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三枝高校十二支部 -Project Z-  作者: 水無月 龍那
1:13回目の箱庭
8/32

これからの心構え

「まず、今日の朗報。子津ちゃんが目を覚ました」

 巳山先輩が私を見て、そんな風に話を切り出した。

 全員の視線がこっちを向く。なんかクラス替えの自己紹介をする時みたいな気分になる。知らない人は居ないけど、なんか恥ずかしくて、目を伏せるようにぺこりと頭を下げてみた。

「名簿にあったメンバーは彼女が最後だ。晴れて、十二支部全員が揃ったことになる。と、言っていいはずだ」

「うん、良かったね、つぅちゃん」

 雪兎がにこにこと笑う。隣では叶夜ちゃんも頷いていた。

「彼女には俺から軽く説明はしといた。残してる部分もあるけど、そこは明日の予定」

 残り。

 それはきっとこのファイルを読んでから、ということなのだろう。

 中に一体何が書いてあるのか、それを読んで何が変わるのか。分からなくて、ちょっと怖くなってくる。

 いや、今は考えるのを止めとこう。先輩の話に集中だ集中。

「後でみんな連絡先交換しといてな。それから、食堂のあたりに犬が出た」

「珍しいな」

「珍しいよね」

 狗神先輩の反応に、巳山先輩も頷く。

「そういえば、あの犬、あのまま放ってきましたけど……大丈夫なんですか?」

 先輩が倒して、そのままにして来たはずだ。あそこは通り道だし、通る度にあれを見るのも怖い。それに、そのまま放っておくと色々大変そうな気がした。

「ああ、死体なら片付けられてるよ」

 私の心配を汲み取って、先輩は答えてくれた。

「この学校ね、そういうのを片付けてくれる機械が居るの」

 雪兎が横で補足してくれる。

「機械が」

「そう。お掃除ロボット。学校中を片付けて、掃除してくれる機械。だから。もうないと思うよ」

 そうなんだと頷くと、雪兎はそうなんだよと繰り返して頷いた。

「と、言うわけで、大丈夫だとは思うけど、しばらく警戒はしといて。俺からは以上。あとは、見回りしててなんかあった?」

「僕と未来ちゃんが見て回ったところは変わりなかったよ。セキュリティもいつも通り動いてたかな。狗神先輩達は?」

「1年棟の2階にある階段が崩れかけてた。3階行く時は気をつけろ」

「お。それどこ?」

「ここから一番近いやつだ」

「ふむふむ」

「あと、渡り廊下に出る非常階段のドアが立て付け悪くなってました」

 牛若君が狗神先輩の情報に言葉を足す。

「ああ……あそこかあ。蝶番錆びてたもんな」

「で、そこを狗神先輩が蹴り開けたら、ちょうど雪兎君と叶夜さんが居て」

「ああ。なるほどそれで。狗神お前さあ」

「うるせえよ」

 狗神先輩は、呆れたような巳山先輩の声から目を逸らして、叶夜ちゃんの方をちらっと見る。

 気付いたらしい叶夜ちゃんも、伺うように視線を返す。手はぎゅっと握りしめられてるし、表情は固い。その様子に狗神先輩はとても何か言いたげな目をして、そのまま逸らした。

