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大海の蜃気楼 ートリアイナ王国海戦記ー  作者: 出羽育造
序章 戦艦大和 異世界に現る
20/39

第20話 トリアイナ島沖海戦➂

 天城戦闘第4中隊と第3中隊第3小隊の紫電改二12機と天城爆撃隊の彗星8機は敵別動隊撃滅のため、彩雲の報告してきた位置目指して高度3千mを飛行していた。


 その途中、戦闘第4中隊の中隊長、鎌田穣大尉は高度2千m付近を味方艦隊に向かって飛行するドロームの編隊を発見した。


「お神輿の野郎、こんなところにいやがったか。機数は報告に合った通り、大体30機といったところだな。よし、4中隊は下方に見えるお神輿を叩く。彗星は敵艦隊に向かえ。戦闘3中隊3小隊は彗星の護衛だ」

「お神輿は性能的に紫電改の敵ではない。ただ数が多い。1機でも多く落とすため、ここは敢えて単機戦闘で迎え撃つ。野郎ども、かかれ!」


 鎌田は無線電話機のレシーバーを叩き付けるように置くと中隊全機を率い、ドローム目掛けて急降下した。上空からの紫電改の接近に気付いたドロームが慌てて散開しながら、3本の腕から魔導砲を撃ってきた。しかし、魔導砲の特性として威力はあるが連発ができない。豪雨のように12.7mm機銃を撃ち込んでくるグラマンF6Fの方がよっぽど恐ろしい敵だ。このため、紫電改各機は機体を振って余裕で躱し、すれ違い様に20mm弾を撃ち込んだ。


 機体を引き起こしながら鎌田は首を捻って後方を見ると、お神輿が数機、黒煙や炎を吹き出しながら墜落していくのが見えた。鎌田はスロットルを開いて機体を加速させる。


(新たに供給されたガソリンの質がいいのか、発動機の吹き上がりがいつもよりいいな。速度も乗っている感じがする)


 トゥーレ島で産出する軽質油から精製されたガソリン燃料は質が良いため、粗製ガソリンで喘いでいた発動機とは思えない程に良好なエンジン音を響かせ、機体をぐいぐいと引っ張っていく。


 鎌田は目の前に編隊から離れた1機のドロームを見つけた。


「よし、アイツを殺る!」


 上昇しつつ操縦桿を右に倒し、フットバーを軽く踏んで急旋回して後方から襲い掛かった。照準器一杯にドロームが映ったところで発射銃柄を握った。両翼から合わせて4本の火箭が伸び、ドロームの機体を打ち砕く。20mm機銃弾を浴びたドロームは推進器に被害が及んだのか、爆発して吹き飛んだ。


 2機目を撃墜した鎌田は一旦戦闘空域から離れるため、さらに数百mほど上昇して下方を見渡した。今のところ中隊は優位に戦いを進めている。しかし…。


「むっ、まずい!」


 単機戦闘では勝てないと踏んだのか、一部のドロームが集まって空中静止して円陣を組んだ。そこに3方向から紫電改が襲い掛かるが、死角を消したドロームが魔導砲を放つ。よく見ると、お神輿頂上のデッキに搭乗員が出て来て、魔導ライフルまで放っている。


「いかん! そこの紫電改、離れろ!」


 鎌田が無線電話機のマイクを掴んで叫んだが一瞬遅かった。ドロームの放った魔導砲の1発が紫電改の正面に命中してプロペラを吹き飛ばし、それを見て回避しようとした別の紫電改の垂直尾翼と水平安定板が粉砕された。2機ともまっしぐらに海面に墜ちて行く。もう1機は何とか離脱したようだ。


「くそッ! あいつら考えたな」


 部下が堕とされた怒りで毒づいた鎌田は自機の左右に紫電改が並んでいるのに気づいた。見ると鎌田小隊の2番機五十嵐亮太少尉と3番機の岩井淳弥飛行兵曹長だった。鎌田はハンドサインで「ついてこい」と合図を送ると円陣を組んだドロームの直上に移動し、一気に操縦桿を押して急降下を始めた。2、3番機も鎌田に続く。


 空気を裂く音を立てながら降下してくる紫電改に気付いたドロームの搭乗員がライフルを構えて撃つがそんなものでは紫電改の突進は止められない。


「仲間の仇だ!」


 鎌田は両翼の機銃を撃ちながらドロームの下方に抜けた。振り返ると2、3番機も追従してくる。20mmに打ち抜かれたのか、3機のドロームが黒煙を吐き出してよろめきながら墜落し始めていた。円陣が崩れたのを見た別の紫電改が残ったドロームに接近すると、魔導砲を避けるため左右に機体を振りながら攻撃をかけ、さらに1機を撃墜した。


