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愚痴はもっと聞きなさいよー副主任

もう一人のスキル、〈IT機器〈下〉〉を(うば)った後に〈YZタワービル警備チーム〉が()けつけてくれた。

後始末(あとしまつ)は部下に任せた方が良いな。俺ばかりが活躍するのは良くないと思う。


 その後、何台ものパトカーで警察官がワラワラとやってきて、三人のおっさんと〈相馬副主任〉と〈松山係長〉が連行されていった。

 大勢の警察官は犯人を連行するだけのお仕事になっていたな。

 部下達が完全に強盗達を拘束(こうそく)していたからだ。


 俺も含めて〈YZタワービル警備チーム〉は、もちろん、〈晴れ晴れライフ〉の人達も代わる代わる(かわるがわる)に警察の事情聴取を受けることになった。


 「ん-、なんで私まで警察に行かなくちゃいけないのよ。 参観日とかあって忙しいのに、嫌になっちゃう」


 事件から五日過ぎた日の午後に、清掃の〈沢村さん〉が俺にまた愚痴を言ってきた。

 この人の愚痴が役に立ったのだから、ちゃんと聞いてあげなくちゃいけないな、とは思うけど。


 「〈沢村さん〉、もう良いだろう。 俺は聞くのに疲れてしまったよ」


 「〈うろ主任〉の愚痴は聞きたくないな。 だけど、私の愚痴はもっと聞きなさいよ」


 【女性の話を聞くのは悪い事とは思いませんが、長過ぎます、もう止めたらどうですか。 私も〈勝利さん〉に言いたいことが、まだまだあるのですよ】


 「えっ、この四日間、危ないことは止めた方が良いとか、色々と文句を聞いたじゃないか。 まだあるのか?」


 【ふぅん、私のは文句じゃありません。 ご提案ですよ。 それにしょうがないでしょう、〈勝利さん〉に話し出すと止まらなくなっちゃいます。 心地良(ここちい)いからなんですよ】


 「〈ろう警備主任〉、本当にありがとう。 我が社の命運は君のおかげで(たも)たれたよ。 まさか〈松山係長〉が強盗とグルだとは想像もしていなかった。 君がいなければ、防ぐことなど出来なかったと思う、感謝しても感謝しきれない。 これは私のお礼の気持ちだ、君の働きに比べれば少な過ぎるが、どうか受け取ってほしい」


 「いえいえ、自分の仕事をしただけですよ。 特別報酬をいただいていますので、さらにお礼は必要ありません。 お気遣(きづか)いには感謝しますが、もう充分ですよ」


 「はははっ、君のことだからそう言うと思ったよ。 だから君の部下の分も用意しているんだ。 部下のためにも、受け取ってくれたまえ」


 「はぁ、部下の分もですか。 そう言われると弱いですね。 部下は頑張ってくれましたからね」


 「そのとおりだ。 部下の頑張りに(むく)いるのが上司ってもんだよ」


 「これ以上、ごちゃごちゃ言うのはかえって失礼ですね。 ありがたく頂戴(ちょうだ)いたします」


 「ははっ、それで良いんだ。 充分以上の働きをしてくれたんだからな。 それと、…… 」


 俺の部下である〈YZタワービル警備チーム〉員に、社長さんからの金一封を手渡すと、全員から歓声が()き起こった。

 中堅の〈小津さん〉は「現金だ」と叫び俺に抱き着いてくるしまつだ。

 この人はどんだけ小遣(こづか)いが無いんだろう。

 既婚サラリーマンの悲哀(ひあい)常軌(じょうき)(いっ)しているぞ。


 万歳三唱(ばんざいさんしょう)までしようとしたので、それは慌てて止めさせた。

 もっと目標は高く持とうよ。


 続いて空席になった副主任に、ベテランの〈柴さん〉になってもらうことにした。

 知識・経験・人柄(ひとがら)とも申し分ないと思っている。


 会社の上層部からは、他の警備チームの人を推薦されたのだが、すっぱり断ってしまったんだ。

 今回の事件で無理を言った部下を、裏切るようまねはしたくない。


 だけど、自分の出世よりも部下の幸福を優先した良い上司と、俺は違う。

 今のチームの雰囲気が悪くなり、居心地(いごこち)が悪くなるのが嫌だっただけなんだ。


 〈目標は高く持とう〉って笑ってしまうな。

 俺は今のままで充分だと思ってしまっている。

 今の仕事は底辺の時と比べれば薔薇色(ばらいろ)に輝いているんだ。



 「〈柴さん〉、正式な辞令は明日交付されるが、副主任を任命したい。 受けてくれるか? 」


 「ばんざい」


 うわぁ、ビックリした、いつも冷静な〈柴さん〉が感情をあらわにしているぞ。


 「途中入社ですので、ずっと平だと思っていました。 それでも自分なりに一生懸命やってきたつもりです。 見てくれていたのですね。 〈うろ主任〉、感謝いたします」


 他のチームからの推薦の話が(うわさ)になっていたのか。

 それとも、今までは派閥や縁故的(えんこてき)なものが優先されていたんだろう。

 俺もそうだしな。


 「ははっ、〈柴副主任〉の努力の結果だよ。 よろしく頼みますね」


 「家族も喜んで…… 」


 〈柴さん〉は後の言葉が続かないらしい、奥さんや子供の顔が浮かんだんだろう。

 今の会社は良い会社だと思っていたが、副主任への昇任くらいでこうなってしまうのは、かなりの(やみ)を抱えているとも考えられるな。




 三人の強盗は、最近流行っているブラックバイトで集められたようだ。

 若者だけと思っていたが、おっさんもいるんだな。


 金に困ると人の判断力って頼りにならなくなってしまうんだな。

 俺もそうだったから良く分からる話である。


 〈松山係長〉はギャンブルで多額の借金を背負っていたらしい。オンラインカジノをやってたんだ。

 強盗の手引きがどんな罪になるか知らないけど、奥さんと子供が可哀そうになってしまうよ。


 俺を恨んでいた〈相馬〉に話を持ちかけたんだと思うが、〈晴れ晴れライフ〉の社長によると、たぶん黒幕がいるそうだ。

 三人のおっさんと〈松山係長〉を結びつける人物がいなくては、話が上手くあってこない。


 そうなると清掃会社も怪しくなってくるぞ。

 三人のおっさんがこのビルで働き出したタイミングが良すぎるんだ。

 誰かが意図(いと)しなければこうはならないはずだ。


 黒幕の話は〈晴れ晴れライフ〉の社長の憶測(おくそく)だから、後は警察の捜査に任せるしかないと思う。俺が考えてもしょうがないことだ。


 やり過ぎだったから心配していた俺の過剰防衛罪も、〈晴れ晴れライフ〉の社長と大きな取引の相手さんが、警察に上手く話してくれたようで、なにも問題にはならなかった。

 どうも大きな取引の相手さんは、警察に対してかなりの影響力があるみたいだ。

 大物って呼ばれる人物らしい。

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