ハメ撮り写真ー契約
お客さんがあまり入っていない。ここは喫茶店の個室である。
俺が知らないだけで普通にあるのかも知れないが。個室だけの喫茶店は珍しい気がする。
だからあまりお客さんが入っていないのか、あまりにもお客さんがこないから、思い切って個室にしたのだろうか。
どちらにしても、内密の話には最適な場所であろう。
「大事な話だって言うから来たんだぞ。 どうしてカスまでいるんだよ」
〈高橋〉は昔と変わっていない。変わらずド失礼な野郎だ。
こんなに不愉快な人間とは二度と会いたくなかったな。
なぜ断り切れなかったんだ。自分の甘さが嫌になってしまう。
この喫茶店のコーヒーは少し苦すぎる。砂糖をもっと足すか。
「ちょっと待ちなさいよ。 〈ろうさん〉はもうカスじゃないんだから。 大きなビルの警備主任になっているし、この前は強盗を一人でやっつけたんだよ」
〈沢村さん〉は俺のために抗議をしてくれているが、昔の俺はカスだと言っているぞ。
「はぁ、ウソを言うなよ。 この間抜けが、そんなはずがないだろう。 バカも休み休み言えよ」
人間が出来ていない〈高橋〉だから、これ以上何を言っても時間の無駄になるだけだ。
「ふぅ、俺のことは置いておいて、〈沢村さん〉から本題を早く話してくれよ」
用件は俺のことじゃないんだから、不毛な話はもう止めよう。
パパっとすませて少しでも早く帰らせてほしい。
「それじゃ、もう一回だけ最後に聞くけど、私と結婚する気は本当にないの?」
ほぉー、取り乱すこともなく〈沢村さん〉は冷静な声だな。
ありがたい事に修羅場になるって感じじゃない。
「ないな。 言ったように、君との関係は大人の関係だっただろう。 お互いに割り切った遊びだったはずだ。 結婚したいとか、君を一番愛しているって言ったのは、その場の雰囲気を盛り上げるために決まっているだろう。 それは君も分かっていたよな」
「違うわ。 私は本気だったのよ。 だから、マンションの契約も進めていたんだ」
「ふん、勝手に君がしたことだろう。 僕には全く関係がないな」
「ふん、あんたの気持ちがよーく分かったわ。 私はあんたの嘘や不誠実さで、ものすごく傷ついてしまったのよ。 マンションの契約金も払った後だわ。 だから、慰謝料を請求します。 私の体と心を弄んだことを、絶対に許さないよ」
おぉぉ、マンションは直前で解約したって言ってたのに、なんか、ぶち込んでくるな。
「えっ、慰謝料って。 不倫したのは君の方じゃないか。 そんなのおかしいよ」
「ほら、こんなに証拠が一杯あるわ。 奥さんや会社にぶちまけて、あげようか。 大騒ぎになるわよ」
ぐうぇー、〈沢村さん〉のスマホの中には〈沢村さん〉と〈高橋〉のハメ撮り写真が一杯入っているぞ。
〈沢村さん〉のおっぱいを揉んでいる〈高橋〉の写真もある。
グロい画像を〈沢村さん〉が次々と開いていく。二人の股が開いている写真ばかりだ。
俺が横にいるのに、お構い無しなのはどういう事なんだろう。
ハメ撮り写真がてんこ盛りにあり過ぎる。俺はこんなグロい写真はもう見たくない。
だから俺はスマホから視線を=外して、〈高橋〉の様子を見てみた。
浮気相手に開き直られた人間は、どうなるのか、興味深いだろう。
二度とないチャンスでもある。
〈高橋〉は人間じゃありえないほど顔を青くして、ブルブル震えていたよ。
あははっ、良い気味としか言いようがない。
俺をカスと言ったバツだ。
もっと青く青く深海の底のようなブルーになりやがれ。
だけど〈沢村さん〉は不思議だよ。
自分もプレーヤーなのに、どうやってハメている場面を撮ったのだろう。
「〈まうよ〉、〈沢村さん〉ってスキルを持っているのか?」
【へぇー、〈自撮りの女〈中〉〉っていう、良く分からないスキルがありますね。 このスキルは男性の〈勝利さん〉では発動しないでしょうね】
〈自撮りの女〈上〉〉は、自分がしている場面の画像が撮れるって事に決まっている。
怖えぇスキルだよ。
「くぅー、もしも、こんな画像が世間に流れたら、君も大恥をかくんだぞ。 それでもいいのか?」
「私はもう焼け糞になっているのよ。 あんたに復讐することしか、今の私の頭にはないわ」
「ちっ、このクソ女が」
〈高橋〉は汚い男だ。
スマホを持っている〈沢村さん〉の右手に、〈高橋〉が腕を伸ばしてスマホを奪おうとしてきた。
ただ俺にすれば亀のような動きでしかない。
もしもハメ撮りが動画だったならば、〈高橋〉はきっと亀のごとく遅かったに違いない。
俺は余裕で手首を掴んでやった。
にゅっと出てきた亀の首を掴むように、そして少し捻ってもやった。
ついでってヤツだ。
「痛ててぇ。 離せよ。 このカスが」
「カスって誰のことだ?」
俺はグイッと捻りを強くしてやった。
「うっ、痛い。 止めろよ」
「止めろよって、誰に言っているんだ?」
さらにもっと捻ってやった。
これ以上は筋を痛めるかも知れないが、ド失礼野郎の〈高橋〉の手だから何も問題はない。
「くっ、止めてください。 お願いです」
まあ、良いか。
かなり残念な気もするけどこのへんで放してやろう。
「つつっ、〈うろさん〉はどうして、強いのを隠していたんだ?」
「んー、そうだな。 暴力は悪いことだと思っていたんだけどな。 もう良いやと思ったんだよ」
「うんうん、〈ろう主任〉はもう凶悪なんだよ。 それで私のボディガードのために、ついて来てもらったんだ。 痛いのはもう嫌でしょう。 だから慰謝料として、キッチリ50万円払ってね。 領収書も用意してあるよ」
「50万円か、…… 」
おー、〈沢村さん〉は良く考えているな。ATMの限度額でおさえてある。
正社員なら50万円は払えない額じゃない。
トラブルを防止出来るのなら払っても良いと思える額だと思う。
絶妙な金額設定と言えるだろう。
「プリントアウトしたものを、職場とご近所さんに、ばら撒いてもいいの?」
ご近所さんって言うのが、またキツイな。
「でもな、払ったとしても、画像がそのままだったら、意味がないじゃないか」
「そんなの簡単よ。 お金と引き換えにスマホを渡すから、その場で気のすむまで削除したら良いでしょう」
〈高橋〉はよほど奥さんが怖いのか、〈沢村さん〉に脅されて50万円を払い、今必死にハメ撮り写真を消しているところだ>
負荷がかかる運動でもないくせに汗だくで指を動かしている。
別れた女と自分のハメ撮り写真は、きっと心にすごく負荷がかかるものなんだろう。




