第1話『水面に映るもの』
星の座会議は、なおも緊張を孕んだまま続いていた。
各星位階が思い思いの主張を並べるなか、天樞・カミーユは退屈そうに頬杖をつきながら、その様子を眺めていた。
「……あなた方、本気でそれ言ってるの?」
瞳だけを動かして一同を見渡す。
「それとも何? 白雪を黒鳥の侍女として仕えさせてることが、そんなに気に入らないの? ……なら、あたしが白雪を抱けば満足するの?」
その場の空気が凍る。
沈黙を破ったのは、天璇の主花席に座すアーシュラだった。
「それを黒鳥さまがお許しになるわけがありませんものね」
突如として水を向けられたサシャは、面のような無表情で静かに口を開く。
「それが天樞さまのご意思であれば、主花たるわたくしが異議を唱えるわけがございません。
主花が陪花を指名するということは、我が主星に側妃を奉ることに他ならない――
皆さまも、当然その程度のことはご存じのはずです」
アーシュラは冷笑を浮かべた。
「本心かしら? 疑わしいわね」
サシャもまた口角を動かさぬまま答える。
「もう主花ではなくなる以上、あなたには発言権がないことをお分かりになったほうがいいのではなくて? “緋の司”という号すら、まもなく返上されるのでしょう?」
「まあ、ご心配くださいますの? それより――」
アーシュラの目がわずかに細まる。
「わたくしがあなたの代わりに、その座に座る日が近づいていることのほうを、心配なさったほうがよろしいんじゃなくて?」
──静かに立ち上がったのは、天の砦から遣わされた仮面の使者だった。
「建設的な議論が見られない以上、本日の会議はここで解散といたします。
各星の座は、持ち帰った意見を基に再検討されるよう、要請いたします」
その場が散会となり、席を立つ者たちの間に緊張が残るなか――
退出の間際、カミーユとサシャは、それぞれ無言でイーヴの肩と背を軽く叩いた。
それは親しみと信頼のこもった、ささやかな仕草だった。
その感触に、胸の奥が熱くなる。
誰にも見られぬよう、イーヴはほんの少しだけ、目を伏せた。