表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/48

遺された挑戦状

 日課を終えて、狗神と二人でパソコン室にきた。

 

 パソコン室は、昨日と変わらず誰もいない。

 静かに並ぶ液晶ディスプレイは俺達に馴染みのある形をしている。

 職員室の設備を思い出す。きっとそっちの方今のデフォルトなのだろう。明らかに差がある。

 この学校は、生徒に何を隠そうとしていたんだろう。そんなことを考える。


 調べるのは一カ所だ。真っ直ぐ準備室に入って、突き当たりの本棚に向き合う。

 メタルラックに詰まった本を取り出し、その後ろにあったドアをなんとか開けると、その先は生徒会室の倉庫に繋がってるようだった。

 念のため狗神に生徒会室から入ってもらう。間違いない。

 結論としては、収穫なし。


 どかした物を元に戻していると、狗神が戻ってきた。

「放っといても良いんじゃねえの?」

「そうかもだけどね」

 なんとなくさ、と片付ける。

 狗神はその間、手持ち無沙汰だったのか、周りのロッカーを開けて回って。

 いくつか開けたロッカーで、狗神の動きが止まった。

「ん? 何かあった?」

「いや」

 そう言いながら少し分厚い本を取り出す。他の本棚に残っていた技術書と変わらない。

 ぱらぱらと見て。戻して。その下にあったノートを引っ張り出すと。


 きん、と小さな音を立てて何かが落ちてきた。


 足元に落ちたそれを2人で見下ろす。

「鍵だな」

「鍵だね」

 拾い上げる。小さな鍵だ。このロッカーの鍵だろうか。いや、ロッカーの鍵をその中に入れてしまっては意味がない。

 じゃあ、この鍵はどうしてこんなところに入っているのだろう?


 首を傾げている間に、狗神は取り出したノートを捲って、挟まれていた紙切れを取り出した。

 ノートに挟まれていたから、汚れはない。色褪せたりもしてない。ただ、インクは多少滲んでいるらしい、紙の裏に紫色の染みが見えた。

 中に何かが書かれているのだろう。狗神が片手で器用に開いて、眉間にシワを寄せた。

「……百瀬」

「うん?」

 ぴら、と俺の目の前にそのメモをかざす。

「お前宛だ」

「は?」

 読め、と言わんばかりにメモが揺れる。



  部長へ

  君もこの情報に触れる覚悟をするべきだと思うので、遺しておく



 そんな宛て書きと寮の部屋番号が、さらさらと流れるようで、止めだけがハッキリとした字で書かれていた。

「――」

 この字には、見覚えがある。

 メモを狗神の手から抜き取って、ロッカーと見比べる。

 ロッカーに記名はないから比較はできないけど、間違いない。

「楠木の字だ」

 寮の部屋番号も彼のものだ。間違いないだろう。

「楠木か、なんでこんなとこに残してんだ」

「分かんないけど。これ、寮の部屋に何か残してある、ってこと?」

「だろうな」

 意識をメモに戻す。文面はもう少し続いていた。



  全ては、蛇が水を得たから。

  それが、間違いの始まりだ。



「…………」

 ぐしゃ、と音がした。

「百瀬」

「……あ。ああ。ごめんごめん」

 あははと笑って、思わず握り潰したメモを広げる。

「蛇だからか」

「まあ、そんなとこ」

「水ってなんだ?」

「さあ。何かの例えかな」

 狗神の質問は直球だったけど、それがあまり気負わなくていい距離感で、返事も同じくらいの軽さでできた。

 そうか、という呟きと同時に、ひょいと俺の手からシワになったメモが取り上げられた。代わりに鍵がねじ込まれる。メモは狗神の手でそれは畳まれ、胸ポケットにしまわれた。

「こっちは預かっとく。あんま気に病むな」

 次行くぞ、と狗神はさっさと歩いていく。

 うん、となんとか頷いた声は、自分でも分かるくらい小さかった。


 □ ■ □


 俺と狗神はそのまま他の部屋の鍵を見て回る。

 校長室は、物理タイプの鍵。

 図書室は、マスターキーと図書委員の学生証。

 そんな感じだ。これなら二手に分かれても大丈夫だろう。

 なんて話しながら、部室へと戻ってきた。


「ただいま」

「おかえりなさい」

 戻ると子津ちゃんが、ぱっと顔を上げて返事をしてくれた。

 峰君もちょっと眠そうな目だけど、パソコンから顔を上げて「おかえりー」と声を重ねる。

「叶ちゃんは?」

「休憩にしようかって、お茶を入れてくれてます」

「そうか。じゃあ、戻ってきたら軽く報告しようか」

 そう言う後ろから狗神が入ってきて、給湯室に歩いて行った。

「あ。狗神。俺のお茶頼んでいい?」

「ん」

 適当な返事と共に狗神は奥へ姿を消す――と思いきや、少し手前で足を止めた。

「叶夜」

「はいっ」

 奥から小さな返事。狗神はそれ以上近づかずに声を投げる。

「ポットの中、残ってるか?」

「は、はい……っ。あの、お茶、淹れますか?」

「いや、あるならいい」

 そんなやりとりを終え、こっちに戻る――と思いきや、狗神は給湯室の入り口に顔を突っ込んだ。

 そこで何か一言二言交わし、今度こそ戻ってきて、ぼすん、と雑にソファへと沈む。目を閉じてため息。眉間にシワが寄っている。

「百瀬」

「何?」

「やっぱりお前が淹れろ」

「はいはい」


 □ ■ □


 お茶が揃ったところで、軽く情報共有をした。

 残った部屋の鍵も開いたこと。午後は手分けして部屋を調査できそうだと言うこと。

 誰がどこに行くかも朝決めた通りだけど。

 俺は若くんの私物回収や仮眠も兼ねて、部室に残ることにした。


 パソコン室は特に何も見つからなかった、と話した。

 あのメモが俺宛だったと言うのもあるけど。

 なんか、言う気になれなかった。


 その後は、後輩達が見つけた情報の詳細を聞き。昼食を食べ。ささやかな昼休みを過ごす。

 子津ちゃんは叶ちゃんと話をしていて。

 峰くんはそんな二人に相槌をうって。

 狗神はソファで携帯をいじって。

 俺は温かい飲み物を片手に、ため息を飲み込む。


 あのメモは一体何なのか。

 どうして楠木はあんなところに言葉を遺したのか。

 その答えはきっと、示された場所にあるのだろう。

 嫌な予感しかしない。


 昼休みもそうやってぼんやりしているうちに終わった。

 女子二人は図書室へ。

 男子二人は校長室へ。

 いってらしゃいと見送って、一人きりになった部室。


 向き合うのは、一台のノートパソコン。

 蓋を撫でる。滑らかな感触が指先に冷たい。

「――ん」

 これは、持っていった方がいいような気がした。

 だってパソコン部部長からの挑戦状だ。きっとこいつは役に立つ。

 端まで指を滑らせて、持ち上げる。


「覚悟を決めろ、か」

 一体何があるんだよ、とパソコンを抱えてぼやく。


 俺はこの箱庭の真実と終わりを求めている。

 どうして俺達は集められたのか。

 どうして何度も死んで。今こうして生き残ってるのか。

 猫の目的はなんなのか。

 きっと、部員達もそうだ。

 そして俺は部長なんだから。

 その理由が、理由につながる一手が、手に入るなら。


「少しは頑張らないとなあ……」

 よしいくか。と気合とパソコンを持ち直し。部室を後にした。

なんとなく、筆跡は全員分設定があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