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三枝高校十二支部 -Project Z-  作者: 水無月 龍那
5:真相への一歩
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記憶と猫と隠し事

 夕食を終え。保健室に先輩二人を残して私達は部屋に戻ることになった。

 雪兎や叶夜ちゃんとも寮の前で別れて、私は自分の部屋にひとり。


「はああぁぁあーー……」


 ベッドに倒れ込んで盛大なため息をついた。

 私はまだ目を覚まして数日だけど、もう嫌だ、と思った。

 まだ、夢だったらいいのにって思っている。


 もう何年も経っていて。

 何度も死んでいて。記憶もなくなってて。

 動物の因子というものが埋め込まれていて。

 知らない部活に所属していて。もう半分以上が死んでいて。

 さらに裏切り者がいる。

 

 信じられる訳がない。

 私はただの女子高生だ。魔法が使える訳でも、推理力がある訳でもない。

 なんの力もない。あっても分からないし、使いたくない。


 壁まで転がって、埋まるように身を寄せる。

 なんだか落ち着く気がして息をつくと、肩の力が抜けたような気がした。

 天井を見上げる。蛍光灯に手のひらをかざしてみる。普通の手だ。うっすら透ける皮膚が赤い。

 普通だ。これまでと何も変わらない。


「全員を……疑ってて……」


 先輩のあの言葉がずっと残っている。

 巳山先輩はさらっと言ったけど。すごく難しい。だって、みんな普通に見えた。この中に、人を殺して平然としてるような人が居るなんて思いたくない。

 違うなと思うところはいくつかある。でもこれは、記憶がないからそうなっただけかもしれないし、動物の因子による変化かもしれない。そのどれが猫に繋がるかなんて分からない。

 先輩にも答えたけど、この人が猫だと思う、なんて言い切ることはできなかった。

 もしかしたら、猫としての影響が表に出ている人がいるかもしれない。雪兎も「違和感を大事にすると良い」って言ってた。

 ううん、わかりたくないなあ。とため息。


「でも。こうやって泣き言いっても……変わらないんだよね」


 私はまだ数日だけど、他のみんなはもっと長い期間この状況に居るんだ。

 考えなきゃいけない。きちんと見ないと。


「でも……うぅ……」


 気が滅入ってきた。

 普段なら誰かにメールとかするんだけど、いつもの友達は居ない。連絡帳も最近登録しなおした人しか居ない。

 叶夜ちゃんか雪兎なら送ってもいいだろうか。


「……」


 叶夜ちゃんは昨日たくさん話を聞いてもらったし、雪兎かな、と。メッセージアプリを開く。

 これまで交わしたはずの会話も残っていない。新しく連絡先から作成して、ぽちぽちと入力。送信する。


[起きてる?>


 しゅ、っとよく聞いた音と共にメッセージが送られた。


<どうしたの?]


 ぽこ、と返信がすぐにきた。首を傾げたかわいいスタンプもついてくる。


[なんとなく、今暇かなって>


 送ってみたものの、特に話題がないなと気付く。


[ごめん。特に用事はないんだけど>


 バンザイした、かわいいウサギのスタンプが返ってきた。


<こんな状況だもんね]

<不安なのしかたないよ]


 文字だけ見ていると、いつも通りの会話のようで少し安心する。安心するけど、話題が続かない。昨日見たテレビとかもないし。今日あったことといえば、図書室の話とか先輩が倒れたことくら――。


<そうだ。つぅちゃん、先輩と楽しいお話しできた?]


