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美女

 【それはそうかもです。 口だけから、グーンと急成長ですもんね。 まあ、今だけは許してあげましょう。 まだ塞がっていませんので、口の中を舐めてあげますね】


 近づいて唇を重ねられたら、もう顔しか見えない、当たり前のことだ。


 なんて長いまつ毛だ。

 目はパッチリと大きい。つぶらな目と言うんだろう。とても可愛い目をしている。

 すぅーと鼻筋が通っているが高すぎていない。

 ほほが薔薇色に輝いているのは、キスしている状態だからだろう。


 色っぽい唇と合わせると、絶世の美女と言うべきだ。

 顔の輪郭も完璧だと思う。

 明るい栗色の長い髪もサラサラしているな。

 これほど美しい女を俺は見たことがない。芸能人を含めたテレビでもだ。


 体もあればと思ってしまうし、この顔だけでも良いなとも思ってしまう、それほど良い女なんだ。

 その女と俺は今キスしているんだ。

 感動しそうになってしまう。

 あぁ、体があれば最高なのにな。


 【もう、これで終わりです。 傷は塞がりました。 〈勝利さん〉が私を愛してくれるまで、口づけは、お預けですよ】


 「そっ、そうなのか」


 〈愛してくれるまで〉か、〈まうよ〉が俺のことをどう思っているのか、聞きたいと思ったが、聞けないでいる。


 気味の悪さもほとんど無くなった感じだ。

 美人って得だなと改めて思う。ブスならたぶん窓から放り投げていたな。


 それにしても俺はなんてチョロい男なんだろう。

 首だけの化け物にキスされたのに、すごく嬉しいぞ。もっとしたいとも思っている。

 すごいスケベだけの可能性もあるな。




 アパートが傾いているから床も傾いているなと思いつつ、頭しかない〈まうよ〉に朝起きてギョッとしながら、十日ほど〈工事警備〉の仕事を頑張ったら、スマホが買えるお金が貯まった。


 自分が働いた分にプラスアルファ、ピンハネした分が足されるから、思ったよりも早かった。

 ピンハネは悪いとは思ったがこの職場の伝統なんだ。ルールなんだと思う。

 波風を立てないでやって行くにはしょうがないんだ。


 何回かケンカの仲裁をしたので、少しは役に立っているはずだから良いと思うんだ。


 休みの日に安いスマホを買って、服も下着も新しい物を買い足した。

 だけど酒を買うのは止めておこう。

 〈じろさん〉がトボトボと出て行く背中が、まだ目に焼き付いている。


 少なくとも同じ部屋にいる間は飲まないと決めた。

 酔っぱらってたら、アパートが崩れる時に逃げ遅れそうだ。


 ただ悲しいことに、スマホを手に入れても登録が出来る人が俺にはいない。

 考えたが誰もいないんだ。全く思いつかない。

 しょうがないので〈橋本〉と〈森川〉を登録することにした。

 グループにしておけば、用事を言いつける時や呼び出す時に便利じゃないか。

 

 俺には友達や親しい知り合いが一人もいなんだ、と改めて思い知らされた。


 【スマホなんかで繋がっていない、私がいるじゃありませんか】


 俺は〈まうよ〉の耳を両手で押さえ、初めて自分からキスをした。

 〈まうよ〉は目を閉じて大人しくしてたよ。

 長いまつ毛が震えるのように揺れていたと思う。



 現在やっている工事が後三十日ほどで完成するから、とりあえず俺はそれまではここにいることにする。

 三十日あればかなり稼げるはずだし、その後のことはその時がくれば考えれば良いさ。


 今の仕事の居心地が悪いわけでは無いのだが、〈じろさん〉を飼ってたような会社だ。

 高い確率で暴力団が絡んでいるはずだ。直営である可能性さえある。

 前の町でやったことを考えても、これ以上暴力団に関わるのはヤバいと思うんだ。

 何かの拍子にバレるとマズいことになってしまうだろう。



 ありがたいことに何の問題もなく時が過ぎていき、首から上の〈まうよ〉にも慣れてきたのだが、突然、会社のお偉いさんが視察に来ることが知らされた。


 「〈橋本〉よ。 お偉いさんて、暴力団の幹部なのか?」


 「違いますよ。 この現場には危ないヤツもいますが、会社の上層部はまともな人間のはずです。 良い大学を出ていると聞いています」


 「良い大学を出ているとカタギなのか?」


 「確率的にはそうなりますね。 私はFランク大卒ですので、こんなもんですよ」


 「なるほどな。 今の説明で良く分かったよ」


 「うーん、良く分かりましたか、嬉しいような、すごく悲しいような」


 〈橋本〉はあまり信用出来ない男だが、今の説明は分からなくもない。

 学力や親の経済力で就職格差が生まれているってことだろう。

 暴力団が職業なのか、違うのかは、知らんけど。


 「〈NKUカンパニー〉に勤務し、ジェネラルマネージャーをやらせていただいている〈板垣〉と申します。 ここに来ましたのは、この現場の作業効率が劇的に改善したため、その原因を究明するためです」


 「現場をあずかっている主任の〈橋本〉です。 本社のジェネラルマネージャー様が直々にありがとうございます。 原因は特に思い当たりません。 みんな真面目にやっているだけなんです」


 俺は〈橋本〉の後で話を聞いている。横には〈森川〉もいる。

 暴力団の幹部なら直ぐに逃げようと確かめに来たんだ。


 でも違うような気がする。

 〈板垣〉という男は、いかにも賢そうですごくモテそうな、スマートなイケメン野郎だ。

 最大級の反感は待ったけど、暴力のきな臭い匂いはしなかった。


 「えぇ、それは現場日誌でよく分かっています。 そうですから、直接現場を確かめに来たのです。 お時間はとらせませんので、安心してください。 私が一人で調査しますから、みなさんは普通に仕事をお願いします」


 〈板垣〉は作業服に着替えて、マスクの代りなのかタオルを顔に巻いている。

 たぶん、作業員に聞き取りをするんだろう。

 作業服は分かるがタオルはなんのためだ。

 イケメンを隠して反感を無くすためなら、有効だけどものすごく腹が立つぞ。

 

 嫌味な男だよ。

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