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職員室に行こう

「午後は職員室を探索するつもりなんだけど」

 昼食を食べ終えた巳山先輩は、そんな言葉で午後の話を始めた。

「入口の解錠は確認できた。セキュリティ系もそんなに手強くない」

「足元さえ気を付ければ、か?」

 狗神先輩の言葉に巳山先輩はあははと苦笑いする。

「うん。多分あれ以上はないはず。中は分かんないけど。あとは、ざっと見た感じ、室内には監視用っぽいカメラが数台あったけど、厳重なのは入口だけだと思う」

「入口のはいつも通り切っとくか」

「うん、頼んだ」

 ん、と狗神先輩は小さく返してため息をついた。

「こういう時他の奴が残ってれば楽なのにな……」

 巳山先輩も「そうだな」と相槌を打ちつつも、それ以上広げることはせずに話を続ける。

「あとは手分けして使えそうなものを探す、って感じで」

「職員室って色々ありそうだなあ……。ねえねえ先輩、どんなのを探す?」

「んー。職員室だから重要なものがいくつかあるとは思うんだよね。とりあえず鍵系と、他の部屋に関する情報、あとはこの学校について分かるものがあると嬉しいな」

「うんうん、なるほど」

 わかった。という雪兎の返事に、巳山先輩も頷いた。

「ん。それじゃあ、そろそろ行こうか」


 □ ■ □


 職員室がある棟に繋がる廊下は、ガラスの自動ドアで仕切られていた。

 昨日は学生証がなくて入れなかった廊下は、記憶にある通り日当たりが悪くて薄暗い。教室より壊れてないし壁も綺麗なのに、劣化した掲示物と埃っぽい床に廃墟感が増す。

「そこ、足元気をつけてな」

 廊下を曲がってすぐの所に、20センチくらいの溝があった。蓋が壊れて内側に落ちている。これが先輩が言ってた罠なのかな。覗き込むと、思ったよりも深い。スネ辺りまでなら余裕で入りそうだ。

 狗神先輩がその溝を一歩で超えていき、みんなで後に続く。


 職員室に着くと、巳山先輩がカードリーダーに自分の学生証を当てる。

 ぴっ、と小さな音がして、緑のランプが点滅する。

 さらに一枚。もう一枚。

 薄暗い廊下に単調な電子音が響くこと、7枚分。

「じゃ、あとはそれぞれの学生証をよろしく」

 そう言って先輩はカードリーダーの前から一歩ずれる。

 まずは狗神先輩。牛若くん。叶夜ちゃん。雪兎。それから私。

 12枚読み込んだらランプの点灯が止まって、鍵が開いた。


 電灯の白い灯りに照らされた職員室は、規則正しく並んだ灰色の机に教科書や書類が詰め込まれるように並んでいる――ような場所じゃなかった。 

 窓はシャッターとカーテンで閉ざされているけど、全体的に明るい。窓のない廊下と違って開放感がある。

 右手に本棚と小部屋に繋がるドア。確かこのドアの向こうは先生達のロッカールームだ。間取りは記憶にとても近い、と思う。

 白い机はきれいに並んでて、机の上に書類や棚はあんまりない。新しい机を運び込んだばかりですよ、と言われたらそうだなって思うくらい何もない。


「何もないね」

 雪兎がそう言いながら室内を見回している。私も中へ入ると、狗神先輩が右の小部屋から戻ってきた。

「センサー切れた?」

 巳山先輩の質問に「ああ」と短く答えた先輩は、室内に視線を向けて「何もねえな」とため息をついた。

 その言葉にあるのは、ここからどうやって手がかりを探すんだろう。ということだろう。それくらい、ぱっと見て何もないように見えた。

 何度か入ったことのある職員室は、もっと物が多かった。それはそれで探すのは大変だと思うけど、こんなに何もないと……。

「……?」

 何度か入ったことのある職員室――?


