抱きしめることさえ許されない君を、それでも望んでしまった

誰かを守る。それは簡単な言葉で、いちばん難しい願いだった。

侍従として仕えてきたイーヴは、自我を抑える処置を受けた存在だった。
感情を持たず、ただ“与えられた役目”を果たすはずの彼が、
少女――シアノに出会った瞬間、胸の奥が反応した。

本来なら、ふたりは惹かれ合うはずだった。
けれど薬によって、しきたりによって、その想いは“止められていた”。

そんな彼女が今、“選ばされる”場所に引き戻されようとしている。
誰の意思でもなく、ただ仕組まれた名目で。

イーヴは決意する。
愚かでも、手を伸ばすと決めた。
守るだけでは届かないと知ったから。

「生涯の伴侶として、君のそばにいたい」
抱きしめることすら許されない、その手を――今度こそ、自分の意志で取るために。