まん丸のお尻がすごいー着物
そして数日後、なぜこうなったのか、よく分からないんだけど、俺は老舗の料亭で懐石料理を食べているところだ。
おまけに芸者さんみたいな人に、お酌をしてもらっているんだ。
和装なんだけど芸者さんじゃないらしい。
芸を見せるわけじゃないからそうなんだって。
お酌をしてくれている着物の美人さんに聞いたら、そう答えてくれた。
白粉を塗った二つの鎖骨とその間が艶めかしい。
「うふふっ、だったら私はお客さんに何を見せるのでしょう。 私に興味がおありですか? 」
【答えによっては、咬み千切るわよ】
「えぇっと、その、すみません」
「そんな、うそっ。 私、振られちゃいましたの」
この女性は自分に自信があったのだろう。
確かにかぶりつきたくなるような大人の色気を持っている。
特に絹で包まれた、まん丸のお尻がすごい。
「ほっほっほ、〈うろ主任〉は美人にも守りが硬いんだな」
今笑っている、大物と呼ばれるこの人は〈安藤さん〉という名前だ。年は六十を超えているかな。
オフィスビルやテナントビルを何棟も所有している大金持で、その財力で大きな権力も有しているらしい。
さらに悔しいのは、この財力が先祖からきていると言うことだ。
駅前に大きなビルを建てるなんて現在では不可能だろう。とんでもない金額になると思う。
そもそもまとまった土地なんて、どこを探しても無いじゃないか。
「ははっ、〈うろ主任〉はやっぱり誠実な男だな。 女遊びも出来ないのは、男としての限界を感じるが、それだけ信用出来るとも言えるな。 わしらと真逆なのが良い」
「ほっほっほ、〈晴れ晴れライフ〉の社長は浮気ばかりしているからな。 頭と一緒で信用が薄いぞ。 不動産屋をいいことに、寝泊まりする場所を何個所も持っているんだろう?」
「〈安藤会長〉に、髪のことと、浮気のことを言われたくありませんね。 あなたこそ、浮気がハゲし過ぎる。 よそに子供を二人も作ったのは、業界じゃ有名な話になっていますよ」
薄いハゲの〈晴れ晴れライフ〉の社長が、もう少し薄い〈安藤会長〉へ、ハゲのダジャレを言ったのだが、気づかれずにスルーされているぞ。
俺と着物の美人さんは、気づいたんだがスルーをしている。
ハゲていない者がハゲに触るのは危険だからな。
あまりにも、お寒いダジャレってこともある。
スースーしているぞ。
「はぁー、そんなに有名なのか。 二人目の時に妻が激怒したんだが、それが外にも漏れたんだな。 妻の姪だったのがまずかった」
俺は和装の美人さんに、お酌をしてもらいながら、二人のおっさんの浮気話をぼーっと聞いていた。
あまり興味が無かったんだ。俺にはなんの関係もない話だからな。
妻はおろか恋人もいたことが無い俺には、浮気なんて神話級の話だよ。
【この二人の話を聞いていると、ものすごくムカムカしてきます。 〈勝利さん〉は決して影響されちゃダメですよ】
「はぁ、俺の住んでいる世界とは、違いすぎて影響もなにもないよ。 世の中には、多くのものを持っている人がいるんだな。 俺は持たざるものだよ」
【うふふっ、〈勝利さん〉には私がいるじゃないですか。 今夜も咥えてあげますから、頭を持ってくださいね】
んー、〈まうよ〉が冗談を言ったのか。
〈まうよ〉は着物の美人さんよりも美人だけど、お笑いのセンスは全く持っていないんだな。
妖魔は万能じゃないってことだろう。
【きぃー、私をバカにしていますね。 痛くしてほしいと、とっても良いですか】
意図が分からない会食を終えて、俺はホッとしている。
大物と話すのは気をつかうので疲れてしまうんだ。
〈晴れ晴れライフ〉の社長さんの方は、強盗未遂事件の追加のお礼と考えられるが、〈安藤会長〉の意図がつかめない。
〈気に入った〉と言われたが、本当のことなんだろうか、もやもとした疑問が残ってしまう。
「〈うろ主任〉、ぐすっ、私の話を聞いてよ。 私、〈高橋〉に騙されたんだ」
シングルマザーの〈沢村さん〉が俺に泣きついてきた。
清掃会社の上司である〈高橋主任〉に騙されたそうだ。
ただ不倫なんだから、どうなんだろう。
騙されたのは〈高橋主任〉の奥さんと言えないこともないよな。
マンションの契約が本決まりになった時点で、〈やっぱりお前とは結婚出来ない〉と言われたらしい。
そんなの初めからそうだろうと思う。
浮気をするような男の言葉をまともに信じる方がおかしいんだ。
そんなの遊びに決まっているじゃないか。
「このままじゃ、私の気持ちが収まらないよ。 慰謝料を請求しようと思うの。 だから、〈ろう主任〉も一緒にきてよ。 あんなにボロクソに言われたんだから、〈主任〉も〈高橋〉に恨みがあるでしょう」
「えぇ、俺が」
よく言うよ。
〈沢村さん〉も一緒になって俺をボロクソに言っていたぞ。
足を蹴ったことも忘れているのか、やった方は覚えていないってのは、本当なんだな。
「そうよ。 シングルマザーの私には、他に頼める人なんていないんだ。 〈主任〉しかいないんだもん。 私が出来ることなら、なんでもするから、どうかお願いします」
〈沢村さん〉は困ったことに、俺の足にすがりついてきた。
右の太ももにガバッと抱きついて離れないんだ。
かなりの大きさのおっぱいを、グイグイと当ててくるんだ、わざとなのか。
おまけに、グズグズと泣いている。
ウソ泣きなのはハッキリしている。わざとらく、エーン、エーンと声をあげているからだ。
うわぁ、なんてことをしてくるんだ。
人に見られた誤解されるじゃないか。俺が悪い事をして泣かしたと思われるぞ。
右足を振って〈沢村さん〉を振りほどいたら、倒れたのをいいことに、今度は土下座までしてきた。
「あーん、どうかお願いします。 私を見捨てないでよー」
大きな声まで出して始めたため、俺はそこで根負けをしてしまった。
勝敗がついてしまったんだ。俺が負けたってことだ。
「はぁー、分かったよ。 でもついて行くだけで良いな」
「やったー、嬉しいー」
〈沢村さん〉はパッと立ち上がって、ガバッと俺に抱きついてきた。
なんて素早い動きなんだろう。スポーツをしていたなんて聞いたこともないけどな。
【はあっ、〈勝利さん〉が逃げないからです。 ムカムカしてくるわ。 今直ぐ、離れなさいよ】




