貴族令嬢・黒い安息日の追放~仮面の王子は筆者を粛正する~
「貴族令嬢・黒い安息日、お前を学園から追放する」
生徒会長のキャスバールは告げた。彼は王子である身分を隠すため仮面をかぶっているが、余計に目立ってバレバレである。そもそも生徒会長に同じ生徒である黒い安息日を追放する権限はあるのか。
「おかしいですよ!キャスバールさん!」
食い気味に言い返す貴族令嬢・黒い安息日。
「お前は毎日恋愛をテーマにした短編を書くつもりだったが、六日目にしてエタり安易なパロディに逃げようとしている、だから追放すると宣言した」
「しょうがないだろ!それは!」
PVや評価の低さはまだしも、そもそもろくな恋愛経験のない黒い安息日が、そんなものを書こうとすればこうもなろう。それでも苦手だった恋愛系の作品も、今は楽しく書けるし読める。ふははは、怖かろう。
「読者の皆さんはお前と違って家庭も友人もお持ちなのだ、なろうだけをやっているわけにはいかん!それでも読んでくれたり評価してくれたりする人は、毎日投稿してる哀れなお前に対する同情で魂を縛られている人たちだ!」
「え、エッチな名作を書けばそんなもんだって乗り越えられる!」
「ならば、今すぐなろう民すべてにエッチな作品をさずけてみせろ!」
そもそもエッチな作品なんて書いたことが無い。ていうか書けない。それに書いたら書いたで別の問題がある。話の本筋がずれてきた。
黒い安息日は近年全く小説を読んでいない。ここ数年で読んだ文字の書物はサピエンス全史とたまに買う科学雑誌だけ、他は膨大な漫画とYouTubeを見るくらい。
むしろなろうで小説を読み始めたと言っていい。血の通った人間味あふれる作品群を目にし、感化されて自分で書き始めたほどだ。
楽しかった。自由気ままに好きなことを書くのが、こんなに楽しいとは知らなかった。初めてバイクに乗った時のように。自作の楽曲が人に褒められた時のように。友達と騒ぎながら旅行した時のように。
今の私には唯一の没頭できる趣味なのだ。ここで引き下がるわけにはいかない。
「歯を喰いしばりになって! そんな大人、修正してさしあげますわ!」
ビダンッ!
「(これが若さというものか……)」
殴られるキャスバール生徒会長。やはり暴力、暴力は全てを解決する。裁判所で争った私が言うのだから間違いない。もちろん冗談だ。しかしあの野郎、次は骨折で済まねえからな。逆に余罪がバレて実刑食らう姿は思い出すたび笑わせる。ざまぁ。
自己批判なのか、自分語りか。もはや混迷を極めたこの場を見かねたのか、ひとりの老人が現れた。彼はパウル・ラダビノッド学院長。普段は学長室から出てこないのでアナゴさんと渾名されている。
「えぇぇぃめぇぇぇん」 (AMEN)
神の教えを理念とする学園に相応しい狂信者である学長は、高らかな祈りとともに歩み寄る。怖い。コッテリとした独特の口調で、争う二人を叱りつけた。
「ぶるるるるあ!お前たち、間違ってるぞう」
ラ行の発音は巻き舌で、発語の度に鼻音のンを挟む独特の口調。
「いいかキャスバール、一つ言っておく。エタった作品はまた書けばいい、それだけだ。お前が思うほど、読者は黒い安息日の作品に期待していない。」
そうだ、そうだった!読者は黒い安息日を若くて綺麗で豪華なお城に住む貴族令嬢だという疑いようのない真実を確信しているが、作品に関しては気が向いた時にサッと目を通すだけだ。それでいい。それがいいのだ。
ついでにクスッと笑わせてやる!
期待も絶望も、自分が自分に課した呪いだ!
好きに守って好きにぶん投げてやる!
「それと黒い安息日、お前の作品は浅い知ったかウンチクばかりで中身がない上に読みにくい。まずは日本語からやり直せ。読みやすい文章と、ほとばしる妄想、二つが合わされば炎となる。炎となった創作は無敵だ。」
そうか、そうなんだ!私が求める作品は、内容より読みやすさ。どんなに名作と言われても、ギチギチに詰めた文章は読めない。ぶっちゃけ読みやすさの改善は重視してなかった。
これだ。開眼した!
……というわけで、これからは読みやすさを改善していこうと思いますた。おわり。サモエドが好き。
P.S.
最後にこういうことを書くのは
無粋の極みと知ってはいるが
恥知らずな私を許して欲しい……
本作の会話部分は、全て元ネタのあるパロディである