「!?」


 突然振られた話題に喉がグッと詰まった。

 話はできた。うん。した。

 でも、それは楽しい話だったかと言われると……そうでもなかった。


[まあ、ちょっとはね……>

[思い出話を少ししたくらいだけど>

<思い出話]

<そっか。つぅちゃんは記憶結構あるもんね]


 うん、と返事をして。考える。


[雪兎はどのくらいあるの?>

<目が覚めて、1ヶ月遡ってる、って思ったから]

<1年の体育祭は覚えてるけど、その辺くらいかな]


 そっか。と考える。

 私と同じくらい記憶があれば、違和感とかも気付けるのだろうか。


[うーん。私くらい記憶ある人とか居ないのかな?>


 そんなぼやきには「いないねえ」と言いたげな苦笑いのスタンプが返ってきた。


<多分、つぅちゃんの次に記憶があるのって未来ちゃんだし]


 それより前だとみんな猫の宣言より前かなあ、と言われた。


[そっかぁ……>


 叶夜ちゃんは、狗神先輩との出会いを覚えていなかった。

 危険察知はできる方だと言ってたけど、そういう話は聞いたことがなかった。

 というか、叶夜ちゃんにとって部員はみんな知らない人だった。探りたくても分からないだろう。

 だから私なんだろうけど。


[先輩は、私にどうして欲しいのかな……>


 思ったことを、そのまま送りつける。返事を待たずに打ち込んでは送る。


[全員を疑ってて、って>

[違和感があったら教えて、って>

[先輩はそう言ったけど。本当に>


 先を打ち込む指が止まった。

 信じたくない。このままでいたい。

 でも、それはきっと、自分達が死んでしまう選択だ。


[本当に、猫は、居るのかな……?>


<いるよ]


 返ってきた答えは簡潔だった。

 あまりにシンプルで力強い3文字に、私の手が止まった。

 その間にも、雪兎からの返信がぽこぽこと届く。


<だって、みんな死んじゃったもん]

<巻き込まれたり、暴走しちゃったり]

<因子のせいで死んじゃった人もいたけど、殺されたんだって分かる人もいた]

<だから、猫は居なくちゃいけない。探さなくちゃいけない]


 それから少しだけ入力中の文字がちらついて。


<そうしないと、この箱庭は終わらない。]


 それはまるで、雪兎の決意のように見えた。


 そっか。

 いつもにこにこしてて、優しい雪兎がここまではっきり言い切るような事態なんだ。今更だけど、この状況が切羽詰ってることを再確認する。

 それなら私も、考えなくちゃいけないんだ。

 考えなくちゃいけないけど、この数日で分かったことなんてほとんどない。

 正直なところ、部内で一番役に立ってない自信がある。


[考えてみようと思ったんだけどさ>

[私、何も分からないよ……>


 しょんぼりしたスタンプをくっつける。


[資料だって何が何だかだし、みんないつも通りに見えるし>

<そうだね]


 これで何か解決できる気がしない。

 わかんない、とゴロゴロして、その勢いでメッセージを送る。


[雪兎は、誰だと思う?>

<そうだなあ。分かんないけど]

<巳山先輩は、何か隠してるなって思ってる]


「え」


 ドキッとした。頭がひやっとして、唾を飲む音が耳に響いた。


 巳山先輩が何かを隠している。それはなんだかショックだった。

 先輩は分かったことは全部話してくれるんじゃないかと思ってた。

 だって、猫を探してるから。

 この状況を終わらせたがってたから。

 でも、部長だからこそ、言えないこととかも……あるのかな。


 雪兎は一体何に気付いたんだろう。


[隠してるって、何を?>


 聞いてみると、具体的にはわからないと返ってきた。


<でも、なんか焦ってるっていうか。急いでるっていうか。そんな感じ]

<倒れちゃったのも、それで無理したんだと思う]


 その言葉に、少しほっとした。

 先輩は、やっぱりこの状況の解決に動いているんだ。責任感のある立場は向いてないと言うけど、実際その立場になったら蔑ろにできるような人じゃない。

 私は同じ委員会として、後輩として。そんな先輩を見てきたんだ。

 信じたかった先輩の姿を肯定された気がして。指先の冷えが少し緩んだ瞬間。


 でも、と小さな吹き出しが出てきた。


<先輩は、危ないかも]

[どういうこと?>

<見たら分かるやつだから、言う必要がないだけかもしれないけど]


 続きには少しだけ間があった。入力中を示すアイコンがぴこぴこと動いている。その割に、文章は短かった。


<こないだ見ちゃったんだ。こめかみの所に鱗があるの]

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