 周囲の空域にドロームがいなくなったことを確認した鎌田は無線電話機のマイクを取って集まるように命じると、間もなく4中隊の紫電改が集まってきた。数えると7機。中隊は9機だったので2機墜とされたことになる。


(くそ、円陣に不用意に近づいた奴等か。落下傘がひとつ開いたのは見えたが…)


 撃墜された機の位置を確認していると、五十嵐少尉が呼びかけて来た。


「大尉、お神輿が10機ほど艦隊の方に抜けました。追いますか?」

「当然だ。1機残らず撃墜するぞ。続け!」

「ハッ!」


 自隊の3倍以上の敵を撃破した第4中隊7機の紫電改は、残った敵を追撃するため、進路を南西に向けた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 彗星爆撃隊を率いる鮎貝英雄大尉はヴァナヘイム帝国別動隊を攻撃するため、進路を北東に取って高度4千mを巡航速度426km/hで飛行していた。


「間もなく彩雲から報告のあった位置近くだ。全機付いてきているか」

「ハッ。彗星全機、紫電改3機、当機に追従しています」


 後席の松永幹夫一等飛行兵曹が答える。鮎貝大尉は頷くと敵を捜索しながら彗星を操った。


 艦上爆撃機彗星十二型。戦争後期に能力不足となった九九式艦上爆撃機の後継として作られた機で、特徴はドイツのダイムラー・ベンツから購入したDB601Aをライセンス生産した液冷式発動機「アツタ」を主機としている事だ。彗星十二型はアツタ三二型1,400馬力を搭載して580km/hという爆撃機らしからぬ高速性能を保持している。胴体に250kgまたは500kg爆弾1発、翼下に30~60kg爆弾を2発搭載でき、今回の出撃では対艦攻撃用の500kg徹甲爆弾1発を胴体内の爆弾倉に収容している。


(アツタは扱いが難しい生娘みたいな発動機だが、この世界の豊富な金属資源と良質な油のお陰で、機嫌が良くなっている。これなら本来の性能も十分発揮可能だ)


「大尉、方位312に敵艦隊!」


 松永がヴァナヘイムの別動隊を発見して報告を上げた。前部艦橋を持ち、中央から後部を飛行甲板とした空母を真ん中に置いて、その前後左右を巡航艦が囲んでいる。見たところ直掩機は居ないようだが…。


「松永、直掩機は見えないか?」

「………。いました。艦隊の前方にお神輿3機。上昇してこちらに向かってきます」


 鮎貝が見ると、向かって来るお神輿に紫電改が翼を翻して向かっていくところだった。


「お神輿は紫電改に任せるぞ。爆撃隊、ついてこい!」


 鮎貝の操縦する彗星は舵を左に切って大きく旋回し、敵艦隊進路後方に編隊を導いた。艦隊に近づくと魔導砲による対空砲火が打ち上って来て、編隊の周囲で爆発する。爆発の危害半径は大きそうだが、連続して来るのではなく、ある程度間隔を開けながらなので、花火の中を飛んでるようだと鮎貝は感じていた。


「アメ艦の両用砲や40mm対空機関砲に比べりゃ大したことないな。アイツ等は早打ち太鼓のように砲弾をぶち上げて来るし、近接信管とやらで側を掠っただけで爆発させてくるからな。それに比べりゃカワイイもんだ」


「大尉、空母上空です!」

「よーし…。全機突入するぞ。続けぇーッ!!」


 鮎貝大尉の彗星は機体を翻すと、真っ逆さまに敵空母目掛けて突入していった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ヴァナヘイム帝国艦隊の別動隊で、ドローム母艦アルヴァク級4番艦ヒルディスの護衛を命じられた最新鋭巡航艦ヴェクネター級5番艦バロールの艦長、キニーリ大佐は異世界の艦隊から飛行してきたと思われる飛行機械の大胆な動きに目を見張っていた。


