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三枝高校十二支部 -Project Z-  作者: 水無月 龍那
2:十二支部の活動
16/32

歩み寄るための一言

「……んぅ」

 目が覚めた。身体を起こして、目をこする。

「目、覚めた?」

「うん……覚めた」

 ぼんやりとした頭のまま、声に頷き。声が違うと気付いて顔を上げた。

「……」

「あれ、つぅちゃんまだ眠い?」

「……雪兎だ」

「うん」

 てっきり叶夜ちゃんだと思って答えたのに、目の前に居たのは雪兎だった。机に身を乗り出すようにして、こっちを覗き込んでいる。

 横を見ると、叶夜ちゃんが居た。

 前を向くと、雪兎がにこにことしている。

 少し向こう、入り口付近では牛若君が何かを片付けていた。

「戻って……きてたんだ」

「もうすぐお昼だからね」

「そっか、お昼……」

 ああ、だから戻ってきてたんだ。頭もだいぶ覚めてきた。

 そして、覚めた頭がひとつの疑問を投げかけてくる。


 Q:雪兎が居ると言うことは、他に誰が居ますか?

 A:


「……!」

 目が覚めた。それはもう、ばっちりと。

「つぅちゃんつぅちゃん。巳山先輩なら居ないよ?」

「えっ」

 いや、別に先輩は関係ないよ! と言おうとしたけど、雪兎の笑顔を見るに隠し事は無用のようだ。大人しく認めて「そっか」と頷くにとどめた。

「えへへ、つぅちゃん分かりやすいねえ」

「……うるさいよ」

 文句も通用しなかった。ただ、なんか嬉しそうな顔で私の前を離れていった。

「先輩達はお昼買ったら戻ってくるって。戻ってきたら僕達も買いに行こう?」

 そうだね、と答えながら毛布をたたんでいると狗神先輩が戻ってきた。いくつかのパンと紙パックの飲み物を抱えて入ってきた先輩は、机の上にそれらを置いて席に着く。

 眼鏡の向こうにある鋭い視線がこっちを向いて、すぐ髪に隠れた。

「百瀬もすぐ戻ってくるだろうし、お前らも行ってこい」

 そう言いながら、パンの袋を前に手を合わせ、片手で器用にストローを挿す。

「はーい。二人とも行こう?」

「うん」

「あ、はい」

 牛若君の姿はない。部室の外で私達を待っているようだった。

 あんまりお腹空いてないなとか、日曜だけど売店空いてるのかなとか、ぼんやり考えながら部屋を出ようとしすると。


「あ、あの」

 叶夜ちゃんが足を止めて室内へ振り返った。

「あ?」

 パンを持ったままなんだよという視線を返す狗神先輩に、叶夜ちゃんは少しだけ言葉に詰まったようだったけど。

 小さく息を吸って、こう声をかけた。

「狗神先輩は、ひとりで大丈夫。ですか?」

「――」

 その一言が意外だったのだろう。狗神先輩の視線が固まった。

 ついでにパンを口に運ぶ手も止まった。手にあったから大丈夫だったけど、タイミングによっては口からぽろっと落ちてたと思う。

 けど、それは一瞬のことで。すぐに先輩の目つきはいつも通りになった。

「……この部屋にオレひとりは珍しくもないだろ」

「そう、なんですけど」

「なら、別に普段と変わんねえよ」

 素っ気ない言葉と共に目を伏せてパンにかぶりつく先輩。叶夜ちゃんはというと「そう、ですね」とちょっとしょんぼりしていた。

 ああ先輩。それは良くない。叶夜ちゃんは察しのいい子だけど、それは伝わらない。というか、先輩のいいとこ知らないと9割誤解するやつじゃないかと思うんですが……!

 何か言うべきか、いや、下手に口を出してはいけない気がする。でも……とぐるぐるしてると。

「狗神ー。そこは素直に「ありがとう」だろ?」

 ちょっと呆れ気味な声で助け舟が帰ってきてくれた。


 帰ってきた助け舟こと巳山先輩は、すたすたと狗神先輩に近付くが早いか、背後から肩を抱くようにその首をロックする。ぐえ、と小さな声が聞こえた。

「せっかく叶ちゃんがお前を心配して、勇気出して声かけてくれたってのにさ。俺、それは良くないと思うなあ?」

「……」

 先輩は少しだけ黙った後溜息をついて、こっちを見た。

「叶夜」

「は、はい」

「……心配、どうも」

「よし」

 巳山先輩のロックから解放された先輩は、溜息をついて「ほら、百瀬も戻ってきたからさっさと行ってこい」と、私達を追い出すように付け足した。


 □ ■ □


「紬先輩」

「ん?」

 歩いていると叶夜ちゃんがぽそりと声をかけてきた。

「わたし。さっき、狗神先輩に言ったの……よく、なかったでしょうか」

「へ? なんで?」

 うっかりそんな声が出た。

 瞬きをして隣を歩く叶夜ちゃんを見る。ちょっとしょんぼりしてる肩に、細い髪が流れている。

「そんなことないと思うよ?」

 そもそも、歩み寄ってみたらと言ったのは私だ。彼女はそれを行動に移しただけだ。悪いなんてあるわけない。

「うん。あれは多分、叶夜さんから話しかけられてびっくりしただけじゃないかな」

 雪兎と並んで歩く牛若君の意見に「そうそう、そんな感じ」と頷く。


 あのピタリと動きを止めてしまった先輩の姿を思い出す。

 うん。あれは多分びっくりしてた。予想外で反応できなかったんだろうだなあ。という気がする。


「びっくり、ですか」

「うん」

 顔を上げた叶夜ちゃんの目がぱちりと瞬く。

「多分だけど。先輩、叶夜さんから心配されるなんて思ってなかったんでしょ」

「そうそう。そんな感じだったよねえ」

 雪兎もうんうんと頷く。「それに」と叶夜ちゃんの方をちらりと振り返り。

「未来ちゃんは心配して言ったんでしょ? それなら大丈夫だいじょうぶ」

 にこりと笑ってピースして見せた。

「だいじょうぶ……」

 それでもまだ心配そうな声で繰り返す叶夜ちゃんに、全員が頷いて同じ言葉を口にした。


「うん。大丈夫。狗神先輩だし」

だって狗神先輩だもの。

よく見ると分かりやすい人なのか、周りの観察眼が高いのがは不明。

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