子がおかしいのかも知れない。


 意味は無いとも思ったが、工事警備の〈橋本〉と〈森川〉にも伝えてみた。

 単なる勢いである。


 「多目的トイレが良いですね。 酒の席での話題にピッタリです。 酔った男は少年に戻りますからね。 ウンコとエッチは最高の酒の(さかな)なのですよ」


 男はいつまでたっても子供だから、ウンコが大好きってことだな。

 だけどウンコを肴に酒は飲みたくは無いな。


 【汚い話になってきたけど、盛り上がりそうね】


 こんもりと盛り上がったウンコを想像してしまった。

 俺もお子様なんだ。


 その後しばらくは平凡な日常が続いた。

 三人のクズは俺が昔と違って手強(てごわ)いと思ったのだろう。

 悪口や文句は言わずに無視を決めこんでいる。


 俺が手伝っているため、〈木本さん〉も早く帰れるようになった。警備員室に帰る報告も継続して行っている。

 当然、警備員が変わるたびに、社長と〈笹本〉の不倫を面白おかしく話しておいた。


 なかにはもうその噂は聞いているっていう人もいたし、非常階段の影で二人が抱き合っていた、との情報も得ることが出来た。


 グッドな情報をゲットだぜぇ。

 〈昼間から堂々と共有スペースで抱き合っていた〉と噂を強化したのは当然だろう。


 そんな中、「軽井沢グリーンウォーター」という会社の営業部長さんが会社へ乗りこんできた。

 我が社のウオーターサバ―への補充用の水を供給してくれている、ミネラルウォーターの製造メーカーである。

 我が社はお得意さんであるはずだ。だけど営業部長さんは怒った顔つきに見える。どうしてなんだろう。


 営業課の部屋に入った時に、「こんにちは」と挨拶をしたのに、俺を目指してつかつかと無言で歩いてくる姿は、苦情を言ってやると体で表しているようにしか見えない。


 「あなたが、今度配属された課長代理さんなのでしょうか?」


 「〈うろ〉と申します、若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 「営業部長の〈山元〉と言います。 今日来たのは、最後通告なのですよ」


 えっ、いきなりこの部長は何を言い出すんだ。最後通告って(おだ)やかじゃないぞ。


 「それはまた、どうしてなのですか?」


 「うちはあなたの会社と独占契約を結んでいますが、それを解消したいのです。 理由は何度も伝えているのですが、いつまでも経っても販売量が増えないためです」


 「はぁ、そうなのですね。 お恥ずかしい事ですが、来たばかりで事情を良く分かっていないのですよ。 会議室に場所を移して、お話しを(うかが)っても良いですか?」


 〈交渉〈下〉〉のスキルが働いてくれたらしい。ここまでは合格点の対応が出来ている。

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