「なんだ、あいつらは…。対空砲が怖くないのか。真っ直ぐに艦隊上空に進んでくるぞ」

「艦長、直掩のドロームが全機撃墜されました!」

「なんだと!?」


 キニーリ大佐が双眼鏡を覗くと、味方のドロームが全機、敵の飛行機械に手も無く捻られて黒煙を噴きながら墜落していくところだった。


「ロランド大陸で無敵を誇ったドロームがいとも容易く墜とされるとは。信じられん…」

「艦長!」

「今度はなんだ!」

「フレイヤ様のフィンヴァラー隊、通信途絶との事です!」

「フィンヴァラーが!? フレイヤ様はどうなった!?」

「不明です」


「くそっ…。とにかく全砲門開け! 上空の敵機を墜とせ!!」


 しかし、キニーリ大佐の激も空しく異世界の飛行機械は巡航艦4隻の対空砲火を易々と突破し、機体を翻して垂直に近い角度で急降下し始めた。


「やつら、一体何のつもりだ?」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「目標敵空母! 突入!!」


 鮎貝大尉の彗星は爆弾倉を開くと敵空母目掛けて突入した。急降下に伴う物凄いGが体にかかり、ともすれば体が浮きそうになるが、操縦桿をしっかり握ってGに耐える。


「高度〇八(800m)…〇七…〇六! てぇーッ!!」


 高度600mで鮎貝は爆弾を切り離し、操縦桿を目いっぱい手前に引いて水平飛行に移り、敵空母を躱して海面上を滑るように飛んで離脱を図る。松永が2番機、3番機と続くのを報告してくる。敵巡航艦が魔導砲を放ってくるが、追い撃ちなんてそうそう当たるものでは無い。ある程度距離を取ったところで上昇して敵空母の様子を見ると、飛行甲板の何か所かに大きな破孔が出来、そこから炎を噴き上げている所だった。鮎貝が見続けていると突然、後部飛行甲板付近が大爆発を起こして吹き飛び、そこから海水が侵入しているのか徐々に沈み始めた。


「よし!」


 思わず腕を振った鮎貝大尉が集まった彗星を確認すると1機足りない。


「千葉機がいないな。どうした、墜とされたのか?」

「いいえ…。爆弾投下後、引き起こしが遅れて敵艦に激突しました…」


「…………。松永、旗艦に打電。別動隊空母ニ爆弾3発命中1機突入。被害甚大、撃沈確実。巡航艦4隻健在。再攻撃ノ必要ヲ認ム。以上だ」

「了解、艦隊に打電します」

「戻ったら爆装して再出撃するぞ。残った巡航艦を沈めなくてはならん」

「了解!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 彗星艦爆が急降下してドローム母艦を攻撃する様を、巡航艦バローム艦長のキニーリ大佐は茫然として見ていた。ドロームやフィンヴァラーでは到底不可能な急角度での突入も度肝を抜かれたが、彗星が投下した兵器の威力もまた凄まじいものだった。何発かは外れて水柱を上げただけだったが、命中した兵器は飛行甲板を貫いて内部で爆発した。さらに、操縦を誤ったのか1機がそのまま艦橋の基部に激突して爆発。その機が放った爆弾も飛行甲板後部に命中した。

 さらに悪いことに、飛行甲板後部に命中した爆弾は魔導推進機関の魔鉱石ジェネレーターを破壊し、行き場のなくなったマナが大爆発を起こしてしまったのだ。ヒルディスは海面に落下して全艦を激しく震わせ、破壊された箇所から流入する海水によって後部から沈み始めた。



 そのヒルディスの艦橋では艦長フーリン大佐が艦を諦め、総員退去を命じている。徐々に角度を増して斜めになる艦橋の中で、操舵輪にしがみついているフーリン艦長は「一体なぜ」という思いで艦から逃げ出す兵士たちを見ていた。


(何故だ。この艦は最新の魔導障壁を装備、展開していた。魔導弾の攻撃はマナの相殺効果で無効化できるはずではなかったのか。それとも、彼らの兵器はマナとは全く無関係だというのか。たった数発でヒルディスを破壊するとは信じられん。魔導戦艦並みの攻撃力をあの飛行機械はもっているというのか)


(それより、司令部は何故あのような飛行機械があるとは教えてくれなかったのだ。俺達は司令部の生贄ではないぞ。くそっ、ガティスの裏切り者め!)


「艦長、脱出してください! 艦長ォーッ!!」

「俺はいい。君は早く逃げろ!」


 副長がフーリンを脱出させるため声を掛けたが、フーリンはそれを拒んだ。次の瞬間、バキバキバキと竜骨が折れる不気味な音がして、艦体が分断されたヒルディスは、周囲に飛び込んだ兵を巻き込みながら急速に海中に飲まれていく。さらに支えを失った艦橋自体が自重で崩壊し始めた。破壊された鉄骨で圧し潰される寸前、フーリンの脳裏に愛する妻と娘の顔が浮かんだ。

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