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三枝高校十二支部 -Project Z-  作者: 水無月 龍那
2:十二支部の活動
17/32

新しく拓けた道

 ご飯を買って部室に戻ると、先輩達が話をしていた。

「ただいまでーす」

「戻りました」

 元気に入っていく雪兎とのんびりペースな牛若君に続いて部屋に入る。

 先輩達はとっくに食べ終わったらしく、狗神先輩の前にはパンの空袋が結んでまとめてあって。巳山先輩は紙パックのお茶を飲んでいた。

 おかえり、という先輩の言葉にぺこりと頭を下げて席に着く。


「で。百瀬」

「ん?」

 狗神先輩の方に顔を向けた巳山先輩は、言いたいことを汲み取ったらしく「まあ落ち着こうよ」と笑った。

「言いたいことは分かるし、落ち着いてられないんだろうってのも分かるけどさ。後輩達の昼飯くらい待ってやってもいいんじゃない?」

「……」

 狗神先輩がむっと口を結んで、はいはいと言いたげに溜息をついた。

「食い終わったら話すからな」

「おぉ。珍しく釘刺してくるじゃん?」

「お前はよく「これが終わるまで」を繰り返して結局後回しにするからな」

「あはは……そんなこともあるある」

 軽く笑って紙パックを潰す先輩に鋭い視線が刺さる。先輩はそれを穏やかに受け止めて、「わかってるって」と目を細めた。

「別にな。俺だってなんでもかんでも先延ばしにするわけじゃないよ」

 本当かよ、という狗神先輩の疑わしげな声に、ほんとほんと、と巳山先輩は軽く返す。

「準備ができたらちゃんとするさ」

 ね。と笑う巳山先輩に狗神先輩は何も言わず、ただ息を深くついて椅子に背中を預けた。巳山先輩もそれを見て小さく息をつく。

 と、言うわけで。と巳山先輩の視線がこっちを向いた。

「狗神がごめんな。急かす訳じゃないけど、食後に話をしよう」

「はーい」

 雪兎がストロー片手に返事をして。叶夜ちゃんもはい、と小さく頷く。

 牛若君と私もはい、と答えて箸を割った。


 話とは。多分、朝から話題に上がっていたことだろう。

 職員室に行くかどうか。行くなら誰が行くのか。学生証をどうするか。

 全員で行くのかもしれないし、誰かが代表になって行くのかもしれない。

 

 さっき話していたことを思い出して、叶夜ちゃんをちらりと見る。

 彼女は表情を少しだけ硬くして、サンドイッチの角をかじっていた。


 □ ■ □


 部室の時計が1時を過ぎる頃。

 みんな席について話が始まるのを待っていた。


「揃ったね。っていう程でもないんだけど。じゃあ早速話をしよう」

 巳山先輩がホワイトボード前の席について話し始めた。

「現状。俺達は手詰まりに近かった」

 そう言いながら両手を組む。

「けど、子津ちゃんが目を覚ましたことで、部員全員が揃った。だから、次の段階へ進めるんじゃないかって考えてる」

 つまり職員室や図書室の解放だ。と先輩は続けた。

「4人は知ってるよな。準備室や倉庫みたいな教師がメインで使う部屋って、大体セキュリティが強化されてる。それもキーだけじゃなくて物理的にもだ」

 物理的に?

 私が首を傾げたのに気付いた雪兎が「そうなんだよ」と答えてくれた。

「シャッター閉まってたり、監視カメラとかセンサーと連動して、警報装置が作動したりするの」

「へえ……」

 警報装置だけならいいんじゃないかなと思ったけど、そうではないらしく。

「それで怪我しちゃったりすることもあるから、気をつけてね」

 と、付け足された。

 相当厳重になっているらしい。実感はないけど、雪兎の声にいつもの跳ねる感じがなくて、警戒心の強さを感じる。

 うん、と頷いて先輩の話に戻る。

「まあ、新しい部屋に行けたとして、そこで実際どうなるかは分からない。とりあえず、午後は俺と叶ちゃんで様子を見てこようと思う」

 先輩の声に、叶夜ちゃんの背中がぴっと伸びたように見えた。

 名指しされたことに驚いた、という感じはない。どっちかというと呼ばれるのが分かっていた故の緊張に見えた。


 ああ、彼女もこの学校で過ごしてきたんだ。と私との差をなんとなく感じる。

 危険を察知する能力が高いと言っていたから、こうして一緒に調査に行くことだってよくあるんだろう。

 新しいものを見つけて、今まであったものを失って。

 それでも前に進まなきゃいけなくて。

「……」

 そこには、さっき不安に泣いていた叶夜ちゃんはいなかった。

 じっと見られていることに気付いたのか、視線がこっちを向く。

 私はよっぽど心配そうな顔をしていたのだろう。大丈夫ですよ、と言うように彼女は笑った。


「今日はとりあえず解錠と室内の配置確認だけ。本格的な調査はその後――明日くらいかな。全員でやるつもり。あとは普通に見回りして戻ってくるよ。夕方には報告できると思う」

「それじゃあ、他の人は?」

 雪兎がはーいと手を上げて質問を投げる。

「いつものように見回り?」

「そうだね。学生証は預かるつもりだから、あちこちは行けないだろうけど。あ。狗神と若君は寝てろよ?」

「ああ」

 短く答える狗神先輩と、こくんと頷く牛若君。

 どうしてだろうと思っていると、「2人は、夜当番だったんです」と叶夜ちゃんが教えてくれた。

「夜……」

 言葉から察することしかできないけど、夜通し起きてたのかもしれない。

 2人の様子を伺ってみる。狗神先輩は変わりなさそうだけど、牛若君は眠そうと言うか疲れてるように見えた。

 よくよく考えたら。昨日、牛若君は私達と一緒に寮に戻らなかったし、巳山先輩は狗神先輩に「おはよう」とは言ってなかった気がする。

 それはつまり。寮に戻らず部室にずっと居たってことだ。

 あれ。もしかして私以上に寝た方がいい人だったのでは? という疑問が湧く、きっと、午前中は私が寝てたから寝られなかったんだ。そう考えると、ちょっと申し訳ない気持ちが……なんて考えていると。

「子津。余計なこと考えんな」

「……はい」

 狗神先輩に突っ込まれてしまった。

 いや、寝不足の心配は別に余計ではないような……とも思うんだけど、先輩からするといらない物なのかもしれない。ううん。そうなのかなあ。

「先輩素直じゃないなあ」

 雪兎がぽそっとつぶやき、「じゃあ、僕はつぅちゃんと見回りだね」と話題を戻した。

「そうだね。お願いしたよ」

 頷く巳山先輩に「はあい」と元気よく返事をした雪兎は、私の方をひょこりと覗き込むように身体を傾け、にこりと笑った。

「大丈夫。見回りって学校内ぐるっと回るだけだから」

「うん」

「学校案内だと思って。早めに戻ってきて2人の寝顔見よう」

「う、うん?」

 思わず頷いちゃったけど、それは少し怖い気もする。特に狗神先輩。

 先輩の方をちらっと見てみると、前髪と眼鏡の隙間から何か言いたげな視線がこっちを向いていた。


 うん、ばっちりバレてる。後で雪兎は止めとこう、とこっそり決意した。

雪兎は怖いもの知らずなところがある。

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