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三枝高校十二支部 -Project Z-  作者: 水無月 龍那
2:十二支部の活動
13/32

武器を選ぼう

「さ、子津ちゃんとりあえず狙ってみようか」

 そんな言葉を前に、私はすっかり固まっていた。


 朝からみんなで今日の行動を確認して。

 私達は第二体育館――だった場所へと向かった。

 

 部室がある建物の2階。外から見ると何も変わってないように見えた体育館だけど、中は半分くらいの広さしかなかった。

 真ん中が大きな壁で仕切られていて、左右二箇所に小さな窓がついたドアがある。中は暗くて見えないけど、射撃場や倉庫があるのだと教えてくれた。

 牛若君と狗神先輩は武道場の方に行ってしまったけど、巳山先輩と雪兎はステージ前に私と叶夜ちゃんを待たせて、どこからともなく持ってきた物を並べ始めた。


 数種類の銃。

 大小様々な刃物。

 バットに竹刀に木刀……並べたら武器のように見えそうなもの各種。


「この中からいくつか試してみて、一番合ってそうなのを持っといて」

「あの。これって、あの」

「うん」

 先輩は頷く。その腰には今日も当たり前のように短刀が下がってる。


 うん。確かに昨日そんな話をしていた。

 武器を考えといてとも言われてたけど、色々あってすっかり忘れていた。

 というか、目の前に並ぶこれらは本物なんだろうか? いや、多分本物なんだろうけど、こうやって簡単に並べられると分からなくなる。

 自分に合う武器なんて言われても……と、立ち尽くしていると、雪兎がひょこりと視界に入ってきた。

「びっくりしてるね」

「まあ……うん」

 頷いた顔はすごく困ってたんだろう。雪兎は「大丈夫だよ」と頷く。

「全部本物だから使えるよ」

「大丈夫ってそこじゃないよ!?」

 思わず返した言葉に、雪兎はうふふと笑った。

「実際に使うこと考えちゃうと怖いから、お守りだと思えばいいよ。使い方は誰かが教えられるし、練習もするし。心配しなくても大丈夫」

「う、うん」

「それで、つぅちゃんはどれが好きとかある?」

「そもそも持ったことすらないんだけど……?」

 もちろん現物だって見たことがない。いや、バットとか竹刀くらいはあるけど、武器として使う日が来るなんて考えたことなかった。

 そんな私の反応に、雪兎は「まあそうだよね」と言いたげに笑った。


 並んでる武器に向き合ってみる。私にはどれがいいのかさっぱりだ。

 ゲームだと魔法使いが好きだけど。そんなものないし。

 そうすると射撃とかなんだろうか? それでも種類がある。


「二人は何持ってるの?」

 とりあえず聞いて参考にすることにした。

「ん? 僕はナイフ。サバイバルナイフみたいな、ちょっと大きいの」

 そう言って彼はくるりと後ろを向く。コートをめくると、背中のベルトに大きな鞘があった。腰の幅に収まるサイズだったから全然気付かなかった。

 叶夜ちゃんも「銃を持ってます」とポケットのあたりを押さえながら教えてくれた。

 牛若君と狗神先輩は? と聞くと、あの2人は固定の武器を持たないのだと返ってきた。

 牛若君はすぐに壊してしまうからその辺にあるものを使うことが多く。

 狗神先輩は一応ナイフを持ってるけど、そもそも武器をあまり使わないらしい。

「なるほど。それで、雪兎と叶夜ちゃんはなんでそれにしたの?」

 質問を重ねてみる。

「僕は、近くでも使えるから。あと、すぐ取り出せるし便利かなって」

「わたしは」

 叶夜ちゃんの表情が曇る。なんか嫌なことを思い出させてしまっただろうか。ドキドキしながら続きを待つ。

「刃物で誰かを傷つけてしまったら。料理が、できなくなりそうな気がして」

「なるほど。料理……」

 それは意外な答えだったけど、叶夜ちゃんらしい気もした。


 □ ■ □


 そして。

 私の手には銃がひとつ。

 目の前には的がひとつ。

 ゴーグルとか付けられて。

 隣には巳山先輩と叶夜ちゃんがいて。

「さ、子津ちゃんとりあえず狙ってみようか」

 なんて言われてすごく困っていた。


「弾は抜いてあるからとりあえず引いてみな」

「はい……」

 先輩はそう言うけど、そう言うけど。と、的に向けるだけ向けて動かせない銃を見る。

 世の中、銃を実際に撃てるところがあるらしい、と聞いたことがある。

 そりゃあ、世界には必要な場所だってあるし、身近な所だとお巡りさんが持ってたりする。練習する場所も必要だと思う。

 でも。でもですよ。私、そんなのに縁がある生活をしてたことはない。きっと将来もそのはずだった。

 先輩の話や今の状況を信じるなら、縁のある生活と言うのは今なのかもしれない。叶夜ちゃんも実際に撃つところを見せてくれた。けど、そうじゃなくて。もうちょっとこう。心の準備とかが欲しい。いや、今がその時なんだろう。心の準備、深呼吸……と言い聞かせながら手の中の小さな銃を見つめる。

 

 私は銃を選んだ。

 人を刺した。傷つけた。そんな感触が手に残るのも怖かったし、なにより、刃物の傷は経験がある。比べ物にならないくらい小さい傷だけど、その痛みが分かるからこそ怖かった。

 銃も同じくらい怖いけど、経験がない方が鈍感になれる。そんな気がした。


 小さいものを選んだけど、こうして構えてみると重い。ずしりとくる感覚が、おもちゃじゃなくて本物だぞ、と言い聞かせてくる。

 でも、怖がってばかりじゃいけない。大丈夫、怖くない。弾も入ってないし、練習だと言い聞かせながら、教えてもらった通りに安全装置を外す。

 目標を合わせて、引き金を引くと――かちん、と音がした。

 映画とかで見るような音や煙はない。ただ、金属の動く音がした。それだけだ。

「……」

 拍子抜けしてしまった私を見て、先輩はうんうんと頷きながらそっと手を乗せて、銃口を下に向けた。

「うん。よくできました」

「……はい」

「どう? 撃ってみて」

 両手で握ったままの銃を見下ろす。小さな銃は撃つ前と変わらずそこにある。

「なにも、感じないなって。思いました」

 私の答えに先輩はうんうんと頷く。

「空撃ちだとな。実際はもっと反動とかくるけど、それはもうちょっと後にして。まずは」

 と、先輩と叶夜ちゃんは、私の今の撃ち方の問題点をいくつか教えてくれる。

「それじゃあ、もう一度」

 はい、と頷いて構える。撃つ。教えてもらう。

 それを何度か繰り返したところで、今日はおしまいということになった。


 最後に実弾を入れて一度だけ撃たせてもらったけど、思った以上に怖かった。音も反動も大きくて。震えてるのか痺れてるのか分からなくて、しばらく手が動かせなかった。

 これを普通に扱えるようになるんだろうか、と不安になったけど、先輩はこの短時間でこれだけできるなら上出来だと褒めてくれた。


「よし、後の時間は部室で叶ちゃんに手入れの仕方教わっといてな」

「はい」

「あと」

「?」

「慣れるまで必要にならないことを祈っといて」

「はい……」


 私だってそんな状況になるのは避けたい。できるだけ平和でありますように。

武器:基本的には護身用。

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