 なんか引っ掛かった。

 職員室には何度か行ったことがある。教科の係はしてなかったからそんなに回数はないけど。先生に質問したりとか、鍵を取りに行ったりとか。用事がない訳じゃない。だから中がどうなってるかはある程度分かってるつもりだった。

 けど。

 雪兎と狗神先輩は何もないと言った。

 叶夜ちゃんと巳山先輩は普通にしているけど、それはきっと昨日も室内を見ているからだろう。

 でも。

 雪兎は言っていた。


 雪兎が目を覚ましたのは1年半くらい前。

 狗神先輩は雪兎と同じくらい。

 叶夜ちゃんは半年くらい前。

 猫が宣言をしたのが……ええと、いつだっけ。

 考えたけど思い出せなかった。

 でも。

 こうなる前の学校生活は経験しているはずじゃない?


「……あの。先輩達は職員室入ったことなかったんですか?」

 私の疑問に視線を向けたのは巳山先輩だった。

「ここはずっと開かなかったからなあ」

「いえ、そうじゃなくて……なんというか」

 うん? と赤茶色の視線が私の方を見た。首が傾く。

「私はこの状況になってから目を覚ましましたけど。猫が行動を起こす前も職員室に入れなかったのかな。って」

 ああ。と先輩は私の質問の意図を汲んでくれた。

「そうだね。入ったことはなかったな」

 言われてみればそうだった、と先輩は言う。

「俺達は目が覚めてから職員室には入ってない。基本的にあの自動ドアの所で先生を呼んでもらってたし、保健室の鍵とかも委員の学生証に権限付与してもらってたから……行く用事がなかったんだよね」

「雪兎も?」

「うん? そうだね」

 僕もないよ、と頷いた雪兎は手近な机を覗き込む。

「それにしてもこれ、どうやって探すんだろう」

 へりを撫でて、椅子をどかし、引き出しを開ける。

「引き出しもからっぽだし――あ」

 そんな声と同時にウイーンと小さな音がして、四角い板のようなものが机の端から生えた。ぱっと明るく光って、何かのロゴが映し出される。

「ディスプレイだ」

「なるほど。机の上に物がないなって思ったけど……パソコンが机と一体になってるのか。今の技術だとこれで十分ってことなのかもな」


 みんなで手分けをしながら情報を拾い集める。

 本棚に残っているのは教科書がほとんどだった。

 校内の鍵が入っているボックスには、普通の鍵とカードキーが保管されていた。

「お。これで他の部屋にも入れるかな」

「試してみないとだね」

 まずはどこから行こうか、なんて話しながら探索は続く。


 情報はやっぱりパソコンの中の方が多いみたいで、先輩が持ってきたUSBに必要そうなデータを保存していく。

「ホントこれ、どのくらい経ってんだ」

 狗神先輩がぽつりと呟くと、後ろからひょこっと巳山先輩が覗き込む。

「まあ、確かにこの職員室(へや)見てると気になるよな。俺達の持ち物より技術がだいぶ進んでるみたいだし」


 そう言われるとそうだ。

 この部屋にあるパソコンは私が知っているものと随分違う。

 タブレットを仕事に使う、という話も聞いたことはあるけど。目の前にあるこれは、電源が切れてるとただのガラス板に見える。

 机に埋め込まれたマウスパッドのような板を人差し指でくるくるなぞれば、ディスプレイの小さなポインターが同じように動く。試しにディスプレイを触ってみても同じだ。指先にくっつくようにポインターがついてくる。機械に詳しくない私でも、新しい技術が使われてるんだと分かる。

 割と新しいものが置いてある学校だったとは思うけど、こういうのは見たことがない。

 本当に何十年も経っているんだという現実を補強する。

 他の開かない部屋もそうなのだろうか。もしかしたら、生徒に対してはその辺を気付かせないようにしてるとか。学校内の設備にそういうのを使う部分がなかったという可能性もあるけど。

 ここから先の部屋にも、何かそういうのがあるのかなあ。そこに、一体何があるんだろうな。

 私達はそれを知って、どうなるんだろう。ここを出て、どうするんだろう。

 ポケットの携帯とディスプレイを見比べていると、先に進むのが少し怖くなりそうだった。

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