 二人はやっぱりお互いを意識しているなあ、と再確認する。

 視線や一挙一動にすぐ気付く。そういうのは相手を気にかけてないとできないことだ。叶夜ちゃんは本気で怖がってるみたいだし、狗神先輩はそれが気に入らないみたいだし。

 とりあえず大変そうだなあ、なんて感想だけ置いとくことにした。

「校舎は壊れる一方だし、進展ねえな」

「もう探し尽くしてるしね」

 狗神先輩の言葉に巳山先輩が溜息をつく。

「ま、ため息ついて好転するわけでもないし、さっさと進めるが吉としよう。みんな報告ありがと。それじゃ、明日の活動方針の話」


 先輩はホワイトボードの前に立って、きゅきゅっと文字を書き込んでいく。

 午前、午後、放課後。

 少し斜めに崩れた先輩の文字がホワイトボードに並ぶ。


「子津ちゃんは初めてだから、少し説明。今日は土曜だから鳴らないけど、平日は普通にチャイムが鳴る。だから、こんな感じで時間を分けて活動してる」

「はい」

「朝一度ここに集まって、それから午前の活動。訓練してから動くことが多いかな」

「訓練?」

 馴染みのない単語だ。首を傾げると、巳山先輩は答えるように頷いた。

「そ、訓練。俺達はみんな武器を持ってる。護身とか気休めとか、その程度だけど、使ってないと腕は鈍るからね。使ったり手入れしたりする時間を設けることにしてるんだ」

「あ。先輩。つぅちゃんの武器はどうするの?」

 雪兎が隣ではいはいと質問を投げた。

「とりあえず明日選んでもらおうかなと思ってる。と、いうわけで子津ちゃん」

 雪兎に向けられていた視線がこっちを向いた。

「実際見てからが分かりやすいけど、一応どんなのがいいか考えといてな」

「はい……」

 そう言われてもよく分からない。困惑しているのが伝わってるのだろう。雪兎と叶夜ちゃんから「大丈夫」と安心させるような視線が注がれた。

「それから午後は自習とか調査とか見回りをして」

 今からはここ、と、放課後の文字をマーカーでこつこつ叩く。

「午後の情報持ち寄ってミーティングしたり、部室で過ごす時間。夜もあるけど今はいいや。今日は目を覚ましたばっかりだし、明日からよろしく」

「あ……はい」


 私は何をすればいいか分からないけど、部員なのだからきっと何かあるのだろう。なければお茶汲みとか部屋の掃除でもするといいのかな、と考えていると、雪兎がこっちを見ているのに気付いた。

「ん?」

 視線が合うと、あのね、と彼は声のボリュームを落として言う。

「わからないことがあったら僕、教えるから聞いてね」

「う、うん」

「わたしも、少しなら」

 と、隣で叶夜ちゃんも声をかけてくれる。

 ああ。幼なじみと後輩が実に心強い。不安は山積みにも見えるけど、二人があまりにいつも通りだから、少しだけホッとできる。


「それから」

 巳山先輩はその一言で私の意識を引っ張る。

「やること自体はそんなにないんだけど。見ての通り、俺達の活動は土日もある。現状、休日なんてものはないと思って欲しい」

 確かに。今日も説明と同じスケジュールで動いているみたいだった。きっと明日もそうなのだろう。

「最近平和だから気を抜きそうだけど念のため、ね」

 と、言うわけで。と先輩はホワイトボードに向かい合う。

「明日の割り振りなんだけど」

 んー。と少し考えてきゅきゅっと名前を書き込んでいく。


「子津ちゃん本調子じゃないだろうし、身体動かし終わったら部室待機をお願いしよう。一緒にいるのは――叶ちゃんでどう?」

「はい」

 叶夜ちゃんが頷くと、ホワイトボードに「子津・叶夜」と書き込まれた。それを確認した叶夜ちゃんは、私に向けて「よろしくお願いします」とほわっと笑った。

 その笑顔がなんだか胸にきゅっときて、頬が緩む。

「うん、よろしくね」

「それから。峰くんは……俺と見回ろうか」

「はーい」

 きゅきゅっと名前。「巳山・峰越」

 それから最後に「牛若・狗神」と書き足して、くるりと振り向く。

「と、言うわけで若くんは狗神と。これでいいか」

「はい」

「ん」

 頷く二人を見た巳山先輩はうんうんと頷き、マーカーのキャップをきゅっと閉めた。

「それじゃ、今日は以上。明日もよろしく」

叶夜未来:1年生。人見知りでちょっと怖がり。

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